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ラストシーンには色鮮やかな、黒い地色に、赤いAの字〜ホーソーン 『緋文字(ひもんじ)』

とにかく、序文がやたらと長い。

400字詰め原稿用紙で90枚超とか。

鴨長明の『方丈記』の数倍はある(執筆の目的が違うので比べるものじゃないけど)。

ちなみに、この新訳版は「全訳」とのこと。

これまでの古い翻訳では序文を省略することが多かったそうで、今回はそれをせず、全て訳したと。

たしかに、省略しても(読まずとも)本編を読むのにはそれほど差し支えはないんだけれども

それでも、やっぱり(全訳なので)読んだほうがいいだろう。

本編を書くきっかけになった出来事。その周辺の事情が著者の実生活の断片をともなって描写されている導入部になっているのだから。

まぁ、くわしいレビュー、感想についてはわたしのような超初心者よりも、はるかに詳しい読み手たちによるものがAmazonのレビュー欄に投稿されているので、必要であれば相応に参照すればいいかと。

もちろん、どれも個人的な主観によるものなので、あまり引っ張られないていどに。

ストーリーについては、暗い。

けれども熱い。

「緋文字(ひもんじ)」という小道具が象徴的に使われていることで、それ以外(作品世界)はモノトーンなのに(対照的にそう感じる)かえって色彩豊かな(物理的、物質的な色付けという意味ではなく)印象をあたえる。

関係はないけれど、映画『シンドラーのリスト』で使われた、あの赤の効果を思い出す。

ちなみに緋文字の「緋」色は、赤と同じ意味で、太陽や火の色を表すそう。

火をイメージさせることから「火色(ひいろ)」ともよばれるとか。

そうと知ると、このタイトルの日本語訳はどんぴしゃりとはまっている。

ホーソーンが友人にあてた手紙には、本作について「まったく地獄の火に燃やされたような話です」とあったそうで。

また、結末をホーソーンの奥さんに読んで聞かせると、彼女は頭が痛くなるほど悲しいと言って寝てしまったとか。

それを聞いたホーソーンは「これなら大成功ではないかと思います」とも書いている。

このエピソードからも、本作の狙いはただ「暗い」のではなく、燃えるような熱さにこそあるのだろう。

暗いけれど「燃える」話。

ラストシーン、最後の一文は、それにふさわしい鮮烈な「火色」が目の前にひろがる。

うつくしい。

黒い地色に、赤いAの字


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