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いつの間にか球児たちを追い越していた

「大きなお兄ちゃんたちが野球をやっている」

幼い頃の思い出として、頭の片隅に残っている夏の甲子園。
ブラウン管の向こうで野球をしている高校球児たちはとてもまぶしくて、とても大きなお兄ちゃんに見えた。

高校野球といえば松山商業だった。
祖父母が松山に住んでいたから。
スポーツニュースで真っ先に流れるその試合結果を見て、祖父は表情にこそ出していなかったが、機嫌が良くなったり悪くなったりした。

昭和61年の夏大会で決勝に進んだ松山商業は奈良県代表の天理高校と対戦した。
結果は惜しくも準優勝。
僕の中で今でも「天理高校=すごく強い高校」のイメージがあるのはこの年のせいだ。

ずっとずっと年上だと思っていた高校球児たち。

あの奇跡のバックホームで松山商業が熊本工業を破って優勝した夏。
僕はもう彼らと同じ高校生だったけれど、その年でもまだ年上のお兄ちゃんたちがプレーしているんだと、そういう気持ちで試合を見ていた。
そしてその感覚は高校卒業後もなお続いた。

けれどもある年に突然彼らは年下になった。
さすがに僕はもうこの頃には戻れないと悟ったのだろう。
球児たちが今まさにいる”青春”と呼ばれる時代から自分が外れたことに気付いてやっと、僕は高校球児を年下だと思えるようになった。

心身共に彼らの年齢を追い越した僕の目に、相変わらず高校球児の姿はまぶしく映っているけれども、もう彼らを大きいお兄ちゃんとして憧れるようなことは無くなった。
その代わりと言っちゃなんだけれども、今まさに青春を謳歌している彼らの姿は、時折僕に嫉妬の気持ちを抱かせる。
年を取ることは悪いことではないと思うし、今の生活に不満は無いけれども、僕にはもう絶対に手に入れることができない輝いた時間のど真ん中にいる彼らが、どうも羨ましくてたまらない。

僕だってあの頃は同じように青春と呼ばれるその場所にいたはずなのに。
球児の頑張りに思わず涙してしまうときには、そんな感情も混じっているように思っている。

今年の甲子園もベスト4が出揃った。
高校三年生にとっては最後の夏。
きっと一生忘れることはないこの夏を、悔いが残らないように最後まで頑張って欲しい。

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