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【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #6

 一歩一歩窓に近づくにつれ光が増し、空気の比重が軽くなってくる。
さっきまでの息苦しさから解き放たれていくようである。
手前で立ち止まると、四角い窓枠から漏れる陽射しの向こうに自分達の勝手知ったる街並みが広がっていた。
さび付いた窓枠に手をやり、顔を覗かせてみる。
その瞬間、いきなり現実が降り注いできた。急に街の喧噪が聴こえ、生暖かい風が髪の毛の間を吹き抜けていった。
眼下にはいつもの知っている家並みが広がっている。
だが、上空からの景色のせいか、なんとなくどこか知らない世界のようにも映った。
しばらく目を凝らして眺めていると、やがてそれは城から自分の領地を見渡す将軍か王様にでもなったような、独特な気分になってくる。
見下ろすと、下界では任務を終えたモレとブースケがマウンド辺りに座って笑っていた。

「あいつらー。こっちはまだ任務遂行中だってのいうに、のんびり休んでいやがって」
「よっしゃ、いっちょかましたるか」
荒ケンは手にしていたボールを軽くお手玉のように振り上げて笑った。
なんとなく、やろうとしていることは分かった。
二、三度肩慣らしをしてから荒ケンは二人めがけて投げつけた。
ポーンと弾けるような音が響いた直後に「うおー」という叫び声が上がる。
二人は飛び退いて周りを見回すも、飛んできた先は分からないようであった。

 すぐさま顔を引っ込め、二人はしてやったりと笑う。
「あいつらのびびった顔ったらねぇな。晃二、今度お前投げてみ」
晃二は含み笑いしながら球を受取り、身を乗り出して大きく振りかぶる。
そして二人の真ん中に狙いを定め、思いっきり投げ下ろした。
白茶けたボールは二人の足下近くで軽やかな音をたて、大きく跳ねた。
またも大袈裟に驚く二人ではあったが、上方から飛んできたことで状況を理解したらしい。
同時に2階を見上げ、奇声を上げた。
「やったぁ。成功したんだ」「晃ちゃん、すごいじゃん」
 踊るようにはしゃいでいる二人の様を見ていたら、この作戦はどうやら上手くいったらしいということがやっと実感として伝わってきた。
「ほれ、どんどんいくぜぇ」
 両手一杯に乗ったボールが目の前に差し出された。
いつの間にか荒ケンの足下にはナップザックが置かれていた。

「ははは。よっし、やるか」
二人でボールを一つ一つ掴みだしては投げていく。
それは建物に封印されていた力を少しずつ解き放していくようで、すごく気持ちが良かった。
だが、傍目で見たら不思議な光景に映っただろう。
なにせ窓からはボールが次から次へと投げ出され、下ではそれを受け取ろうと、右へ左へと走り回っているのだから。
例えるなら運動会の玉入を逆からやっているようなものである。
その光景とボールの跳ねる不規則な音が重なり、晃二には天からの授かり物を喜んではしゃぎ回っているお祭りのようにも見えた。
「あいつら、ピエロみたいやな」
拾ったボールをシャツの中に溜め、腹が膨れた状態でふらついている姿は、二人が真剣だったからこそ笑いを誘った。
荒ケンも、わざとあちこちに投げているらしく、守備練習でも兼ねているかのようである。

 半分ほど投げたところできり上げると、辺りにまた静寂が戻り、どこにでもあるような風景に戻った。
聞こえるのは、大の字で寝ころんだ二人の、ぼやいている声だけである。
「いい汗かいたな。あいつらにもいい運動になったやろ」
荒ケンは清々しい顔で笑い、晃二の肩を叩いた。
「ほんじゃあ、そろそろ戻るとするか」
 荒ケンは残ったボールを拾いながら侵入した窓に向かうが、晃二は最後の作業を思い出し、テーブルに戻った。
 もう一度小っぽけな写真をじっと見つめた。
女性たちの微笑んでいる目を見ていると、テレビに語りかけていた老婆の言葉を思い出す。
― 家族と再会できていたらいいな ―
そんな願いを込めながら写真と便箋を引出しに戻した。
改めて部屋全体を眺めると西日で窓の影が奥まで伸び、最初の印象と違って見える。
なんだか自分たちを受け入れてもらえたような気がした。

