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役員賠償事故から見る、中小企業の役員が直面する脅威の増大と中小企業のD&O保険の必要性[要約]

 保険業界のデータプロバイダーであるAdvisenが発表した調査によると、過去10年間のD&O保険金請求のうち、中小企業が占める割合は70%であった。

 この間、保険金請求件数は大企業の対前年200%増に対し、中小企業は対前年300%増という驚異的な伸びを示し、企業規模を問わず役員等賠償責任保険(D&O保険)の重要性が高まっていることが浮き彫りになった。


主なリスクシナリオ

 D&O保険は、様々な法的措置や損害賠償請求から企業やその役員を保護する上で重要な役割を果たしている。その中には企業の大小問わず、以下のようなものがある:

善管注意義務違反

 これは、株主・投資家が企業の役員が第三者の協力会社と個人的な繋がりがあり、他の役員が適切な審査なしにプロジェクトを承認してしまい、注意義務を怠ったとして会社を訴えるシナリオを指す。

労働基準法違反

 不当解雇、差別、ハラスメントの場合、企業や役員に対する訴訟に発展する可能性がある。

知的財産窃盗

 新任の幹部が以前に就任、もしくは、雇用されていた企業から独自技術や企業秘密を盗んだとして訴えられた場合、その幹部は新任した企業の他役員と共に、不正競争や商標権侵害の訴訟に直面する可能性がある。

不実開示

 企業がサプライヤーや利害関係者との約束を破った場合、損害賠償を求める法的措置に直面する可能性がある。

投資家による訴訟

 ベンチャー・キャピタル、プライベート・エクイティ企業、あるいはその他の投資家から資金を得ている企業では、その資金を上手く活用できず、投資家の期待外れから損害賠償請求が発生する可能性がある。投資家は企業に資金を投入する際、勿論資金を失うとは思っておらず、失うと訴訟に発展することが多い。

 上記シナリオは、ベンダーや顧客との関係を持ち、ベンチャー・キャピタルからの資金調達を目指す企業、あるいは会社の業務管理に関して訴訟当事者に狙われる可能性のある役員を擁する企業にとって、D&O保険の重要性を強調している。

高まる独占禁止法に係るリスク

 独占禁止法違反は大企業に関連することが多いが、それ以外の上場企業、非営利団体、中小企業の役員も独占禁止法のリスクに留意しなければならない。このようなリスクは、政府機関、競合他社、サプライヤー、請負業者からの法的措置や規制措置という形で現れる可能性がある。

 話は少し逸れるが、米国のバイデン政権下では、特にコーポレート・ガバナンスや社会・環境問題に関する情報開示などの分野で、より強力な執行活動が行われることが予想される。

 一般的な私的請求は、従業員の「解雇」請求や契約上の干渉に関連することが多い。これらは、いずれも高額な訴訟に発展する可能性があり、高額にりがちな訴訟費用やそれら紛争性によって和解は通常困難であるため、効果的なD&O保険の必要性は高まるだろう。

ベストプラクティスとD&O保険の役割

 リスクを完全に排除することはできないが、ベスト・プラクティスを導入することで、リスクを軽減することができる。これには、秘密保持契約や競業避止契約を理解すること、新入社員が専有情報を持ち込んでいないことを確認すること、潜在的な知的財産の問題に関連するデュー・ディリジェンスを実施すること、製品やサービスの主張を検証することなどが含まれる。

 これと並行して、強固なD&O保険契約を結んでおけば潜在的な法的対立に対するセーフティネットとなる。しかし、独占禁止法、不正競争、不法妨害の広範な解釈に関連する潜在的な除外事項があるため、適切な補償を確保するのは複雑な場合がある。

 D&O保険を専門とする保険ブローカーや保険会社と協力し、補償のニュアンスを十分に理解することが極めて重要である。

 さらに、契約検討の初期段階で引受チームや損害対応チームを関与させることで、損害賠償請求が発生する前に補償の意図をより明確に理解することができる。様々な訴訟のシナリオを検討することで、役員並びに企業は補償内容に関する準備と情報をより充実させることができ、交渉プロセスを円滑に進めることができる。



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