『若きウェルテルの悩み』読書感想文
ロッテへの愛は一番神聖な純粋な兄妹のようなものじゃなかったか。
引用:若きウェルテルの悩み-166ページ
『若きウェルテルの悩み』を読了しました。
こんなIQ4みたいな感想ツイートはしたんですが、非常に強く印象に残った作品なので、こちらでも感想文を書く事にしました。
あらすじ
ゲーテ自身の絶望的な恋の体験を作品化した書簡体小説で、ウェルテルの名が、恋する純情多感な青年の代名詞となっている古典的名作である。許婚者のいる美貌の女性ロッテを恋したウェルテルは、遂げられぬ恋であることを知って苦悩の果てに自殺する……。多くの人々が通過する青春の危機を心理的に深く追求し、人間の生き方そのものを描いた点で時代の制約をこえる普遍性をもつ。
引用:若きウェルテルの悩み
ウェルテルの最期について
私はウェルテルのように胸を焦がすような恋愛をした経験はありませんが、彼が死に引きずられていく様は非常に共感できるものがありまして。
これは説明するのが少し難儀なのですが、ウェルテルはいわゆる「認知の歪み」というものに囚われていたのではないかと感じました。
認知の歪み(にんちのゆがみ、Cognitive distortion)とは、誇張的で非合理的な思考パターン(irrational thought pattern)である。これらは精神病理状態(とりわけ抑うつや不安)を永続化させうるとされている。
引用:Wikipedia
私は精神科医ではありませんので、残念ながら詳しい解説はできません。
ですが、かつてこの思考パターンに陥っていた者として、ウェルテルの手紙(こと末期のロッテに対する想いを綴った内容)には鬼気迫るものを感じました。
成就不可能な恋に執着するあまり、ウェルテルは0か100かでしか物事を判断できなくなり、次第に「死」こそが問題を解決する最良の選択だと考えるようになっていたのではないかと。
天上の神様よ、人間は物心のつかぬ以前か、分別を再び失ってしまった以後かでなければ幸福にしていられない。あなたはこれを人間の運命ときめたのですか。
引用:若きウェルテルの悩み-139ページ
川沿いで狂気に溺れた男に出会った時、ウェルテルはこのような祈りを手紙に残しています。
ウェルテルはしばしばこのようにして神に祈るのですが、ひょっとして彼は、ロッテへの思慕や葛藤を「神への祈り」として発散しているのでは――と感じました。
あなたのために死ぬという幸福にあずかりえたならば。ロッテ、あなたのためにこの身をささげるという幸福に。
引用:若きウェルテルの悩み-190ページ
そして、この遺書を書いてまもなく、ウェルテルは自殺を決行するのですが、今際の際の彼は幸せだったのでしょうか。
愛するロッテが手渡した銃によって葬られることが、ウェルテルが望んだ幸福であったのか――。
本作を読んでから、そのことばかりを考えています。
なぜウェルテルは自殺し、ゲーテはそれを免れたのか
本作を読んでいる最中、思い詰めた人間の心の深奥を繊細に描写されていたことがとにかく印象的でした。
ゲーテはなぜこれほどまでに病んだ人間の心情を理解しているのだろうと疑問に思っていたのですが、解説によれば本書は彼の恋愛体験と友人の自殺を結びつけて書かれたものだとか。
なるほど、作中でウェルテルが翻弄される境遇や悩みは、ゲーテ自身の経験によるものだったのか、と納得しました。
自身の恋愛体験によって情緒不安定となったゲーテも自殺を考えていたようですが、ウェルテルと異なりゲーテが自殺する事はありませんでした。
ゲーテとウェルテルの決定的な違いについては、次の一節に如実に現れていると感じます。
『ウェルテル』創作は、作者自身の青春の危機を乗りこえるための作業になった。
引用:若きウェルテルの悩み-207ページ
つまりゲーテは、創作活動に没頭することによって挫折から立ち直ったのです。
同じ境遇にも関わらず、ウェルテルだけが自ら命を絶つ結果になったのは、ウェルテルにはゲーテのような危機を脱出する手段がなかったからでしょう。
もちろん、ウェルテルもウィルヘルムとの文通によって、自身の心情を赤裸々に書き綴っていたことは本作を読めばよく分かります。
ウェルテルの文通とゲーテの創作活動は、非常に近しい行為だったと考えていますが、それでもウェルテルは自死を選びました。
ウェルテルの一連の行動を鑑みるに、ゲーテが創作活動を通じて自殺を免れたのは、彼の驚異的な精神と才能によるものではないかと感じます。
既婚者のロッテに横恋慕するウェルテルは、気の狂った男として描かれていますが、彼の苦悩に共感する人は多かったのではないでしょうか。
改めて本作序文を読んでみると、この言葉には深い意味が宿っているなと感じました。
ウェルテルと同じように胸に悶えを持つやさしい心の人がおられるならば、ウェルテルの悩みを顧みて自らを慰め、そうしてこの小さな書物を心の友とされるがよい、もし運命のめぐり合せや、あるいは自分の落ち度から、親しい友を見つけられずにいるのなら。
引用:若きウェルテルの悩み-4ページ
『若きウェルテルの悩み』は、人類普遍の悩みを描いた良書だったと感じます。
文学的な表現も多く、読書をする習慣がない方にはハードルが高い作品だと思いますが、より多くの方に読んでいただきたい作品だと思いました。
奥付
題名:若きウェルテルの悩み
著者:ゲーテ(訳・高橋義孝)
発行:株式会社新潮社
初版:昭和26年(1951年)1月28日
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