一宮 集

一宮 集

マガジン

  • 健やかなる時も①(クウェート編)

    【あらすじ】2024年、イスラム過激派系テロ組織と欧米諸国との戦いが各地で激化していく中、連合軍の補給基地であるクウェートで軍医として働く穂積仁。アフガニスタンで救出された日本人を受け入れた同年5月26日、過去と未来を巻き込んでの謎解きは、この日から始まったのだ ──── 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/n3b01af960431 ※2008年1月28日からYahoo!ブログで連載していたSF小説を、ほぼ当時の体裁のまま掲載しています。 ※※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

  • Zingaro

    【あらすじ】パートナーとの別離を経て次第に道を踏み外していく銘と、彼を支えようと奮闘する人々。その中でまた、新たな出会いが始まって ──── 前作、Bilheteの続編です。 ※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。 目次 &参考音源一覧 https://note.com/shu_ichimiya/n/n69a434825bc5 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/n21590c4df5c4 プロローグ https://note.com/shu_ichimiya/n/n55d84a1d6832

  • 徒然(雑記)

    近況報告、音楽の話、殴り書きのエッセイなど。※ネタバレを含む記事やプライベートな記事は、有料にさせていただきます。興味のある方はどうぞ。

  • Bilhete(完結)

    【あらすじ】キャリアの頂点に達したその日、病に倒れたベーシスト。両親の庇護を離れ、音楽以外に生きる道を模索しようとする彼の前に現れたのは ──── 過去作「青の旋律」のスピンオフです。 ※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。 目次 &参考音源一覧 https://note.com/shu_ichimiya/n/nbdbd2af99451 プロローグ https://note.com/shu_ichimiya/n/n348b3b2d26dc 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/naae12fd02d70

  • 取材旅行記Ⅰ(全9回)

    連載中のBilheteの舞台である入谷、三ノ輪、上野、田町、芝浦をメインに、池袋、表参道、銀座周辺まで、実際に歩き回ってきました。コロナ禍で長らく取材が出来なかったので、自分の記憶とネットの情報を頼りに書いていたのですが、やはり現地に行ってみて正解でした。取材ついでに在京の友人達とも会えたし、久し振りにライブハウスにも行けたし。ハードスケジュールながら、充実した2日間でした。 ※多少ネタバレを含むのとプライバシー保護のため、有料記事にしてあります。

最近の記事

  • 固定された記事

Zingaro(目次&参考音源・BGM一覧)

※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。 Bilhete(前作) BGM一覧(YouTubeリスト) 登場人物紹介 プロローグ  Bob Berg / Promise 1.  Booker Ervin / Dorian 2.  Hank Jones / Interface 3.  Chet Baker / Seila 4.  Kenny Barron - Regina Carter / A Flow

    • 健やかなる時も① 125

      1245。 回復した佐藤曹長と共に、司令部へ向かう。 帰国まで、あと9日。 実質、最後の定例会議となる。 司令部脇の駐車場には、小此木一佐が乗るハンヴィーⅡがある。 僕が147を救出する際に、無断借用した車だ。 青光りする特殊装甲は、綺麗に磨き上げられて。 あの日の銃撃戦が嘘のようだった。 警備を強化しているとみえて。 ドア前には、2人の憲兵の姿があった。 士官の肩章を目にすると、向こうから敬礼してくれる。 「お疲れさまです!」 頷きつつ、僕も敬礼を返し。 廊下を歩き

      • 207.

        「 ──── ちょい目ぇ離した隙に、何処行っとったん?」 「芝大。日本の学祭って、見たことなかったからね」 「まあでも、ええことや。外を一人で歩くのに、抵抗のうなってきたっちゅうことやろ?」 「前ほどはね」マスクを外し、フードと黒いキャップを脱ぎながら、彼は答える。「相変わらずじろじろ見られるけど」 「そらそうやろ。そないな格好しとったら、却って目立つやんか?」 「そう?」 「せや。見るからに不審者やで?」 「なるほど」彼は素っ気なく答え、助手席の窓からももよ通りを眺める。「

        • 健やかなる時も① 124

          「D5、NS、dextrose ―― 」 「ASAを600」 「点滴は?」 「2000cc」 「すまないね、一尉」佐藤曹長は、溜め息をつく。「してやられたよ」 「よくあることですよ」僕は、微笑んでみせる。「わたしも以前同じ目に」 「どういうことだい?」注射器の先端を弾きながら、147が問う。「騙されたって?」 「ここに着任してすぐだったか。歓迎会で一気飲みさせられたんだ。ビールのスピリット割を」 「へえ。市街地のバーか何処かでか?」 「まさか。ここはイスラム

        • 固定された記事

        Zingaro(目次&参考音源・BGM一覧)

        マガジン

        • 健やかなる時も①(クウェート編)
          126本
        • Zingaro
          210本
        • 徒然(雑記)
          6本
        • Bilhete(完結)
          493本
        • 取材旅行記Ⅰ(全9回)
          9本
        • 取材旅行記Ⅲ(全23回)
          23本

        記事

          206.

