「アフターデジタル2 UXと自由」~UXを起点にDXの解像度を上げる~

日々の読書に記録を、メモ程度の備忘録として残していきます。

アフターデジタル2 UXと自由 / 藤井 保文(著/文)

前回こちらで「DXの思考法」をもとに、DXで考えてみたが、今回も引き続きDXについて考えていく。

この本は名前の通り、前著「アフターデジタル」の続編である。前著も読んだが、「アフターデジタル」「OMO(Online-Merge-Offline)」「UXグロースハック」といった概念については納得しかなかった。特に「OMO」において、オンラインとオフラインを融合させるという意味合いの先に、そもそもユーザにとってはデジタルかリアルかなんて関係がなく、ただ便利なサービスを選ぶだけなんだと喝破する点については、驚きを受けたとともに、言われてみればその通りだと思わずにはいられなかった。(その一方で、その二つを分断して考えている話がどれだけ多い事か、、、)

そんな前著も非常に興味深かったが、その続編となる今作はもちろん地続きになっている。中国での例などを用いながら、UX起点のDXについて紹介される点などは前著同様、驚く点が多いのだが、今作の重要なポイントは以下だろう。

本書では、アフターデジタルという世の変化に対して、私たち が持つべき「精神」 と「ケイパビリティ」(能力と方法論)を提示しています。

藤井 保文. アフターデジタル2 UXと自由 (p.4). 日経BP. Kindle 版.

UXを起点にすることは分かった。じゃあデータを集めよう。という短絡的な話ではない。データは集めればいいってものではない。むしろ、無駄なデータ、余分なデータを持つと逆効果になると思っている。使っていないのに、データ量は増えていくが、不要とは判断しづらくなり、それが故に必要なデータが選別しづらくなって、全体のデータの質が落ちていくという悪循環に陥るからだ。大事なのは、データをUXに還元すること。その思考と仕組みが必要なのだ。それがなければ、データなんて負の遺産にしかならない。

UXという視点でみれば、この本は執筆過程がネットに公開されたという点は非常に面白い。(現在でも完成形は全文観れるようだ(!))

書籍執筆において、既存のやり方を是とせず、より良いUXを追求すること、そしてそこで得られたデータを次に繋げていく。これがまさしくこの本で主張されている「UX型DX」であり、それを体現していると言えるだろう

余談だが、著者の藤井保文によるニュースレターが無料で登録できるのだが、これがなかなかに面白い。もちろん中心はUXの話なのだが、かなりジャンル横断的に色んな話に触れながらUXを語っているので、読み物として普通に面白いと思う。無料かつ2週に1度という頻度なので、興味がある方は是非登録してみると良いと思う。


最後に、なんだか「DXの思考法」におけるDXとはまた全く違う話だなと思う方もいるかもしれない。確かに違うと思うが、やはりDXと一括りに言っても、どこに着目するかで話は大きく変わってくるのだと自分は捉えている。「DXの思考法」でも「アフターデジタル2 UXと自由」でも、最終的に目指す絵姿に違いはそうないだろう。しかし、そこに至るまでの道筋というか切り口が違う。前者はまずはシステムの蛸壺化をどうにかしなきゃいけない、後者はUX起点からサービスや仕組みを捉えていかないと言っている。これは全く矛盾しない話だろうと思う。どこに重点的にポイントを置くかだけの違いではないだろうか。UX起点でサービスを考えたときに、出来るだけ素早くフィードバックを回せる仕組みは必須になると思うが、それが出来る仕組みというのは、システムは適度に抽象化されており、シンプルな設計になっていることを満たしている必要があるだろう。(あるUIを変えることで、もしくは入力項目を一つ増やすだけで、どれほどの影響があるかもよく分からないのが、レガシーシステムたちの現在地だ)
また、UXというのは、ある一つの個別のUXというものではなく、サービスや組織を超えたものであるべきだし、そうでなければ効力を発揮できないだろうと考えれば、それは十分に抽象化された仕組みでなければいけない。データについては言わずもがなである。(一つの会社のあるアプリだけめちゃくちゃUXが良くて、良いデータが取れていたとして、他のアプリにそれが活かされなければ、どれほどの意味があるだろうか?)

確かに色んなDXがあって、混乱しがちだし、物によってはまるで意味の分からないDXの話をしているケースもある。しかし、ある程度ちゃんとしたDXの話については、どれが間違いでどれが正解というものではないと思う。重要なのは、そのDXを自分の身体の文脈に落とし込んで、自分の視点から捉えなおすこと、解像度を上げていくことなのだと思う。

参考

beBit藤井氏が語る、アフターデジタルの世界での顧客エンゲージメントの在り方とは?【CEC next 『アフターデジタル2』出版記念講演】 - engagemate(エンゲージメイト)

なぜ『アフターデジタル2』は 執筆過程をネット公開したか? : UX 時代における書籍制作の DX 実験 | DIGIDAY[日本版]

【書評】コロナ禍を経て続編がリリース 『アフターデジタル』シリーズが“オフラインのない世界”を描く | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん


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