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2024年4月に改正される「障害者総合支援法」で使える障害福祉サービスを紹介

障害を持つ人は「普通に生活する」ことが難しく、必要なことややりたいことがあってもなかなか容易には実現できません。その困難さを和らげ、さまざまな支援を受けられるようにするためにあるのが、障害者総合支援法の中で定められている障害福祉サービスです。

障害福祉サービスにはさまざまな種類があり、目的や希望に応じて利用することができます。一方で、どんなサービスがあるのか、どうやったらサービスを受けられるのかなど、分からないことが多いと感じている人もいると思います。

そうした疑問をはじめ、障害者総合支援法についてわかりやすく詳細に解説している『これならわかる〈スッキリ図解〉障害者総合支援法 第3版』が、翔泳社から発売中です。

介護に携わる専門職の人だけでなく、サービスを受ける当事者やその家族、障害者を支援する企業の担当者などが、障害者総合支援法の概要やサービスの利用方法を押さえられる内容となっています。

当事者や関係者にとっては特に、障害者総合支援法で具体的にどんなサービスが規定されているのかを知っておくことが重要です。この記事ではそのサービスの一部を紹介しますので、参考にしていただけると幸いです。

本書ではすべてのサービスのほか、2024年4月に施行される改正法の中身や児童福祉法によって規定されているサービスについても解説しています。障害者総合支援法について理解を深めたいときは、ぜひ本書をご活用ください。

◆編著者について
二本柳 覚(にほんやなぎ・あきら)

京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科講師。修士(福祉マネジメント:日本祉大学)。日本福祉大学社会福祉学部卒業後、精神科病院、就労継続支援B型事業所、日本福祉大学、高知県立大学などを経て現職。専門は障害者福祉(特に精神保健福祉)、社会福祉専門職教育。著書に『これならわかる〈スッキリ図解〉精神保健福祉制度のきほん』(共著、翔泳社)『図解でわかる障害福祉サービス』(共著、中央法規)など。社会福祉士、精神保健福祉士。

◆著者について
鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)

明星大学人文学部福祉実践学科准教授。博士(社会福祉学:高知県立大学)。大正大学人間学部人間福祉学科社会福祉学専攻卒業後、病院のソーシャルワーカー(MSW)を経て現職。MSWとして退院支援や地域連携ネットワーク構築に関する業務を行う。現在は、中山間地域で暮らす高齢者の医療福祉ニーズを中心とした研究を行っている。社会福祉士。

◆本書の目次
第1章 障害者総合支援法ってなに?
第2章 何が変わったの?
第3章 障害者総合支援法で使えるサービス
第4章 障害児のためのサービス
第5章 障害福祉サービスの使い方
第6章 障害者支援には何がある?

障害者のためのサービスを俯瞰してみる

「普通の生活」を送ることが難しい!

障害者と健常者が同じ地域のなかで、ともに生活をしていく。こう書くと簡単そうにも思えますが、実際にそれを実現しようとすれば、そこには多くの社会的障壁があります。

例えば街中。点字ブロックの上に普通に自転車が置かれていませんでしょうか。お店は、車いすでもちゃんと買い物ができるような設備が整っているでしょうか。駅前や大きなお店では大丈夫かもしれませんが、生活範囲は駅前や大きなお店だけではありません。

友人の家に遊びに行くために電車やバスを使う。街のはずれにある雑貨屋さんに買い物に行く。ちょっと遠出して、日帰り旅行に行く。このように私たちが日頃、何気なく行うことが障害があるためにできないということが、社会のなかにはたくさんあります。

障害を持っているのであれば、その部分を補えるようにすればいい。そのためにあるのが、障害者総合支援法(以下、総合支援法)の「障害福祉サービス」と呼ばれるものです。施設から出て社会のなかで暮らす、好きなものを買いに行く、旅行に出る、働きに行く。そんな当たり前で、なかなかできなかったことを、様々なサービスを使うことでできるようにしていくのです。

社会資源は周りにたくさんある

使うのは障害福祉サービスだけではありません。生活について気軽に相談できる場(地域活動支援センターや相談支援事業など)や、コミュニケーション支援など生活をするうえで必要な支援(地域生活支援事業)を受けることもできます。

また制度化されているものばかりでなく、地域のボランティア団体の力を借りたり、隣近所で助け合ったり。私たちが住む地域にある様々な社会資源を使って、ともに生活を「普通に」できるようになることで、初めて同じように一緒に生活しているといえるのではないでしょうか。

居宅介護:在宅での生活をサポートするサービス

在宅生活を支えるサービス

障害者の社会参加を進めていくうえで、在宅での生活を守ることはとても大切な要素です。ですが、障害の内容によっては、一人で生活をすることができない人もたくさんいます。そこで入浴や排せつ、食事などの日常的な介護を提供するのが居宅介護です。よくホームヘルプサービスと呼ばれているものが、これにあたります。

