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時間の無い世界で、また君に会う 第5章 夢の都会

〜前回までのあらすじ〜

時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」。

時間に対して考えている時に道端で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。

その紙に書かれたことが気になったトキマは、偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市に行き、そこで一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。

彼女は時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができる力があった。

時を無くす力を使って時間が存在しない素晴らしさを伝えようと、僕らはライブ配信を始める。

時を無くす力を使って色んな依頼をこなしていくうちに、咲季の時を無くせる時間が徐々に伸びていることにお互いが気づいたのであった。

ある日、ファンが見守る中、時の鐘を鳴らし終えた咲季の手を取ったトキマは走り出すのであった。


僕は彼女の手を取って走り出した。
それは無意識に身体が勝手に動いた結果であった。

「トキマ?どうしたの?」と彼女は走りながら不思議そうに僕を見つめる。

「時間から逃げてる!」と僕は笑いながら言った。

もちろん、無意識に身体が勝手に動いた僕に理由なんてわかるはずもなかった。

「なにそれ!」と彼女はふふっと笑っていた。

「どこか行きたいところある?」と僕は彼女に顔を向けた。

「なにも決めずに走ってるの?」と彼女はまた笑う。

「う…うん…」と僕は彼女から目を逸らした。

「そしたら池袋に行ってみたい!」と彼女は答える。

「わかった!」
僕は前を向いて走った。

駅に着いた僕らは突然時間がなくなって混乱している世界を目の当たりにした。

「現在発生している時間把握ができない原因不明の障害により、ダイヤが大幅に乱れていることお詫び申し上げます。時間が把握できない障害に関しましては現在日本政府が…」と駅内ではアナウンスが流れていた。

