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友人の告白【5分で読める短編小説(ショートショート)】


ある日、僕は大学時代の友人から呼び出された。
待ち合わせ場所に彼女と一緒に現れた友人は学生時代の話を始めた・・・

「俺が通ってた小学校って、田舎だから一クラス14人しかいなかったんだよ。だから幼稚園から中学までみんな同じクラスで全員家族って感じ。

でも一人、知的障害の同級生がいて、中学入っても一人だけ小学校の勉強してて、おまけに貧乏だったから皆から仲間はずれにされて、いじめられてた・・・。

でも、俺そんなの嫌だったし、休み時間はいつもそいつと遊んでたんだ。
遠足の時もそいつの弁当のオカズはハム2枚入ってるだけでさ、おやつなんかないし・・・。

だから俺、お母さんにお願いしてそいつのオカズとオヤツ持って行ってやったんだよ。お母さんも喜んで用意してくれたし、何よりそいつの喜んだ顔が嬉しくてさ。


でも、そんなことしてたら、いつの間にか俺まで仲間はずれにされちゃってさぁ。そんなわけで、俺もそいつと距離置くようになって・・・
でも何度、突き放しても、そいつは俺のところにくるんだよ。

そんな感じで中学入って、バスケ部に入部したらそいつも入部したいって言いだして、顧問も躊躇してたけど。
そいつの親が顧問に懇願してる姿みたら無性に悔しくなってきて、気が付いたら俺も一緒に頭下げてた。

その時さ、『やっぱ俺、こいつの友達だわぁ、仲間はずれ上等だよ!』って何かが吹っ切れたんだよね。
そいつの親も凄く喜んでくれて、涙流しながら俺に感謝してたよ。
久々にその時、そいつの笑顔見たし・・・

で、その後、中学卒業して俺は高校に入ったんだけど、そいつは高校には入れなくって、俺も高校入って忙しくなっちゃったから、それ以来会わなくなってさ。

高校卒業して大阪の大学に行ったんだけど、ある年の正月、久々に地元帰ったらそいつの親が俺ン家に来てさ・・・

『久しぶりね、すっかり大きくなって元気だった?』
って聞いてきて、俺はなんか気恥ずかしくなりながらも『はい、元気です!アイツは元気ですか?』って聞いたら・・・

そいつの親が『いままで本当にありがとうね。本当に感謝してるの、だからお礼を言いたくて・・・』って言うんだよ。

その時俺は何となくそいつの親の顔を見て察したけど、その後の言葉が何も出てこなくて・・・」


200×年の末、まだ本格的な冬が到来する間近の12月9日、午前2時48分、骨肉腫を患い転移によりどうすることも出来ず苦痛の闘病生活の末に彼はひとり天国へと旅立った。

「高校の時、俺の家にそいつが来ないことを不思議には思っていたけど、俺もそいつを訪ねることはしなかった。
俺がバカみたいに高校生活に浮かれていた時、そいつは必死に苦痛に耐えて病気と戦っていたなんて俺は何も知らずに・・・

葬儀は身内だけで行ったらしい。彼の母親は俺に知らせようと思ったみたいだけど、一度しかない高校生活を送る俺に迷惑や心配をかけたくなかったらしい。
何も知らなかった自分が悔しくて、情けなくて、何も出来なかった自分が悲しかった・・・

そいつはまた俺とバスケをするんだと、また俺と遊ぶんだと、病床でいつも話していたらしい。
俺はそんなことを知らないまま高校生活に浮かれてたよ。

おばちゃんは、泣きながら俺を抱きしめて
「仲良くしてくれてありがとね」っていったんだ。
それを聞いた瞬間、俺も大声を出して一緒に泣いた。
生まれて初めて気が狂いそうなほど泣いた。
思いっきりおばちゃんの胸で泣いた、大泣きだよ。
大袈裟じゃなく、涙が枯れ果てるほど泣いて泣いて泣き続けた。

その日の晩、中学の卒業文集をみたら、そいつのページにはたった2行だけど一生懸命書いた字で『たかしくんと あそんだのが いちばんたのしかったです』
って書いてあったんだ。

そこには俺の名前があった。彼の思い出の中には最後まで俺がいた。
なんでもっと遊んであげなかったんだろう・・・
一時とはいえ、なんで仲間はずれを恐れて突き放したりなんかしたんだろ・・・
なんで、もっと・・・なんで・・・」

そして、そのまま友人はしばらく泣き続けた。
俺も友人の肩を抱きしめて泣いた。
友人の彼女は彼をなぐさめた。
そして、友人は俺を呼び出した理由を話し始めた。

「悪い、辛気臭くなって(笑)
どうしても言っておきたくて・・・
実は俺、来年こいつと結婚するんだ。
こいつと、あいつの分まで幸せになるんだ。
こいつ、妹なんだ、あいつの。俺さ、息子になるんだ、おばちゃんの、もう一人の息子になるんだ」

そう言って、友人と友人の彼女はとても幸せそうに笑った。
こんなに温かい涙を流したのは何年ぶりだろう・・・
いや、初めてかもしれない。

そして、友人の結婚式で始めて新婦の母親を見たとき、幸せな笑顔と一緒に、その胸には19で亡くなった息子の遺影があった。

満面の笑みを浮かべ、母親の胸に抱かれながら、とびっきりの笑顔で二人の結婚を祝福していた。

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