見出し画像

時間の無い世界で、また君に会う 第11章 迷子

〜前回までのあらすじ〜

時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」はある日、夜道で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。

紙に偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市に行き、そこで時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができる力を持つ一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。

ある日、咲季と池袋で遊んだ帰りに「次の日も会おう!」と待ち合わせをするが、起きてみると時間がなくなったままで、咲季はどこにもいなかった。

━━━咲季を見つける唯一の可能性と言えるのが「時切稲荷神社」!

地元の神社の神主ジショウおじさんに時切稲荷神社について詳しく聞いた僕は、急いで岡山県に向かう。

しかし、スマホの電源が付かなくなり、ジショウおじさんから貰った古い地図を頼りに歩くしかなくなってしまう━━━


太陽がちょうど真上にある頃。
僕は地図を見ながら山道を歩いていた。

しかし、いくら見ても地図が古すぎて自分がどこにいるのかさえも分かっていなかった。

「俺は今どこにいるんだ…ここはどこなんだ…」
この時の僕の地図を持つ手は小刻みに揺れていた。

それでも僕は地図を諦めずに見続けた。

地図のどこかに目印になるものがあると信じていたからである。

大昔から残っているものは基本的には新しい時代への移り変わりとともに消えていくが、それはあくまで都市部の話である。

ここのような地方の山やその付近などは変わらず昔のままの姿で残っていることは多い。福島県にある大内宿や長野県にある海野宿などの宿場はいい例である。

つまり、そういった昔と同じものを何かしら見つけることができれば、ある程度の場所が割り出せるということだ。

時間による劣化か、所々が薄くなり、色あせて見づらい地図を僕は目を細めながら隅々まで見た。

「何か…!何か手がかりを…!」


何時間経っただろうか。

地図を見ながら歩いていると、いつの間にか地図が見えなくなっていた。

「おかしいな…」と僕は辺りを見渡すと真っ暗な世界が広がっていた。

すでに夜になっていたのだ。

偶然にも小さな明かりが見えた僕はそこへ向かう。

「自動販売機か…!」

僕は久しぶりに笑った。

一人で山道を歩く僕にとっては自動販売機の光がとても嬉しかったのである。

この時の僕は、電気がなくて夜が真っ暗だった江戸時代の人の気持ちが何となくわかった気がした。

僕は疲れ切って動かない足を引きずりながら自動販売機の光に向かって歩く。

なんとかたどり着いたその自動販売機には幸運にもおでんが売っていた。

「おでんだ!」と僕は人差し指で突くようにボタンを押した。

ガタンと出てきたおでんの缶を僕はしゃがんで取り出す。

「あっつ!」
ボーッとしていた僕はおでんの予想以上の熱さに声を出す。

自販機の横に付いていた割り箸を手に取り、口に加えて割り、静かに手を合わせた。

「━━いただきます!」

暗闇の中の自動販売機の微かな光に照らされながら僕はおでんを食べた。

「美味しい。」
久しぶりに食べた暖かい食べ物に笑顔が止まらなかった。

「大根だ!おでんと言ったら大根だよな!」と僕は横を向く。

しかし、横にはもちろん彼女の姿は無かった。

「あ…そういえばそうだった…」と僕は静かに大根をかじる。

「久しぶりにキンキンに冷えた麦茶飲みたいな…」と真っ暗な空を見上げた。

食べ終わった僕は念のためいくつかおでんの缶を買い、バッグにしまう。

「ごちそうさまでした━━」

僕はいつの間にか寝てしまった。


それから毎日のように地図とにらめっこしながら歩いた。

行き止まりにあったり。

木にぶつかったり。

僕は合っているかも分からない道をただひたすらに歩き続けた。

もう何日経っただろうか。
買いだめしていたおでんは底を付き、体力も限界をとうに超えていた。

━━いつの間にか僕は迷子になっていたのだ。

その事実を受け止めた瞬間、意識が朦朧として倒れた。

「咲季…ごめん…」
僕の目は閉じようとしていた。

その瞬間。
柔らかい風が吹き、辺りの木々が音を奏でる。

僕の頭の上にひらひらと一枚のピンクの花びらが落ちた。

コツコツ。
遠くから微かに杖をつく音がした。

その音を最後に僕は目を閉じた。


気づくと僕は暗い場所にいた。

辺りは何もない。

ただ真っ黒な世界があるのみ。