「さっ、長居は無用や」
荒ケンが短く口笛を吹くと、軽やかな音が部屋に響き渡った。
「そうだな。けど、またすぐ来ようぜ。今度はみんなでな」
ナップザックを担いだ晃二は、部屋の隅々をじっくりと見回した。
崩れそうなコンクリ壁と廃墟を支えているぶっとい柱、金網の中で立ち続けている人形。
ほんのわずかな時間だったが、この空間に親近感を抱いている自分に気がついた。
「そやな、まだまだ調査せなあかんやろ」荒ケンは肯いてから鼻をすすった。
金網の中に積み上げられたガラクタや、そして何よりもあの見えない力と闇に包まれたスロープの先が気になって仕方ない。
だからきっと、きっと近いうちにまたやって来るであろう。

 侵入した窓まで戻り、身を乗り出してあたり一帯を眺めると、北側の野原一面に光が差し込み、草が小さく風で踊っていた。
「なんかさっきと景色が違って見えるな」
「そうか? 気のせいやろ。相変わらずセンチやな。さっ、先に行けよ」
下半身から窓枠をくぐり、ロープを掴んだ際にふと振り返ると、自分たちの辿ってきた道のりの全貌が見渡せた。
草の刈られた直線の道、茶色く泥がむき出した崖、ゴミ溜の裏庭とその先にある倉庫の扉。
― 長かったような、短かったような ―
今朝からの様々な出来事がよみがえってくる。
突然の展開だったが良くここまでやれたもんだ、と我ながら感心した。

Photo:Jordy Meow

 二人とも無事に野原に降り立つとひとまず大きく伸びをした。
「なんだかんだあったけど、上手くいったなぁ。ひと安心だよ」
洞窟や秘境から戻った探検隊もこんな安堵感、達成感を味わうんだろうか。
「思った以上にトントン拍子やったな。まぁ、ちょいとハプニングはあったけど、な」
場面場面のみんなの様子や表情を思い出すと笑いがこみ上げてくる。
「さてと、あとは戻るだけやな」
 自分たちが造った草の回廊を抜け、崖上に立つと眼下にウメッチの姿が見えた。
荒ケンは手際よく近くの樹の根っこにロープを巻き付けて崖に垂らし、二人は結わいた瘤を伝わってロッククライミングの要領で降りていった。

「無事任務完了だな」
待機していたウメッチがにこやかに出迎る。
「作戦成功や」
「諸君、ご苦労であった」
ウメッチは帰還した兵士をねぎらう大佐気取りで握手を求めた。
「なに、偉そうに。監督ぶってるんじゃねぇよ」
「元々は俺の案なんだからいいじゃねーか。で、中はどうだった?」
二人は顔を見合わせ、含み笑いをした荒ケンが勿体ぶって話す。
「すげぇぞ。体育館並の広さやけど、がらんどうでな」
「うまくやりゃ、こん中を基地にできるぞ」
「まぁ、後で詳しく話すからよ」
ふーん、後でって……。
ウメッチはちょっと不満そうな顔を見せたが、晃二の背中を見るやいなや、コロッと顔を綻ばせた。
「すげぇな、まだザックにこんなに入ってんのかよ」
「なぁ晃二。いったい全部で何個ぐらいあると思う?」
「まぁ三十五、六個ってとこじゃねぇの」
「いや、オレはもっとあると思うな」
「じゃあ、賭けるか」
「それよっか、帰り道の準備や」
 二人の賭け話をさえぎって、荒ケンは最後の道具、ペンチと軍手を取り出した。

