shoji kasahara

1962年横浜生まれ。バンドでの音楽活動、作曲業を経て、デザイン・宣伝広告の有限会社を…

shoji kasahara

1962年横浜生まれ。バンドでの音楽活動、作曲業を経て、デザイン・宣伝広告の有限会社を設立。その後、イベントディレクターに従事。2010年より文化・芸術や、まちづくりを主にしたイベントを多々企画開催する。

最近の記事

【連載小説】アウトボールを追いかけて 第3話 「ハロウインを待ちわびて」 #1

「すっげぇ。なんか、映画に出てくるとこみたいじゃねぇ?」 モレは晃二の耳元でそう囁き、口を半開きにしたままWELCOMEと書かれた横断幕を見上げた。 両側に貼り付けてあった日本とアメリカの国旗がクーラーの風でケラケラと笑うように揺れている。 二階ほどもある高い天井に、車が楽に通れそうな幅広い廊下。壁に一列に飾られた肖像写真。ガラスケースの中でこれ見よがしと整列しているトロフィーやメダル。 洋画で観る世界に近いのは確かだが、当たり前である。 特にセットで造られている訳でないし、

    • 【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #7

       そこからしばらくは一進一退が続く。 その後、集中して一人に的を絞る作戦に切り替えたのが功を奏して、なんとか三人にまで減らしたが、こちらも生き残りは荒ケン、モレ、晃二の三人だけだった。 戦況がにわかに変化したのは、相手が弾を抱えて総攻撃に出ようとした矢先である。 「俺が囮になるから、総攻撃しろ!」 業を煮やした荒ケンは弾を抱えて突進していった。 「当てられるもんなら当ててみやがれ」そう叫びながら、砲撃を躱して走って行く。 行く手で泥の塊がパンパン爆ぜる様は見ていてハラハラした

      • 【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #6

         ピーン。FENのラジオが軽やかに一時を告げる。 蝉の大合唱は今日の午後も盛大だった。 先日の授業で先生は、「うるさい」は漢字で書くと五月の蠅と書くと言っていたが、八月の蝉の方がよっぽど合っているんじゃないか、なんて思ってしまう。 「で、どうする?」  このあとも犯人捜しをすべきか、三人は椚の根に腰掛け話し合っていた。 状況から考えてもヤツらが戻ってくるのは夕方になりそうだ。 「取りあえずさ、できるとこから直そうぜ」 「あぁ。俺もウメッチの意見に賛成だよ。それに、また襲撃され

        • 【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #5

          虚ろだった意識が踵から這い上がってきた蟻によって呼び起こされた。 「あぁ、寝ちゃいそうだよ。でもやっぱあちぃな」 気がつくと太陽はからかうように位置をずらしていた。 木漏れ日と戯れていたはずの晃二は、いつの間にか照りつける陽射しの餌食になっていたのである。 「なんだよ、暑いはずだ。ふうっ、プールにでも飛び込みてぇな」 突然ウメッチの目が大きくなった。 「そうだ、シャワー浴びに行こうぜ」そう言って、飛び起きた。 「もうすぐ三時か。ちょうどええな」 三人は道具もそのまま、我先にと

        【連載小説】アウトボールを追いかけて 第3話 「ハロウインを待ちわびて」 #1

        • 【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #7

        • 【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #6

        • 【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #5

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #4

           重装備までとはいかないが、長袖長ズボンに食料の入ったリュックを担ぎ、スコップと懐中電灯を手にしたメンバーはにこやかな表情で洞窟の前に整列した。 この頃から、何故か興味を示す場所は薄暗いところが多く、懐中電灯は必需品になっていた。 「僕が最初に見つけたんだから、一番に入る権利があるよね」 さも当然、という態度で有無を言わせず、学はゆっくりと草を掻き分け、中腰で一足踏み出した。 その後に続き、一列になり慎重に這って進んでいく。中は予想通り狭かったが、窮屈と言うほどではない。 冷

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #4

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #3

          「なんだかどこにも宝らしき物の匂いすらしないね」 ブースケも期待が萎えてきたのだろう、言葉数も減って、置いてある物を手にすることなく、足で転がして確認していた。 大体一周してみて分かったことは、非常に残念だが、貴重な物、使えそうな物は何もなさそうだということと、部屋の利用価値もさほどなさそうだ、の二点だった。 晃二は懐中電灯をブースケに渡して、荒ケンに報告に向かった。 「どうよ。そっちは?」 「ん? 別にっ、て感じやな。残念やけど」 「なんかするにも暗すぎるし、隠し場所ぐらい

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #3

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #2

           各々中身が詰まった鞄を開け、用意してきた懐中電灯や軍手などを取り出す。 「オレんち、懐中電灯なんてなかったよ…」 モレは、探検隊の要である道具が用意できず残念で仕方ないようだった。 一方、「オレなんかさ、かーちゃんが何に使うんだってうるせぇから、いらねぇって言って出て来ちゃったぜ」そう宣ったブースケにすぐさまみんなの蹴りが入った。 全員の持ってきた物を並べる。懐中電灯三個にロープ二本、ペンチ一本。 あとは軍手やタオルの他に、何故かモレのヌンチャクと、ブースケが家からくすねて

