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映画『ジョーカー』を観た後でも観る前でも楽しめるジョーカー邦訳アメコミ10選!

2019年に公開された映画、ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞受賞作品の『ジョーカー』が日本でも大ヒットしたことは記憶に新しいと思います。

本作は、あの凶人ジョーカーが主人公なので、もちろんR指定です。とはいえ、あくまで個人的な意見ですが、それほど過激でグロテスクなシーンはありませんでした。過激さよりも映画の内容に引き込まれてしまい、いつしか自分がジョーカー側に立って彼を応援しているという恐ろしさを感じました。ちなみに、R指定映画での世界興行収入ランキング第1位は『デッドプール2』でしたが、『ジョーカー』は、あの爆発的な勢いのあったデッドプールの記録までをも塗り替え、R指定映画の第1位となりました。必ずや映画史に残る作品となるでしょうね。

「ヴィラン」という言葉の浸透

「ジョーカーは、ヒーローではなくヴィランだ」と言ったとき、いまでは多くの人がその意味を理解してくれるはずです。「ヒーロー(Hero)」という言葉は昔からよく使われていたと思いますが、ヒーローに対する「ヴィラン(Villain)」という言葉が日常的に浸透したのはここ数年ではないでしょうか。ヴィランとは、悪党、悪者、悪役、敵役という意味ですが、アメコミではよく使われる言葉です。ずいぶん昔の話になりますが、私が邦訳アメコミに携わりはじめた当初は、日本語で「ヴィラン」と表記して読者に通じるものか悩んだことがあったくらいです。

ヴィランという言葉の認知度が上がったのは、アメコミ映画が途切れることなく公開され、広がりをみせていったのも理由の一つです。アメコミ映画は80年代、90年代にもありましたが、2000年代に入ってからは多くの作品が公開されました。なかでも『X-MEN』(2000年)や『スパイダーマン』(2002年)は、いまのアメコミ映画の礎を築いたといっても過言ではないかと思います。2008年には『ダークナイト』や『アイアンマン』、2012年には『アベンジャーズ』など、現在では誰もが知っている作品が公開され、ある種ニッチ的なイメージのあった「アメコミ」という言葉が浸透し、アメコミ映画というジャンル自体も市民権を得ました。スーパーヒーローが主人公のアメコミ映画にとって、敵役であるヴィランは必要不可欠な存在です。MCUでも、『スパイダーマン』シリーズでも、DCEUでも毎回個性的なヴィランが登場します。さらには、2016年の『デッドプール』や『スーサイド・スクワッド』、2018年の『ヴェノム』など、ヴィランやアンチヒーローを主人公にしたアメコミ映画も多くの人に受け入れられました。そのような流れのなかで、「ヴィラン」という言葉も浸透したのだと思います。

また、日本のマンガやアニメ作品の中でも「ヴィラン」という言葉が使われはじめたことも大きかったと思います(実は最大の理由かもしれませんが……)。2014年から週刊少年ジャンプで連載が始まり、2016年からアニメシリーズも放送されている『僕のヒーローアカデミア』がその代表的な作品です。作中でも、超常能力である「個性」を悪用する敵をヴィランと呼んでおり、その悪の組織をヴィラン連合と称しています。かくにも、ヴィランという言葉が日常的に通じるなんて「いい時代になったなあ」と、大袈裟かもしれませんが、いちアメコミ読者としては感慨深い気持ちでいっぱいになります……と、ここまで書き終えたところで、本題である邦訳アメコミをご紹介いたします!

ヴィランを代表する“ジョーカー”が活躍する邦訳アメコミ10選!

DCEUとは無関係、原作とはまったくの別物と聞いて、映画『ジョーカー』を鑑賞しました。ジョーカー役のホアキン・フェニックスの怪演もあってか、個人的には原作のイメージを壊さずにジョーカーを描いた作品だと感じました。また、過去の名作映画を想起させるシーンも鏤められているので、映画ファンには堪らない作品ですね。売れないコメディアンが“ジョーカー”という凶人になるまでを描いた物語なので、原作や背景を知らなくてももちろん楽しめます。ただ、アメコミ読者ならニヤリとするシーンもあったのではないでしょうか? そこで今回は、鑑賞前でも鑑賞後でも楽しめるジョーカー邦訳コミック10作品をみなさまにご紹介したいと思います。

1.『バットマン:キリングジョーク 完全版』

本作は、あの『ウォッチメン』を書いたアメコミ界の鬼才ライター、アラン・ムーアが放つジョーカー誕生譚です。ジョーカーのオリジンを描いたアメコミはいくつかありますが、代表作といえば、必ずこの「キリングジョーク」が挙げられるので、映画の下敷きにもなっているはずです。実際、売れないコメディアンという設定や貧しくも家族(原作では妻、映画では母親)の生活を支えなければならない設定などは共通しています。読み切り作品で、邦訳アメコミのなかでは比較的良心的な価格(本体価格1,800円+税)なので、映画を観た人はぜひ手に取ってみてください。

