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美しすぎる大量生産品

地球建築家 11-3 アルヴァ・アールト


アルヴァ・アールトが偉大な建築家であることは、周知の事実である。

しかし何がそんなに偉大なのか。それは下記であると私は考えている。

建築家にとどまらず、生活総合プロデューサーであり、経営者でもあり、政治家でもあったということ。

1920年代、世界中でモダニズム運動が沸き起こっていた。

工業化の波は、もちろんフィンランドにも押し寄せていた。フィンランドが独立したのは1917年だ。独立するや否や、国家は世界の潮流にのれるかの瀬戸際にいたのである。

そんな時、アールトはデザインで国家を興そうと燃えていた。

「美しい規格品」を作り、大量生産し、美しいデザインを世界に広め、国のアイデンティティを形成し、経済的地盤まで固めようと躍起になっていたのである。

家具を大量生産するため、アールトは合理的な家具部品のスタンダート化と、新たな技術が必要であると考え、フィンランド南西部のトゥルク郊外の工場で、家具職人オット・コルホネンとともに、フィンランド国内の自然素材を用いた曲木技術の開発を行った。

そこで生まれたのが「L-レッグ」である。

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(スツール60 Artek  ネットより引用 )

強固な無垢材を直角に曲げる技術は、1933年に特許を取得した。

このL-レッグはテーブル、椅子、スツールなどに応用されている。

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本当に、ひとかけらの無駄もない合理的な形である。

しかし、温かみがあり、可愛らしく、かつ美しい。

素晴らしいのは、大量生産品であるのにため息が出るほど美しいということである。ああ、これ以上のデザインがあるのだろうか。

デザインは個人的で一品生産だから大量生産には向かないと、眉をひそめる建築家は多い。もちろん、大量生産によって質が低下してしまうという面もあることは確かだ。

しかし、アールトは柔軟であった。

「美しい大量生産品」を作れば、優れたデザインがより広く普及すると考えたのだ。そのために、これ以上ないというまでに形をシンプルにした。

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L-レッグの制作の様子はこちらから観ることができる(ページの中段あたりの動画)。

家具好きの方にはたまらない映像となっているので、是非ご覧いただきたい。職人たちがまたカッコいい。自分の仕事に心から誇りを持っている顔をしている。

建築やデザインにとどまらず、日本はもっとアールトとフィンランドから積極的に学ぶべきである。



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