当初の計画では、来た道、つまり倉庫を逆側から抜けるのは無理なので、広場と接するフェンスを乗り越える予定だった。
上部のバラ線が広場側に傾いているので向こうからは乗り越えられなかったが、こちら側からだとちょっと細工をすれば可能に思えた。
しかも三河屋からは積み上げられた木箱で見え難くなっている。

 辺りを見回した荒ケンは素早くひょいと登っていき、バラ線の二カ所を切った。
そして切れ端を別のところに巻き付け、そのまま軍手で前後、上下に引っ張ってみた。
すると、キイキイと耳障りな音をたて、下の二本が少しずつずれていく。
「いい感じじゃん」
二人が見守るなか、慎重に続けていくと、やっと子供なら抜けられるくらいの隙間ができた。
「こんくらいあれば大丈夫やろ」
荒ケンはその言葉を実証するように、身体を捻り、足から乗り越えていった。
「さっすが、元脱獄犯」
フェンス越しにウメッチがからかうと、「ええからお前らも早くシャバに出て来いよ」と笑って言い返した。
「これなら次からは無茶しなくて済みそうだな。晃二」
「あぁ、俺達は平気だけど、ブースケは無理じゃねぇか」
「あいつじゃ無理無理。これも崖も窓も全部をちゃんとクリアできなきゃ入っちゃ駄目ってことにしようぜ」
「自分の…力だけで、はぁ…難関は、はぁ…乗り越えていかなきゃな」
長い身体を折り曲げ、顔を歪めながらウメッチはバラ線の隙間で格闘していた。
最後の障害を無事乗り越えて自分たちの世界に戻った三人は、泥や錆びで手と顔を茶色くして、まさに脱獄してきたような風貌だった。

「晃二さ、背中にくっきり靴の跡がついてるぞ」
ウメッチが笑いをこらえながら指差す。
「へ、へ。そんなの分かってるよ。お前にもばっちりついてるから」
「うそ、あちゃー」
ウメッチは背中を見ようとクネクネもがいた。
「お前はオカマかよ。こんなの水道で洗えば帰るまでには乾くよ」
互いの汚れを見て頷き合うが、まずは二人が待ちくたびれているであろう砂場に向うこととする。
午前中の強風は一体なんだったんだ、と疑うくらい穏やかな時間が流れていた。かなり時間が経っているのではと思われたが、きっとまだ3時くらいであろう。
砂場では中央に戦利品のボールが集められていた。
帰りを待っている間、時間を持て余していたのだろう、ボールたちは丁寧にピラミッド状に積み上がっていた。

「うわぁ。すげぇ数だな。ザックのと合わせて数えてみようぜ」
ウメッチは宝の山を目の前にして興奮している。
みんなが注目する中、晃二がピラミッドの上でザックを逆さまにすると、ボールは下のとぶつかり合って一斉に弾け、生き生きと四方に散っていった。
「山分けだからな。わかったかウメッチ」
話なんか聞いちゃいない。
ウメッチは目の色を変えて集めては、いそいそと数えだした。
「四十二個だ。ほらみろ、オレの勝ちだな」
おそらく随分と昔に飛び込んだボールも混ざっているのであろう。予想以上の数であった。
 ウメッチが高らかに笑うのをよそに、晃二は一つ一つボールを手に取り、じっくりと調べていた。
「すげぇな。幾らくらいになるんだろ」
「まっ、二千円ってとこかな」
さも自分の予想通りだと言わんばかりにウメッチは答える。
「どうしたんや」
真剣にボールを調べている晃二に荒ケンは言った。
「いやぁ、自分のボールがないかなと思ってさ」
晃二はボールに書かれているはずのA・Kのイニシャルを探していたのである。
そう、誕生日に貰ってすぐに放り込んでしまったあのボールを。
すると、つられてみんなも一個一個手に取り、しげしげと眺めだした。

