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【長編小説】天使のいない世界で

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異種族恋愛を題材にした長編小説です。 一部残酷な描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 《目次》 序章 純白の夜が、赤く染まる 第1章 あたたかな場所には、とどまれな… もっと読む
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固定された記事

『天使のいない世界で』備忘録

ご覧いただき、ありがとうございます。 振り返り用としてお使いください👼 物語開始前の大き…

翔花里奈
10か月前
5

「天使のいない世界で」序章 純白の夜が、赤く染まる(1)

 雪がしんしんと降り積もる、白く美しい日のことだった――。 (……結局、会えないままこの…

翔花里奈
11か月前
53

「天使のいない世界で」序章 純白の夜が、赤く染まる(2)

「最初は不安でいっぱいで、お別れの日が来るなんて想像もできなかったけど……あっという間だ…

翔花里奈
11か月前
16

「天使のいない世界で」序章 純白の夜が、赤く染まる(3)

 ローブの上から羽織った厚手の黄色いケープをそわそわと指先でもてあそびながら、白く染まっ…

翔花里奈
11か月前
16

「天使のいない世界で」序章 純白の夜が、赤く染まる(4)

※残酷な描写を含みますので、ご注意ください。  引き返しはじめてから、どれくらい時間が経…

翔花里奈
11か月前
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「天使のいない世界で」序章 純白の夜が、赤く染まる(5)

(――嘘、でしょう?)  緊迫した声で語られた内容に、ガツンと頭を殴られたような衝撃が走…

翔花里奈
11か月前
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「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(1)

「メイちゃーん! 次はこれ、頼むよ!」  日差しが差し込む丸太造りの小さな家に、野太い声が響き渡る。 「はあい、店長」  明るく返事をして、パタパタと駆けて行った先。  毛深い腕で調理場の作業台に並べられたのは、湯気の立ったスープと、色鮮やかな野菜がたくさん挟まったサンドウィッチのセットだ。  メイの仕事は、人間たちを災いから守ることではない。この食堂を切り盛りする店長が心を込めて作った料理を、配膳することである。 「お待たせしました」  そう言って微笑むと、木製

「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(2)

 なあ? と明るく同意を求められたが、曖昧に微笑み返すことしかできなかった。  そそっか…

翔花里奈
10か月前
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「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(3)

 難しい顔で覗きこんだのは、飾りとして壁にかけられた小さな鏡だ。  幼く見られがちな、ど…

翔花里奈
10か月前
14

「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(4)

*  * 「――お世話になりました」  燦然と輝く朝日が、ふわふわとした金髪を照らす。 …

翔花里奈
10か月前
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「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(5)

 エルが声を荒げるも虚しく、御者が収集家を引き上げるなり馬車は大きく方向を変え、来た道を…

翔花里奈
10か月前
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「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(6)

 *   *  港に到着するなり無理やり押し込まれた診療所から出ると、潮風の匂いがした。…

翔花里奈
10か月前
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「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(7)

 船は順調に海路を進み、空が藍色に染まるころ。  窓の向こうに、釣鐘型をした島・ビビアナ…

翔花里奈
10か月前
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「天使のいない世界で」第1章 あたたかな場所には、とどまれなくて(8)

 宿は民家を改築したものだそうで、他のところに比べて部屋数が少ないとのことだった。たしかに、今通過してきた一階の廊下には共用の浴室とトイレを含め、片手で足りるほどの扉しかなかった。 「お客さんたちの部屋は、二階だよ。あいにく建物側だから見晴らしも日当たりも良くないけど、角部屋の快適さは保証するからね」  歌うようにそう言い、女将が階段を登り始める。彼女の後ろに続いて手すりにつかまると、背中からエルの鼻歌が聞こえてきた。 (エルさん、喜んでくれてる。やっぱり、引き留めてよ