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #2

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #1

           その年の梅雨明け宣言をニュースで知ったのは終業式の前日だった。  前の週あたりから時折顔を見せていた日差しの濃さや、朝の庭の草いきれに気持ちが擽られていた晃二にとっては待ち焦がれていた知らせであった。 梅雨入りが早かった分、明けるのも早いと思っていたところを焦らされていたので嬉しさはなおさらである。 ここ数日、晴れ間が覗く時間帯も増え、雰囲気的には明けたも同然だったが気分は全然違う。 やはり宣言というものはそれ相応の価値があるのだ。  しかし翌日、教室に入るなり誰かれ構

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第2話 「スプリンクラーを浴びて」 #1

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #6

           一歩一歩窓に近づくにつれ光が増し、空気の比重が軽くなってくる。 さっきまでの息苦しさから解き放たれていくようである。 手前で立ち止まると、四角い窓枠から漏れる陽射しの向こうに自分達の勝手知ったる街並みが広がっていた。 さび付いた窓枠に手をやり、顔を覗かせてみる。 その瞬間、いきなり現実が降り注いできた。急に街の喧噪が聴こえ、生暖かい風が髪の毛の間を吹き抜けていった。 眼下にはいつもの知っている家並みが広がっている。 だが、上空からの景色のせいか、なんとなくどこか知らない世界

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #6

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #5

          「すっげーー」  二人は上手く言い表す言葉が見つからず、立ち竦んだまま首だけを動かし続けていた。 粉っぽいコンクリートの臭いと黴臭さの混ざった空気は、外に比べて温度が低く感じられる。 その上、なんとなく密度さえ濃く感じた。 まるで何年も前から時が止まって封印されていたかのように思える。 軽く口笛を吹くと、眠っていた空気が波紋を立てて広がり、部屋の隅々に吸い込まれていく。 窓から差し込む午後の日差しは、割れた窓を型どって床に幾つもの幾何学模様を映し出していた。 歩き出すと、床か

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #5

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #4

          「なんか、七人の刑事みたいだな」 ウメッチも同じようなことを思っていたらしい。 天井の明かり取りから差し込む光だけだったおかげで目立たずに移動できた。 リフトの陰に潜むと、ひんやりした空気の中にケースの木の匂いとほんのり日本酒らしき匂いが漂ってきた。 「くしゃみとか、せんようにな」 「そう言われると、かえって出そうになるじゃねーかよ」  二人のやりとりを横で聞いていたウメッチが、慌てて両手で口を塞ぐ。 モレを見ると、さもチェーンの具合を確かめるように自転車をやや前進させ、こち

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #4

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #3

          「えっ、どこだよ」 モレが眉間に皺を寄せて立ち上がった。つられて他の連中も中腰になる。 「どこどこどこ」 みな望遠鏡を覗くみたいに両手で目の周りを覆った。 なんだか敵機来襲でもあったかのようにいきり立つ。 「なるへそ、その手があるな」 荒ケンの細い目は建物左横の丘の上に釘付けになっていた。 「なるへそって何がよ。ちゃんと説明してくんなきゃ」 他の三人の目は、もったいぶらずに早く教えろと、せがんでいる。 荒ケンは自信を覗かせた表情で指差しながら言った。 「2階から侵入や。なっ

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #3

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #2

          「よし。練習始めよぅぜ」  晃二がグローブを叩きながらせっつくと、ウメッチはぶつぶつ文句を言いながら重い腰を上げた。 「まぁ、しょうがねぇよ」と言いつつ、晃二もちょっと心残りではあった。 ボールを軽く投げ合いながら後ろ歩きでだんだんと距離を開けていく。 それなりの間隔になると、山なりのボールから徐々に力を入れてスピードを増していく。 単純な肩ならしのキャッチボールでも楽しく、いつもなら声を出しながら盛り上げていくのだが、どこか三人は集中力を欠いたような動きだった。  ひと通

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #2

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #1

          「うわっ、まただ」 真正面から迫ってくる砂ぼこりをもろに被りそうになり、すぐさま袖で顔を覆った。 息を止めている耳元で風音が低いうなり声をあげてかすめていく。 目蓋を閉じるのが一瞬遅かったようで、左目に違和感を感じた。 目をしょぼつかせたまま尻をついて頭の埃を払う。 「ちっ、せっかく…」 家を出る前にドライヤーをかけてきた髪はすでに逆立っていた。 再び砂ぼこりが色の剥げた滑り台や錆び臭い鉄棒の間を抜けて襲ってくる。風を背にするように向きを変えると、ピッチャーマウンド辺りで巻

          【連載小説】アウトボールを追いかけて 第1話 「フェンスを越えて」 #1