時間が無くなっている外の様子を見るのは初めてだっただけに、僕らは驚きを隠せなかった。

「おい!どうなってんだよ!」

「いつになったら電車は来るんだ!これじゃあ遅刻しちゃうじゃないか!」

出勤前の時間に縛られたサラリーマンたちが声を荒げて駅員さんに問いただしていた。

「すいません!すいません!」と平謝りをし続ける駅員さん。

少し悪いことをしてしまったと思いながら、僕らは駅員さんたちの横を知らない顔をして通りすぎた。

駅のホームに着いた僕は無意識に時刻表を覗く。

彼女は「次来るのは…」と時刻表を眺めていた僕の頬をつねる。

「時間…無くなってるから時刻表意味ないよ!」

「そういえばそうだった…!」と僕は笑う。

電車は時間があって始めて機能するものである。
時刻表は1872年に新橋と横浜を繋ぐ日本初の鉄道が開業した時に生まれたと言われている。

ただの歴史好きの浅はかな考えだが、おそらく当時のお偉い人たちが庶民にも時間を定着させ、時間で人を管理できるようにするための一環だったんだろう。

「そしたら歩いていこう!」と僕は彼女を見る。

「うん!」と彼女は僕を見る。


川越から池袋まで総距離は約30km。歩いて6時間ちょっとだ。

基本的に毎日の交通手段が自分の足だけだった江戸時代の人たちなら簡単に歩ける距離だが、歩くことをしなくなった現代人の僕らにとっては大変な距離だ。

それでも僕らは歩いた。
歩きながら僕らは色んな話をした。

「トキマってお父さんから教わったことって何かある?」

「ん〜。母親が怒ってる時の対処法とか、男の料理とかかな?」

「怒ってる時の対処法ってなに。笑」

「俺の自慢のお母さんはいつも優しいんだけど、ごくたまに怒ることあるんだよね。そんな時に怒りを沈める方法とか教えてくれるんだ!」

「どんな対処法?」

「ハイビスカスのお花を買ってきて渡す!そしたら笑ってくれるんだ!」と僕は鼻高々にいう。

「さすがお父さんだね!」
ふふっと笑いながら彼女は言った。

「さすがお父さん?」となにも分かっていない僕は首を傾げた。

「咲季はお父さんからなに教わったの?」と今度は僕が彼女に同じ質問をする。

「私がお父さんから教わったことはね〜。時の鐘の鳴らし方とか家の歴史の話かな!」

「時の鐘の鳴らし方?」と小馬鹿にする僕。

「時の鐘鳴らすの簡単に見えると思うけど、意外と難しいのよ?」と彼女は頬を膨らませた。

「今度俺にも教えてよ!鐘の鳴らし方!」

「いいよ!今度教えるね!あ…でも徹夜は覚悟してね!」

「え…?そんなに大変なの?」と僕は足を止める。

「嘘だよ!」と彼女は後ろを振り返って僕を笑う。

「なんだよ。びっくりしたじゃんか!」と僕は走って彼女に追いつく。

そんな他愛もない話しているうちに僕らは池袋に着いた。

時間は多分お昼時。

時間も何も気にしない若者たちがワイワイと話ながら歩いていた。

「わぁ〜すごい!」彼女は目をキラキラさせながら辺りを見渡す。

「そういえば、なんで池袋なんだ?」と僕は彼女に聞く。

「小さい頃から都会に出てきたことがなくてね。ずっと川越とその周辺で生きてきたの。」

「マジで?」と僕は驚く。

「でも全然苦じゃなかったから気になんなかったよ。でもちょっとした憧れだったの。」

「なら全力で楽しまないとな!」

「うん!」
彼女は静かに笑った。

駅の大スクリーンに臨時ニュースが流れている。

「速報です。現在世界的に起こっている時間がなくなる『バニッシュタイム現象』を早急に対策しようと世界各国の首脳が集まり国際会議が開かれることになりました。新しい情報が入りましたら…」

世界の混乱に全く気づいていない僕らは池袋で遊び尽くした。

「どう?トキマ!この服似合ってる?」
「(かわいい…)ゴクリ」
「ねー聞いてる?」
「聞いてる聞いてる!めっちゃ似合ってるよ!」
「そう!そしたらこれにする!」

「愛にできることは…♪」
「団子三兄弟…♪」
「ありがとうって伝えたくて〜…♪」

「よっし!」
「トキマすごいじゃん!」
「え…私も全部倒せた!」
「咲季すごいよ!ストライクだよ!」

「おじさん!ケバブちょうだい!」
「ハイヨ〜。二人ともお似合いダカラ特別大サービスネ!」
「わ〜!ありがとうございます!」

「トキマ!見てみて!クラゲが綺麗!」
「ホントだ!綺麗!」
「こっちはクマノミだ!」
「え…どこにいるの?」
「トキマ見えないの?このイソギンチャクの中にいるよ!ほら!」

僕らはいつの間にか時間を忘れて楽しんでいた。


「今日はありがとね!いつの間にか夜になっちゃってた!」と彼女は満足げな顔をする。

「そうだね。今日はもう遅いし帰ろうか!」と僕は彼女と駅に向かった。

池袋駅に戻ってみると不思議な光景を目の当たりにした。

まだ時間は無くなったままだったのだ!

時間は無くなったままなのにも関わらず、電車は不規則ではあるが走り出していた。

「人が進化し続けてこれたのって案外こう言う適応力のおかげなのかも知れない。」と僕は心の中で呟く。

「今日はいつも以上に時間が無くなったままだね。」と僕は笑う。

「そうだね。」と彼女は少し不安な顔をする。

「まぁ明日には元に戻ってるから気にすんなって!」と僕は彼女を励ました。

「そうだよね。」
彼女の顔には少し笑顔が戻った。

「あ、明日。行って見たいところあるの!だから12時くらいに池袋駅に待ち合わせしない?」と上目遣いをする彼女。

「分かった!楽しみにしてる!」と僕は言う。

「「じゃあまた明日!」」
僕らは互いに手を振った。


帰宅した僕はお風呂に入る。

「そういえば咲季が言ってた行きたいところってどこなんだろう…」と湯船に深く浸かってブクブクさせながら考えた。

「池袋初めてって言ってたし、流れで新宿?それとも動物園かな?」とワクワクする僕。

「どっちにしろ明日行けば分かるか!」と僕は風呂を出た。

風呂に上がり僕は牛乳をごくごく飲んだ。

牛乳を飲む僕の前にお母さんが心配そうな顔でやってきた。

「ねぇ。今日時間が無くなったって言うニュース見たんだけど、トキマ大丈夫だった?」

僕は飲み終わって空になったコップを流しに置く。

「大丈夫だったよ。きっと明日には元に戻ってるはずだから気にしなくていいよ。」と僕はバスタオルで濡れた頭を拭きながら自分の部屋に入った。

僕はすぐに布団に飛び込む。

「場所くらい聞いておけば良かったな…そしたらデートスポットとか検索できたのに…」と僕は布団で顔を隠した。


次の日の朝。

僕は焦っていた。

「なんでだ?なんで?」と急いで準備をした僕は勢いよく家を出た。

━━━なんで時間が無くなったままなんだ?

〜to be continued〜


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