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「頭の中の音読」癖が学習効率を下げる

読解速度の遅い生徒との会話

教員、特に担任をしていると教科以外の学習相談を受けることは多々あります。

学習の悩みや時間管理など多岐にわたるのですが、中でも多いのが文章読解力に関する相談です。

その多くが、国語の文章が読み終わらない、焦って読むと内容が入ってこない、というものです。

そうした生徒と話をするうちに気づいたことがあります。

それは、彼らの多くが「頭の中の音読」をしているということです。

文章を読むときの習慣

文章を読むときの習慣は、小さいころに親や教師から教えてもらった後はあまり誰かと話題にする機会は少ないのではないでしょうか。

本の内容について話すことはあっても、読み方について話す機会はそうないでしょう。

そもそも、読み方は可視化しにくく、どのようなプロセスを経て理解するのかは専門的過ぎる話なのかもしれません。

先述の「頭の中の音読」については、私自身や担任のクラスの生徒で確認する限りでは音読派の読解速度が遅い傾向にあるようです。

「頭の中の音読」が読解速度を下げる理由の考察

実際の「頭の中の音読」(以下音読)に関しての医学的、心理学的な説明はあるのでしょうが、教育現場における観測から理解のプロセスを考えてみます。

  • 音読しない: 文章 → イメージ → 理解

  • 音読する : 文章 → 音声言語 → イメージ →理解

音読をしない場合、文章を言語から映像的なイメージとして直接変換して理解するように感じます。

音読をする場合、文章を音声言語として翻訳し、その後それを映像として変換して理解するようです。この時点で、プロセスが一課程多いことが速度低下に影響しているのではないかと考えられます。

さらに、この音声言語の翻訳プロセスが実際に「声に出して読む」のと同じ速度に制限を受けてボトルネックとなり、読解速度を落とすことになっているように考えられます。

従来,音読では逐語的記憶が優れ,黙読では意味理解が優れるという結果が一貫して確認されてきた。本研究の結果もまた,これを追認するものであった。こうした結果の背景にあるメカニズムは,音読の注意配分機能に
よって説明することが可能である。すなわち,従来用いられてきた逐語記憶課題では,単語に多くの注意を向けることが求められるため,音読の注意配分機能が働き,音読優位となると考えられる。一方で,多くの意味理解
課題は,個々の単語に注意を向けなくても遂行することが可能である。そのため,音読の注意配分機能は有効に働かない。更に,発話によって処理資源が制限されるために,音読の方が不利となり,黙読優位となるのではないだろうか。

日本認知心理学会発表論文集 2010
音読は文章理解に有効か
國田 祥子  岡 直樹  黒田 智広

どうやら音読と黙読関しては逐語的記憶と意味理解での差異などに関する知見が得られているようです。しかし、頭の中の音読に関しては見当たりませんでした。

文章量が増える入試

読解速度に関しては、これまでも問題意識を抱えた生徒は多かったのですが、最近になってその悩みを口にする生徒が増加しています。

これは「大学入試共通テスト」(以下共通テスト)の影響が大きいと考えられます。

それまでの「大学入試センター試験」(以下センター)と異なり、共通テストでは国語だけでなく複数の教科で問題文章や説明文が長文化しています。

そのため、今までは国語が苦手、ということで済ませていた層の人たちが複数教科で点数を落とすということから問題が顕在化したようです。

英語読解やリスニングにもつながる

英語長文の読解に関してもこれらは関連する技能、能力です。

実際、長文を読む段階で音読をしている場合、意味が頭に入ってきません。

そもそも英語の単語や文構造で理解を妨げているため、逐次訳をするとさらにイメージ変換までの時間がかかってしまうでしょう。

リスニングも1回読みの問題が増加したため、英語そのものの難化もあれど、聞き取ること自体が難しくなっています。

そのため、文章や音声からいかに素早く情報を整理しイメージ化するか、という能力が問われています。

今後求められる(と現役世代が考えている)能力

では、なぜ問題文章が長文化しているのでしょうか。

それは今後、今よりも高度な情報処理能力が求められる(と現役世代が考えている)からです。

オンラインストレージと自動同期、常時接続可能なデジタルデバイスを利用する場合、何を覚えているか、よりも外部記憶のデータにいかに早くたどり着くかが重要となります。

このあたりの考え方が根底に流れているため、共通テストの方向性が全ての教科で統一された出題方針となっているのでしょう。

したがって読解速度の向上は、ここしばらくは必須の技能となるはずです。

「頭の中の音読」から卒業するには

この有効な方法として、指差し読みが考えられます。

ただし、読んでいるところを指さすのではなく、読む速度よりも意識的に早く指を指しすということです。

このとき、音読が追いつかない速度を意識すると、考えた速度よりも早く読むことが可能になります。

それ以外には、普段から読書をするときに意識的に音読をしないようにすることぐらいでしょうか。

基本的には習慣的なものになるので、改善する場合は長い時間がかかるのでお早めに。

補足:音読の必要性

ここでは読解速度向上のためには「頭の中の音読」が不要であるとしていますが、音読という行為や学習方法自体を否定しているわけではありません。

あくまでも、特定の条件下において不利な手法である、という主張です。

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