「おっ、これ荒ケンのじゃん」
「どれどれ見せてみ。ほんまや」
「この汚れかたは、どう見てもモレのだな」
みんな普段から、小さな傷や汚れなど、些細な特徴だけで自分のボールを見分けられたので、思ったより容易かった。
やがて、凹みを三カ所マジックで塗りつぶしたウメッチのボールや、油が模様のようについたブースケのボールなど、五分の一近くは本人のものと判明した。
だが結局、晃二のボールは含まれていなかった。
「やっぱ、ねーか」
ひと通り見終わってからぽつんと呟いた。
残念であり納得いかなかったが、あの中のどこかにあることは確かなのである。
金網の中か、もしくはあの闇を転がって……。
想像しようにも謎が多い。

「また今度入ったときに探そうや、どっかにはあるんやから」
晃二のボールに対する想いを察したのか、荒ケンはそう言って慰めた。
「なに、また入るつもりなの? じゃあ今度はオレも入りたいな」
「デブには無理だって。逆上がりもできないくせに、よく言うよ」
「うるせぇな。お前みたいなチビには崖登りは無理だよ」
「なんだとぉ」
いつもの掴み合いが始まる。
「まぁまぁ。二人ともやめろよ。次はみんなで侵入しようと思ってるけど、最初のうちだけだぞ、手助けすんのは」
「こいつらなんかほっといて、早く中の様子聞かせてくれよ、晃二」
ウメッチの言葉に二人は動きを止めた。
「なになに、どうなってんの中は? 怖くなかった? それとも…」
「それよっかさ、戦時中の宝とかありそうだった?」
「オッケー、わかったわかった。でも、じらすわけじゃないけど、その前に身体を洗わせてくれ。もぅ泥と汗でべとべとだ」
「よっしゃ。そんでもってペプシで乾杯でもしようや」
ひとまず水道で水を浴びてから、仕事をやり終えた褒美に渇いた喉を潤すことにする。
気がつくと、日が僅かに傾き始めている。
倉庫で窮地に陥っていたのが随分前のことに思えた。

 洗ったランニングやTシャツを振り回しながら花壇に戻ると、紙のケースに入った瓶を高く掲げてウメッチが高らかに叫んだ。
「さぁ、勝利の美酒で乾杯するぞ。つまみもあるでよ」
何かと思えば、よっちゃんイカと都こんぶであった。
「さ、遠慮なくやってくれ」
「うわぁ、ウメッチの奢りだなんて、ありがたいね」
顔を綻ばせてブースケが言うと、「ちっちっちっ。ボールの売上金からの前払いだよ」と、さも当然とは言わんばかりにウメッチは胸を張る。
「このボールを売った金は、今後の野球で使う道具やら―」
そうウメッチが演説ぶっている間に、みんなは相手にせず飲み始めた。
「うわぁ、最高だな。生きててよかったって感じだな」
「ブースケ、お前、じじいかよ。うちのとーちゃんみたいなセリフ言って」
モレはそう言って笑ったが、晃二も実際そう感じた。
炭酸の刺激が喉を伝わり落ち、身体全体、細胞の隅々から生き返ったような、清々しさを感じていた。
きっと、風呂上がりのビールを呑むときも同じ感覚なんだろうな。
一日の疲れを癒す、晩酌時の父親の姿が目に浮かんだ。

 気がつくと暑さも弛み、電柱の影も近くまで迫ってきている。
一通り落ち着いた頃、晃二は今回の成り行きを最初から追って説明していった。
思い返せば、いろんなことがあったんだと、今更ながら感心してしまう。
酒工場の突破、崖の登頂、荒地の開拓、米軍エリアへの不法侵入。
自分たちのなし得た功績を称えるように、あえて仰々しく語っていった。
それでもみんな大袈裟だとは思っていない。
初めは難攻不落と思われた砦からのボール奪還作戦に何はともあれ成功したのだから。
もちろん、いくつもの事件やドジを踏んだこともあったが、今となっては笑い話であると言うか、口喧嘩の際のけなしネタになる程度のことだ。
説明の一つ一つを食い入るように聞いていた三人は、各自さまざまな想いで建物の内部を想像しているようだった。
「だろぅ? 上手くやりゃ新しい陣地にできるって」
すでに次にいつ侵入するのか、どう使っていくのか、という話まで膨らんでいる。
「陣地かぁ…」
荒ケンの言葉に晃二はくすぐったさを感じた。
「おお、いいじゃんいいじゃん。俺たちの新たな領土かぁ」

