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【特急湘南26号 Vol.04】もしこの列車でゾンビが発生したらどうする?

この日もいつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。


『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』

いつもの座席に座った僕は、前にある物置き台を倒してスマホをセットする。昨晩途中まで見ていた映画の続きを見るためだ。

『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』はマンガ原作で、アニメ化、ネトフリでの実写映像化された作品だ。

〜あらすじ〜
ブラック企業に勤めるアキラは連日のパワハラやサービス残業により人間らしい生活をすることが叶わず、自殺願望を持つほど疲れ切っていた。そんな日々のとある朝、起床すると街はゾンビで溢れかえっていた。アキラはその様子を見ながら「今日から会社に行かなくてもいいんじゃね?」と歓喜する。こうして会社から解放されて自由の身となったアキラは「ゾンビになるまでにしたい100のこと」というリストを作成すると、その内容を達成すべく親友のケンチョに会いに行って朝まで飲み明かしたり、親孝行のために実家に帰省したりするなど自分のやりたいことを次々と実現させていく

Wikipediaより

ゾンビ化されるのをポジティブに捉えている主人公が、数多あるゾンビ映画と差別化されていておもしろい。ゾンビ映画に関しては色々と思うところがあるので別途分析する機会をいただきたいのだが、ゾンビ映画の何がいいって、とにかく気軽に鑑賞できるのがいい。片道43分の特急湘南で見るのには最適なジャンルだ。そういえば昔、映画館で『新感染 ファイナル・エクスプレス』を見たっけ。

列車という密室で起こるからこそのおもしろさがあったのに、その4年後を描いた続編が『新感染半島 ファイナル・ステージ』だった。半島って……。規模がでかくなりすぎたことに当時ガッカリしたのを覚えている。話は変わるが、密室ならではの怖さを考えるのであれば、もし特急湘南でゾンビが発生したら一体どうなってしまうのだろうか。大崎駅までは列車が一駅も停車しないとなるとなかなかの密室具合だ。

●自分以外がゾンビになったら……

ゾンビ映画を見ていると、「肉親や恋人がゾンビになろうがゾンビには変わらないんだから、とにかく早く殺せよ!」って思ってしまいがちだ。しかし、車内にいるメンツ(いつメン)たちがゾンビになってしまったシーンを想像してしまうと、きっと僕は彼らを殺すことができないだろうなと思う。ちいかわスタンプを多様している50代っぽいおじさん、いつもTikTokを見ているオフィスカジュアルな格好の女性、僕が持っているのと同じBEAMS限定のグレゴリーのリュックで職場に通っている兄さん、文庫本を読んでいるショーットカットの中年女性、本名どころか趣味も職業もなにもかも知らないけれど、彼らがゾンビになったらとても悲しい。特急湘南は逃げ場がないので、次の停車駅の大崎までじっとトイレの中で耐え忍ぶか、あるいは早々に自分が噛まれてゾンビ化したほうが気がラクかもしれない。

●隣の車両でゾンビが発生したら

このパターンなら、なぜか戦える気がする。この3号車のいつメンたちと結託して戦っている姿が目に浮かぶ。いつも前のほうに座っているめっちゃでかい男(体重100キロくらい)がこの戦いのキモとなるだろう。ヌリカベみたいに通路を立ちはだかってくれそうだ。一番うしろの座席をキープしていつも化粧をしている中年女性もあなどれない。たぶん、ねこ娘みたいにあの長い爪で引っ掻いて戦ってくれるだろう。その横にいるおじさんは小さいから目玉おやじだな。その3つ前の席に座っている男性は細身だからいったんもめんってことで。おっといけない。いつのまにか『ゲゲゲの鬼太郎』のメンバーになっていた。ゾンビが洋風なら、こちらは和風で対抗する思考になっているみたいだ。でも、このメンバーなら心強い。僕は下駄は履いてないけど、サンダルを履いているから鬼太郎だな。でも口調は「〜でヤンス!」だ。年齢はおそらくこの車内だと中堅だけど、気持ちはいつだって下っ端。「おいらの必殺技で倒すでヤンス〜!」とがんばっているところをアピールしたいところだ。もし大崎駅まで生き延びることができたら、とりあえず全員でダッシュして列車を降りて逃げよう。大崎エリアなら若者もいないし、ゾンビが暴れているイメージもないので大丈夫そうだ。きっとゾンビたちも空気を読んで渋谷まで行って暴れるに違いない。大崎事変より渋谷事変のほうが圧倒的に絵になるし。万が一、あのちいかわスタンプを多様しているおじさんが襲われて逃げ遅れたら、命をかけて戦ってもよいと今は思っている。おじさんのためなら、会社から支給されたPCを盾にしてもよいだろう。そのときは「20万円くらいするPCだけど、盾にするでヤンス〜!」という具合に叫んでトゥーマッチな下っ端魂を発揮したい。不思議と今は「この3号車を守るためなら犬死にしてもよいかな」という雰囲気になっている。命をかけてみんなを大崎駅まで連れて行く、それが僕の使命だと思っている。

なんてことを考えていたら、大崎駅に着いたみたいだ。
もちろんみんな無事だった。そして、この短い間に僕は大切なものに気付かされた。ドラマ『ロングバケーション』で山口智子が会場に現れた瞬間にキムタクが言った「サンキュ」と全く同じ口調で、いつメンたちに「サンキュ」とつぶやいた。

https://youtu.be/mosxg9um8aY?si=EdTkhYRYzWYSO-t_&t=86

その5分後、渋谷駅に到着。
結局『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』に全然集中できなかったので、また帰りの列車で見るしかないな。もしくは家で見よう。こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。



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