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【気ままな読書日記】Audible イラク水滸伝(第28回植村直己冒険賞受賞作品)

こんなに面白い旅行記はなかなかないと思う!
Audible1.5倍速で聴いても12時間以上かかるボリュームなのですが、途中で一度も飽きたりしなかった。
星5つ!

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

アフワール(اَلْأَهْوَار, al-Ahwār, アル=アフワール)
イラク南部からイラン南西部にかけて広がる湿地帯。
古代メソポタミアのシュメール文明が栄えた地であったことからイラク南部の同地域では複数の考古遺跡が見つかっている。2016年には国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)によって3つの遺跡と4つの湿地帯を含む同エリアが世界遺産に登録[1]された。

Wikipedia

アフワールには古くから水の民(自称シュメール人の末裔)が暮らしている。加えてそこは『戦争に負けた者や迫害されたマイノリティ、山賊や犯罪者など』が逃げ込んでくる場所でもあるらしい(タイトルに『水滸伝』とつくのはこのため)。

バッタ先生のアフリカ記を読んだ時もそうだったのだけど、どうも向こうの世界はバリバリの氏族社会(である例が多く)、今回の目的地イラクもそう。
イラクの場合、入国時に現地の身元引受人が必須になるそうで、『どこそこの氏族のだれだれの客分』という肩書?が他の何よりも圧倒的絶対的に必要になる。これがないと外国人はどこにもいけないし何もできない。うっかり単独行動でもしようものなら「スパイの疑いあり!」とみなされて、秘密警察が取り調べにくるような世界らしーのです。

そんなかんじのヤバ・・・・いえ、スゴイ国イラク。しかし、この本を聴き終える頃には結構な親イラク派になってる自分がいて驚く。
行っても絶対に馴染めないだろーし(陽キャ向きのお国柄なので)、そもそも私のような一般庶民にはイラク渡航の機会など一生ない。
そんな私が言うのもアレですけども、イラクって面白い国!

2018年。タカーノ先生(著者)と山田隊長(日本探検界のレジェンド)は、湿地帯の民を取材すべく念願のイラクへ。
現地の舟大工さんに作ってもらったタラーデ(4000年以上前から作られている三日月形の舟)で湿地帯を巡る(予定だったけど、計画はほぼ頓挫)。

鯉の円盤焼き、水牛の絶品クリーム、湿地帯に浮かぶ浮島の作り方、マーシュアラブの刺繍布にタラーデ作り。
紹介されるエピソードの一から十までがいちいち面白く、珍しい。

そんなイラク旅の全編を貫くキーワードが湿地のブリコラージュ精神。
とりあえず手をつけてから、後はやりながら考える。さしむき手元にあるものを使って間に合わせ、ノリと気合と行動力で「なんとかしちゃう」のが湿地流。
逆算しないし、見通しも立てない。何をする時も段取りなどゼロ。

でもそこには、過剰にエンジニアリングと計画性に集中しすぎている日本人が見失っているものがあるかもしれない。

やったものはやらないものより常に偉い。少なくとも私はそう思う。

『イラク水滸伝』を聴きながらずーっと思ってた。
湿地民の方々ってストレス値が低そうだな、と。
現代日本に蔓延する効率的生産的な「こーすべきこーあるべき社会」とは対極の世界。
日本人、もう少し休んだほうがいい。
うちの夫もそうだ。土日無休で年間4~5日しか休まない彼には、一度アフワールを旅して水牛と戯れ、葦の浮島に寝転んで雲でも眺めてみることをオススメしたい。

最後に、湿地の皆さんへ贈るタカーノ先生のことば。

ジャーシム宋江そうこうだって最初に会った時言っていたではないか。「湿地帯の将来は暗い。でも今日は楽しもう」と。
今を楽しく生きる。やれることをやる。それが水滸伝の好漢たちの心意気だ。彼らはきっと何かやってくれる。あるいは何もしないうちに何とかなる。そう信じて本書を彼らに捧げたい。

あとがきより

98/200

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