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「教師の魅力アピール」で教員にならない若者たち


教育人材総合支援ポータルでの教員の魅力発信

全国的な教員不足の解消の一手として、文科省は同省が運営する教育人材総合支援ポータルで全国の教育委員会が作成した教職の魅力を発信しているコンテンツの一覧ページを公開した、というニュースが上がっていました。

ここ数年、教員不足が深刻化する中で全国の教育委員会が教員の魅力を伝えようと真剣に作成したサイトがポータルサイトには並んでいます。

さながらオンライン地獄巡り

掲載しているどの県も熱心に教師という職業の魅力を若手の教員に語らせています。

私はこのページのかなりのリンク先の記載と動画を見ましたが、お題目通り教師の魅力は盛りだくさんでした。

しかし、このサイトを主に見てほしい相手はその情報を望んでいるのでしょうか。

正直な話、教師のやり甲斐、魅力、社会的意義を教員という職業を選択肢に入れて、なおかつ大学で教職の課程を履修した人に説明しても全く効果がないのではないでしょうか。

彼らはそれらは知った上で教職を志し、免許取得を目指したはずです。

ところが、何らかの原因によってその道を断念して、教職を諦めたわけです。

その何らかの原因が教師の魅力である可能性は極めて低いでしょう。

主観的に考えて、その何らかの原因の多くは労働条件です。

ポータルサイトの佐賀県のリンク先には福利厚生のページがあります。

確かに公務員の福利厚生が地方の中小企業の社員と比べて恵まれていることは一目瞭然です。

しかしおそらくメインターゲットの国立大学の教育学部クラスの学生は、就職活動をすれば教員の収入や福利厚生を勘案しても、それほど不利にならない民間に就職することは十分に可能です。

ましてここ最近の売り手市場を考えればいわずもがなです。

これらのページには肝心のことが書かれていません。それは、土日が休業日であることと、勤務時間、そして残業手当に関してです。

当然ながら完全週休二日にはなりませんし、一日の勤務時間も8時間となることは稀です。そして給特法によって残業手当はつきません。

そうしたことが書かれていないサイトを見て、現代の若者がどう感じるでしょうか。

おそらく彼らはそうした状況をすでに知っています。大学生のコミュニティの情報網を侮るべきではありません。

したがって、彼らは自分の知っている情報と、HPに書かれた文言を比較してむしろ確信するでしょう。

「教職はやりがい搾取だ、ブラックだ」と。

広報用の動画を見ても平時の就業時間や退勤時間を示す文言はほとんどないのが実情です。

これらの動画、ページは無賃残業を暗に示すだけであり、むしろ巧妙に隠そうとする意図すら感じさせ、ブラック感演出に一躍買っています。

このポータルサイトは、さながらオンライン地獄巡りといったところでしょう。

ちなみに上の動画は兵庫県のものです。放課後の学年会のシーンですが、3:17からのシーンで時計が映っていないことに違和感を覚えるのは考えすぎでしょうか。

魅力とやり甲斐では人は集まらない

私自身教員をしていますが、待遇や労働条件などのすべてに満足しているわけでは当然ありません。

当方は私立学校勤務ということもあり、公立とはまた異なる良さや問題点が存在します。

とはいえ総じて、教職の魅力ややり甲斐は十分に理解しているつもりです。

しかしZ世代の若者に対しそれが職業選択の決め手になるとはどう考えても思えないのです。

彼らは若いという柔軟性とは別にして、それまでの世代、私たちのような40代の氷河期世代やバブル世代よりも良心的で、その一方で組織に対して依存的ではない一面を持っています。
(これは世代間格差というよりも社会全体の豊かさと清潔さが彼らをそうさせたと私は認識しています)

その別の側面は極めて遵法的で、また独立心が高いということです。

彼らは右肩上がりの経済成長を妄信しておらず、若い時の無駄な苦労が年を取ってリターンしないことをよく理解しています。

そんな彼らに脱法的な働き方と、滅私奉公による年功序列の収支均衡は受け入れられるわけがないのです。

若者は「教師の魅力アピール」で教員にはならない

繰り返しになりますが、私は教員という職業に魅力はあると思っていますし、事実その魅力は現代の若者にも通用するものだと感じています。

しかしそうしたことを彼らは分かったうえで教職以外の道を選択しています。

だからこそ、今やるべきは魅力アピールなどという釈迦への説法ではなく、労働条件の改善と労働基準法の遵守といった実利の充実こそが彼らを教職に振り向かせる最も強力な武器になるのではないでしょうか。

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