居宅介護は平成15年に始まった支援費制度から規定されていました。そのおかげか、現在でも多くの事業所が居宅介護事業を実施しています。令和3年では2万4462事務所と、障害福祉サービス事業所のなかで最も多いものになっています。どこの町でも、自宅で生活できるような支援を受けることができるといえます。

利用しやすい制度のために

居宅介護は生活を支えるための制度ということで、その対象も比較的広く設定されており、障害支援区分1以上の身体、知的、精神障害者となっています。居宅介護と聞くと、介護が必要な方だけが受けるというイメージがありますが、家事援助や通院援助(身体介護がない)などは、知的障害や精神障害があって家事をするのが難しいという場合でも利用できます。

また、事業所に対しても、質の高いサービスを提供していたり、サービスが行き届きにくい離島や豪雪地帯、中山間地域等を対象にしたりすると出る加算(報酬がアップすること)などもあります。

福祉サービスとはいえ、サービスを実施する事業所としても、運営を続けていくための経営判断として、事業を導入しにくい地域や、障害が重い方を引き受けることが難しいケースというのは出てきます。その結果、サービスが届かない方が生まれるということがないように、加算という形で事業所を
支え、障害者の地域生活を守る設計がされているのです。

重度訪問介護:常時介護を必要とする人たちのサービス

3障害を対象とした制度へ

前項で居宅介護は地域生活を支える、人体でいえば骨盤のようなものと書きましたが、障害の程度によっては、居宅介護のサービス内容では不十分な方も多くいらっしゃいます。特に、一人で行動することがほとんどできない重度肢体不自由者は、ほぼ丸一日介護の必要がある場合もあります。

そのような人たちが地域で生活を送るための制度が「重度訪問介護」です。障害者自立支援法(以下、自立支援法)の時代は、重度訪問介護は一部肢体不自由者のみに限定されていました。しかし、平成26年の法改正では、3障害すべてを対象とした制度に生まれ変わりました。また、平成30年の改正で、訪問先が医療機関まで拡大されたことにより、医療機関に入院した場合でも、利用者の状況がよくわかっているヘルパーを継続的に利用できるようになりました。

重度障害者の手足の代わりに

居宅介護が短時間での支援とすると、重度訪問介護は、長時間の利用を想定した制度となっています。報酬単価も8時間までを基本と考えて、24時間利用できるように制度が組まれています。まさにヘルパーが重度障害者の手足の代わりとして生活を支えるといってもよいでしょう。

障害特性に応じた支援

知的障害や精神障害の場合、肢体不自由者が必要とする介護とは異なり、直接的な介護が必要というよりも、激しい自傷や他害行為、集団行動の困難などの行動障害によって介護が必要という場合が多く考えられます。そのため、行動障害に対する支援方法について新たな研修を行うなど、障害に応じた対応が取れるように設定されています。また、支援計画を作成する際には、アセスメントで本人の特性や強みなどを把握して、場面や工程ごとに丁寧な計画を作ることが必要です

短期入所:短期間の入所支援を行うサービス

一時的に入所支援を行う

地域で生活するうえで、家族による支援はとても大きな役割を担っています。しかし家族とはいえ、365日休まず支援できるわけではありません。体調を崩すこともあれば、数日出張で不在にしなければならないこともあるでしょう。お願いできる人が近くにいない、でも居宅介護だけでは生活できるかわからない……。そんなときに利用できるのが短期入所です。

3障害問わず、施設内で入浴、排せつ、食事等の介護や、日常生活上の支援を行うもので、あくまでも、通常は自宅で生活をしている方への一時的な施設サービスになります。

地域生活を進めるための骨盤

短期入所は「ショートステイ」とも呼ばれ、ホームヘルプ、グループホームと並んで、地域生活を支える制度の骨盤ともいえるものです。安心して地域生活を送るうえで、何かあったときの受け皿は必要です。短期入所は困ったときの一時的な受け皿として、なくてはならない存在であるといえます。

レスパイトケアの役割も

短期入所は、家庭内での介護が一時的にできなくなったときに実施するものですが、必ずしも病気などの理由に限定したものではありません。

たとえ家族であったとしても、介護には相当の負担がかかります。介護疲れで家族も休みたい。そうしたときに短期入所を利用することも可能です。家族を癒やすために、外部のサービスを利用してリフレッシュすることを「レスパイトケア」といいます。

日本では「家族ががんばらなきゃいけない」という固定観念があり、家族がケアを休むことの必要性について社会的認識がまだ十分ではないことが課題として挙げられています。地域生活を無理なく続けていくためにも、短期入所をうまく利用できるようにしていくことが必要です。

