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技術よりも売り方/サーカスよりも大道芸


話したい事は「しゃべり」と「ストーリー」のすごさだ。

まず、サーカスと大道芸の違いは何か。
「しゃべり」だ。
ドームのような大観衆の前で、数多の老弱男女、獣が人間業ではないものを見せるのが「サーカス】。ストリートで話術を使いながらパフォーマンスするのが【大道芸】。そんな認識である。


GWも、もう終わりの頃。
親友と美術館に行った帰り、
上野公園で大道芸を見た。

とは言え、背丈の小さな高校生と思しき青年。
何やら物騒な機材を背に危なっかしいパフォーマンスを展開していた。

「できるかな?大丈夫かな?」
「上手くいかなくても、笑ってもらえたらうれしい。」
「ただし成功したら、オーーー!とか拍手とかで騒いで頂きたいです」

ドキドキハラハラな大衆の思考を逆手に、その場の雰囲気をひとりでに支配していたから見入ってしまった。

そんな中、不安定な足場で

・宙に浮く水晶玉
・ナイフのハンドリング
・ヨーヨー

基本的な大道芸のパフォーマンスをしているだけである。
正直、テレビやYouTubeを見れば、それぐらいの技術屋は五万といる。時たま失敗もしていた。

そんな彼の何がすごかったのか?
前段の通り、「話術」である。
特にその言葉が語る「ストーリー」だ。

「6歳から大道芸スクールに通い始めた」
「今は18歳。中学を卒業後、アメリカのサーカスに参加している」
「コロナで興行収入は0近似」
「自分はこの技術しかない。サーカスが機能しないなら、自分ひとりで稼がねばならない。仕送りもない」
「先の長期休暇はいずれもコロナ自粛。今回ようやく、東京当局に許可をもらえた。」
「2年待ち続けた。自分の全てを見てもらいたい。」
「ぜんぜんお金がもらえなくても、それはそれ。反省して、今後の自分の技術を磨きづけます。」

盤石のストーリーだ。
疲労と共に息も絶え絶え。
このストーリーを一生懸命に語って聞かせる。

またその合間合間に、
・観衆を参加させるパフォーマンス
・帰る人を笑いに変えるインクルーシブなツッコミ
そんなしゃべりを展開する。


彼は、必死なパフォーマンスの裏で
よく観衆を観察し、
その心を読んだ上で、
適切な心を動かす言葉を言い放つ。

この姿に多くの学びがあった。
商品やサービス、技術を売る裏で
よく社会を観察し、
その洞察を読んだ上で、
適切なプロモーションで潜在顧客の心を動かす。

大道芸も歴としたビジネスだ。

お金をお客さんから頂く上で大切な事を、
齢、たった18歳の青年は知っていた。

それに物の売り方をよく知らない大人も五万といる。

業界も歳も違うが、私は彼に敬服を示し、大金を投じた。
サーカス団に入らずとも、大きな企画をせずとも、
「しゃべり」を技術と掛け合わせれば1人で稼げるのだ。

ただ一つ。
惜しい事がある。
彼の名前を観衆の私が覚えていない事だ…

たった1回名前を聞くだけで、
覚えられない私の脳もまた惜しいところである…

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