 今の自分たちには自転車で行ける範囲が領土であり、世界であった。
だが、そこに至るまでには様々な経緯があったと思う。
遊び場は、最初は家の近所から始まり、町内、そして学区内へと成長とともに広がり、変化してきていた。
思い起こすと最初に外の世界を感じたのは、一年生の頃、知り合いの小父さんにせがんでダンプ乗せてもらった、あのときだと思う。
それは単に、隣の山手住宅地までの短い距離だったが、高い運転席から見たよその町の景色は全く違う世界に映り、興奮しっぱなしだったのを憶えている。
たかが、と言われるかもしれないが、あのワクワク感は現在でも強く印象に残っていた。

 その後、三年生になると、市電に乗って元町とか中華街に文房具やワームイ(乾燥梅)を買いに行ったり、国電を利用して関内にあるナショナルショールームにアイドル歌手の8トラテープを聴きに通ったりしたものだった。そうやって目的や手段を代えて行動範囲を広げてきたのである。
母親からは「危ないから遠くへ行くな」と言われていたが、どこまでが遠くて、何が危険なのか分からないので、それを知るためにもと、理由をこじつけてどんどんと行動半径を広げていった。
黙っていてもバレてしまうことがあり、「しかたないだろう。元々、男は好奇心や征服欲が強いんだから」という父親の言葉に何度か助けられたものである。

 現在は、念願の12段変速の自転車を手に入れ、さらに足をのばして様々な場所の開拓に精を出していた。
そんな領土拡張を繰り返していくに伴い、危険もやはり増えてくる。
それらは他校との喧嘩だったり、在日とのいざこざだったりしたが、行ってはいけない地域や、注意が必要な通りなどは、親に言われなくとも自然に分かってくるものである。
「ちょっとぐらい痛い経験してこそ、危険を察知する嗅覚や対応能力が研ぎ澄まされてくるもんだよ」
そう言っていた父親の言葉が今では理解できた。

— でも、果たしてここはどっちなんだろう —
晃二は、この観覧席が危険区域に入るのか、それとも手中に収めた領土となり得るのか、いまはまだ判断できなかった。
特にあの、1階のスロープの先が気になって仕方なかった。
あの地底に続くような闇の先に一体何があるのだろう。
そして、金網の中に積み上げられた箱を開けるとどんな物が出てくるのだろう。
畏れと不安と好奇心が綯い交ぜになっているが、まずは次の新しい世界となる居場所を手中に納め、それから考えればいいのだと開き直った。
「自分たちだけの世界…か」晃二は小さく呟いた。
「そや。俺達だけの、な」

 今となっては奇妙な時間であり体験であったが、不思議なもので、おばけ観覧席と初めはあれだけ恐れられていた建物も、一度踏み込んでしまえば何ということもなく、逆に、落とし取った要塞のように誇らしげに思えてくる。
「よしゃ、最後になる夏休みはここで過ごすとするか」
そう言って腰を上げた荒ケンに続いてみな立ち上がり、目の前の古びた観覧席を見上げた。
割れた窓ガラスの破片が夕日に反射し、鈍いきらめきを放っている。
それは建物自身が眠りから覚めて微笑んでいるように、なぜか晃二にはそう見えた。
思い出したように一陣の風が吹いてきて小さく埃が舞った。
だが、それを気に留め者は誰もおらず、ただ黙って見上げた姿勢を保っていた。
その五人の姿はさながら、自分達の砦を見守る兵士のように凛々しく見えた。

〈第1話 「フェンスを越えて」完〉

 * 第2話「スプリンクラーを浴びて」に続く
https://note.com/shoji_kasahara/n/ndd05fba3ca21

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