僕はとっさに「誰か!」と叫ぶ。

しかし、なんの反応もない。

真っ暗な世界を歩いてると、遠くに人が見えた。

「咲季?」僕はその人の方に向かって走り出す。

後ろ姿しか見えないが、毎日一緒にいた僕にはわかる。あれは間違いなく咲季だった。

「咲季!咲季!」と僕は走りながら声をかけるが反応がない。

追いかけているのにいつになってもたどり着かず、咲季とはどんどん離れていく。

「なんで?どうして?」僕は離れていく咲季に向かって必死に手を伸ばしたが、ついに見えなくなった。

針が止まるように僕の足が止まる。

暗闇で立ち尽くしていた僕の頭に突然何かに叩かれたような激痛が走る。

「痛っ!」と僕は目を開けると目の前には杖を持ちながら座布団に座っているおばあさんがいた。

おばあさんの後ろに本棚が見えた。

よく目を凝らすと何冊か本が置いてある。

「なんか見たことある本だな…なんだっけ…?」と僕は頭を傾げた。

よくよく辺りを見渡すと、とてもとても古い家だった。

居間には囲炉裏があり、井戸が家の中にあった。
現代じゃ考えられない様式の家だ。

「江戸時代にタイムスリップした気分…」と僕は心の中で呟く。

「あの〜、もしかして、ここは天国ですか?それとも地獄ですか?」と僕は小さな声で尋ねる。

「天国でも地獄でもないわよ!」とおばあさんは持っていた杖で僕をコツっと叩いた。

「痛ってえ〜」と僕は両手で頭をおさえる。

「あなた、ずっと咲季咲季咲季咲季言ってたわよ」とおばあさんは笑いながら話す。

あまりの恥ずかしさに僕は顔を下げた。

そしてまたコツっと僕はおばあさんに叩かれる。

「あんた、まだ諦めていないわよね?」とおばあさんは僕に言う。

「あ、当たり前じゃないですか!」と僕は顔をあげる。

「ならよろしい」とおばあさんは持ってる杖に両手を置いて笑顔を浮かべた。

おばあさんは重い腰を上げて立ち上がり、オレンジ色に輝く障子を開ける。

「眩しい」僕は手を目の上にかざしながら見上げる。

「この世界にはね。無駄なものなんて一つもないんだよ。全てに意味がある。この太陽だってそう。太陽の光は朝を教えてくれるし、植物や、もちろん人間にも生きるためのエネルギーになるんだよ。」とおばあさんは遠くを見る。

「だから諦めずに、無駄だと思わずに、歩いてみなさい!」とおばあさんは僕を見て微笑んだ。

「ありがとうございます!」と僕は立ちあがる。

「そういえばおばあさん。どこかで会ったことありましたか?なんか初めて会った気がしなくて…」と僕は首を傾げる。

「意外と世界は狭いと言うからね。どこかで会っているかもしれないね」とおばあさんは外を見る。

僕は静かに会釈をして外に出る。

歩こうとした時、ふと本棚に置いてあった本が気になった僕は後ろを振り返った。

「そういえばおばさん…!」

そこにおばあさんの姿は無かった。

「おばあさん…?」と家の中に恐る恐る入る僕。

「どういうこと…?」と僕は戸惑う。

使い終わった炭が散乱している囲炉裏。

水が全くない井戸。

そして蜘蛛の巣が張った本棚。

さっきいた家が一瞬で何百年も経ったようだった。

僕は本棚に置いてあった本を手に取る。

かぶっていたホコリを払うと時稲荷神社という文字が見えた。

僕は無我夢中で紙をめくる。

どうやら時稲荷神社に深い関わりがある人物による日記のようだった。

「誰なんだろう…?」とペラペラめくっていると最後のページにたどり着く。

最後のページを開くと、そこには一枚の古い紙が挟まっていた。

それは時稲荷神社の行き方を記した地図だった。

「あれ。これ…似てない?」
僕はポケットからジショウおじさんから貰った地図を取り出す。

僕はジショウおじさんから貰った地図と日記に挟まっていた地図を比べる。

「やっぱりそうだ!同じ地図だ!」

ジショウおじさんから貰った地図は時間による劣化で所々が薄くなっていたが、日記に挟まっていた地図は鮮明なままだった。

僕は日記に挟まっていた地図を凝視する。

「あ!」僕は一つのことに気づく。

ジショウおじさんから貰った地図の薄くなったところには、元々一つの家が描かれていたのだ。

日記に挟まっていた鮮明な地図と比べないと気づかないことだった。

「この家って…」と僕は外に出て、地図と家を重ねてみた。

「やっぱり!」

その地図に描かれている家はまさにこの古い家だったのだ。

「つまり、時切稲荷神社はこの家の前の道を進んだ先か!」

僕は誰もいない家に向かって静かにお辞儀をする。

一抹の時が流れた後、頭をあげた僕は歩き始めた。

〜to be continued〜


【続きはこちら!】


サポートも嬉しいですが、読んだ感想と一緒にこのnoteを拡散していただけるとめっちゃ嬉しいです!