生活支援:介護と創作活動等を組み合わせたサービス

介護が必要な人の日常生活の場として

支援費制度から自立支援法に移行する際、多くの施設が、今いる利用者にとって自分の施設がどの体系に移行するのがよいのかで悩みました。当時の知的障害や身体障害の施設は介護が必要な人も多く、居場所としての意味合いが強い施設もありました。結果、そのような施設が多く移行したのが、この生活介護です。

生活介護は、食事や排せつなどの介護や日常生活上の支援のほか、創作的活動や生産活動といった機会の提供が定められており、旧法時代から行われている内職や自主製品製作などの授産活動は、これに該当するとして捉え、以前とほとんど変わらない支援体制を取っている施設も多いです。また、介護があまり必要ない人たちのために、就労継続支援B型などを併設しているところもあります。

日常生活を楽しむために

生活介護は、あくまでも常時介護が必要な人に対する制度ですので、原則障害支援区分3以上の人を対象としています。居場所としての役割も大きいことから、比較的通所期間が長く、年齢を重ねている人も多くいます。

施設が提供している創作的活動、生産活動は様々で、自主製品の製作から、パンや焼き菓子の製造、企業からの内職など多岐にわたります。地元密着の請負作業をしているところも少なくなく、例えばスーパーなどから出る食品廃棄物を加工して、家畜用の飼料を作る事業所もありました。

しかし、生活介護で行う活動は、就職のための技能習得や、生活費を稼ぐことが一番の目的ではありません。必要とされる介護のレベルは様々で、比較的難しい作業ができる人もいれば、非常に簡単な作業しかできない人もおり、支援者は作業内容の検討や治具の開発を通じて、一人ひとりの可能性を引き出しています。

就労選択支援:自分に合った働く場を探すための支援

どんな支援が適切か、から考える

今までも、就労移行支援など就労支援を行う事業所で、一人ひとりの特性に合わせた支援が行われています。しかし、利用者それぞれの評価をしようとしても客観的な指標がなく、各事業所の職員の判断に任されている部分が多分にありました。その結果、支援者が「利用者本人が最初から就労継続支援B型を希望していたから」として、一般就労などの可能性を考えずB型に行く前提でアセスメントをするケースや、適切な評価ができず、就労につながらない、つながっても定着まで至らないといったケースがありました。

このような、マッチングミスといえる状況を改善するため、今回の法改正により、就労の前段階として、利用者自身の能力や適性、興味関心に合った就労ができるように、どのような支援ができるのかを考える就労選択支援ができました。

利用者も一緒になってアセスメントする

就労選択支援の大きな特徴は、就労アセスメントの導入です。就労アセスメントでは、個別面接や本人の自己評価などを踏まえてアセスメントシートを作成し、これを支援に用いることが予定されています。このシートは、支援者だけで利用者の就労能力や適性を評価するのではなく、支援者と利用者が一緒になって作ることにより、ニーズや利用者の持つ強み、職業上の課題等を明らかにし、さらに就労にあたって必要となる支援や配慮は何があるかを整理していきます。

就労支援は一定の期間だけで完結することは少なく、加えて一人の利用者に対して複数の機関がかかわることになります。就労アセスメントという統一の評価指標を使うことで、ハローワークや就労移行支援事業所など複数の機関が行う支援の質の向上が期待されます。

相談支援事業:どんなサービスを使ったらいいかわからないときは?

様々な不安に対応する相談支援

総合支援法のサービスは多岐にわたっていて、それらを組み合わせて自分用の支援プランを作っていくことができます。

しかし、利用する側からすると、どのようなサービスがあるのかわからない、自分や家族の状態だと、どんなサービスを受けられるだろう、など、よくわからないと思うことも多いでしょう。今ではインターネットなども含め、情報がたくさん手に入るのはよいのですが、その情報をうまく生かすということはとても難しいものです。

そこで、様々な疑問や不安に対応する事業として、相談支援事業が市町村の地域生活支援事業として行われています。

相談の種類はいくつもある

相談支援事業で行われる相談には、障害福祉サービスを実際に利用するにあたって、本人や家族の状態を判断し、その人に合うサービス計画を作成する「サービス等利用計画」、施設や病院から地域に出たいという人たちのための「地域移行支援」、地域生活を始めた人をフォローする「地域定着支援」、そして障害者福祉に関する様々な問題について、障害者本人や家族等からの相談に応じて、必要な情報の提供、障害福祉サービスの利用支援等を行うほか、権利擁護のために必要な援助を行う「基本相談支援」などがあります。

こうした相談支援事業を効果的に実施するために、各地方公共団体に協議会が設置されています。協議会では相談支援事業所によって差が生まれないようにしたり、地域の関係機関が連携していろいろな問題に対応したりできるように検討が行われています。

他にも、保証人がいないなど賃貸住宅に住むのが困難な人のための住宅入居等支援事業、障害福祉サービスの利用契約の締結などが適切に行われるようにするための成年後見制度利用支援事業なども実施されています。


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