2.『ジョーカー[新装改訂版]』

アーカム・アサイラムから釈放された凶人ジョーカー。彼に憧れ、彼の下で働く青二才ジョニー・フロストを通して、ゴッサムシティで暴れる、残忍で凶暴なジョーカーの姿が語られていきます。本作の最大の魅力は、人気アーティストのリー・ベルメホが描くジョーカーです。見てください、この生々しいジョーカー! 表紙だけではなく、本編もベルメホが担当しているので、リアルでカッコいいジョーカーが好きな人は必読です。本書も読み切りのグラフィック・ノベルで、価格も『バットマン:キリングジョーク』と同じです。また、リー・ベルメホが脚本と画を担当した『バットマン:ノエル』はこの時期にぴったりな内容ですので合わせてお読みください(もちろんジョーカーも登場します!)。

3.『バットマン:喪われた絆』
4.『ジョーカー:喪われた絆〈上〉』
5.『ジョーカー:喪われた絆〈下〉』

新規読者にも入りやすいように、DCコミックスのユニバース全体を再構築し、物語をリスタートした“ニュー52”というシリーズがあるのですが、そのシリーズのバットマン誌で初めてジョーカーが登場したのが、この「喪われた絆」編です。本編は『バットマン:喪われた絆』、その外伝にあたるのが『ジョーカー:喪われた絆』になります。3巻まとめてお読みいただくと、物語を完全に把握することができておススメです。もちろん本編だけでも、ジョーカー上下巻だけでも楽しめますよ!

6.『バットマン:ヨーロッパ』

本書は、2019年9月に発売した邦訳コミックです。アメリカで2015年に発表されたミニシリーズが底本なので、比較的新しいコミックになります。ウイルスに侵されたバットマンとジョーカーが治療薬を求めてヨーロッパ各地を巡るという物語なのですが、宿敵である二人の旅路の果てには何が待ち受けているのか……続きは本書でお楽しみください。

7.『ジョーカー:ラスト・ラフ』

2019年1月発売の邦訳コミックです。2019年は、映画『ジョーカー』の公開が控えていたので、後にも続きますが、多くのジョーカー関連コミックを刊行しました。また、1940年にアメリカで発売された"Batman #1"で初登場を飾ったジョーカーにとって、2020年は生誕80周年にあたる年でもありました。今後も多くのジョーカーの邦訳コミックが刊行できるよう、引き続きご声援のほどよろしくお願いします。本書「ラスト・ラフ」では、犯罪界の道化王子という異名を持つジョーカーの変人的な行動に注目です。彼が放つ一世一代のジョークとは……ご期待ください。

7.『スーパーマン:エンペラー・ジョーカー』

2019年10月に発売した作品です。本書は、邦訳リクエストが多かったので、いつか刊行しようと考えていた作品です。ジョーカーの宿敵といえばバットマンですが、今回、ジョーカーの前に立ちはだかるのは“鋼鉄の男”スーパーマンです。スーパーマンは宇宙の皇帝となったジョーカーを倒すことはできるのか? ジョーカーというキャラクターの幅の広さを感じる一冊です。

9.『バットマン:ダーク・プリンス・チャーミング』

日本では『バットマン:ヨーロッパ』と同時発売した作品になります。アメリカでは2017年に第1巻、2018年に第2巻が発売され、その後、合本版が発売されました。本書は合本版を底本にしています。バンド・デシネ(フランスのマンガ)作家のエンリコ・マリーニ(フランス人ではなく、実はイタリア人です)がバットマン&ジョーカーの物語を描いているのが特徴です。バンド・デシネ作家による渾身のアートをご堪能あれ!

10.『バットマン:アーカム・アサイラム[増補改訂版]』

本書は、ライターにグラント・モリソン、アーティストにデイブ・マッキーンという、奇抜で独特な世界観を持つ二人が生み出した伝説的なコミックです。2020年8月にグラント・モリソンのラフスケッチとデイブ・マッキーンによるアートギャラリーを新たに追加し、[増補改訂版]として、改めて発売した一冊です。


さて、気になる邦訳コミックはあったでしょうか? 上記以外にもジョーカーは様々なコミックに登場しております。個人的には『バットマン:マッドラブ 完全版』のジョーカーが大好きです。それにしても、“ジョーカー”は、なぜこれほどまでに人を魅了しつづけるのでしょうか……その答えは邦訳コミックのなかにあるのかもしれません。

では、今日はこの辺で失礼いたします。