          田町駅で下車して芝浦口へ出、上り専用エスカレーター脇の階段を下りて広々とした歩道に足を踏み入れた瞬間、立ち眩みのように視界が揺らぎ、ずきんと頭が痛んだ。彼は思わず足を止め、独り言つ。 「 ──── ああ、しまった。琳花さんのペースに乗せられて、飲み過ぎたかな?」 通行人の邪魔にならないよう街路樹の傍へ寄り、木陰で何度か深呼吸したのちに、彼は残りの気力を振り絞り、なぎさ通りの交差点を直進し、新芝橋を渡る。歩いている最中、前方にある大学の構内から賑やかな音楽と大歓声が聞こえて

          健やかなる時も① 123

          「 ──── …うん?ちょっと待ってくれ」 そう言いつつ。 147は一旦、体を引き離す。 僕の両肩を掴んだまま。 「それはひょっとして、君とわたしが非番の時ということかい?」 「そう」僕は、頷いた。「お互い、勤務時間外だったらOKということだ」 「えっ、それはないだろう?」 「どうしてそう思う?」 「君とわたしは今、実質24時間勤務じゃないか?」 「一日おきに交替って形でね」 「と、いうことは ──── 」 しばらく、頭を巡らせたあと。 ようやくそのからくり

          健やかなる時も① 123

          205.

          14:30。 「 ──── じゃ、行ってきます。あとはよろしく」 「行ってらっしゃい! ──── って、あれ?」伝票の整理をしていた和哉は、怪訝な顔をする。「瞬さんは?」 「出先で捕まってるみたいで。結局現地集合になったんだ」 「なるほど。忙しい方ですもんね」 「そう ──── あ、イシャーン達、17:00入りになるってマネージャーさんから連絡来てたから。圭介の出番が終わり次第戻るよ」 「了解です!」伝票の整理をしていた和哉は、微笑みながら手を振った。「来たら来たで何とかす

          健やかなる時も① 122

          身支度を整えてから、軍病院へ戻り。 いつものように階段を上がる。 その途中から聞こえてくる、賑やかな談笑。 声の主はすぐに判る。 看護官の上田、山本、真鍋。 そして、147。 「 ──── あっ、駄目駄目!△でキャンセルして下さい!」 「あ、そっか」と、彼の声。「さっきもここでショットし損なったんだよ」 「左手奥が赤くなってます。気を付けて!」 「やだなー。絶対出るぞ、今度は!」 PS5とフルスクリーン・モニターを前にして。 連中は、ホラー・ゲームに興じている。 開

          健やかなる時も① 122

          204.

          12:25。 野外の特設ステージの脇に出演者用のパイプ椅子を並べながら、学生達は何処かそわそわしていた。直前のリハーサルまであと5分しかないのに、肝心の主賓の姿が見えなかったからだ。セッティングが完了すると、魚住はベースアンプのそばに椅子を1台持っていき、そこへ腰を下ろし、フェンダーのジャズベースで必死に譜面を浚い始める。いや、マジで参った!ほんと参った!まさか1週間前に、代役が回ってくるなんて! 「 ──── おい、亮人!」副部長の田淵が、肩を叩いてくる。「お前結局、エ

          健やかなる時も① 121

          「 ──── 全く、何をやってるんです!」 「すみません、うっかりしてて。ちょっと風が強かったもので…」 「今後、屋上での喫煙は禁止ですよ!ちゃんと屋内の喫煙所を使って下さいね!」 「了解しました」 吉沢二曹の剣幕に、思わず苦笑しながらも。 僕の意識は、別の場所にあった。 さっきまでのことを思い出すと、嫌でも胸が熱くなり。 平静を装いながらも、心は激しく揺れている。 あと2週間。 彼の言葉ばかりが、頭の中に反響し。 唇にはまだ、荒々しい接吻の感触が残っている。 どう

          健やかなる時も① 121

          203.

          奥の個室に通され、座椅子に腰を下ろした頃合いを見計らって、先程の若い女性が湯呑みとおしぼり、割り箸とグラスを2つずつ、盆に乗せて運んでくる。明るい茶髪をおだんごに結った、涼やかな目元の小柄な美人だ。 「リンちゃん、最初は1本でいい?」 「いや、2本出していいよ」琳花はさらっと答え、窓を背にして座っている瞬を見る。「どうせ飲むだろ?」 「えっ?」 「おビールです」彼女は、にっこりした。「リンさんはいつも飲まれるので。お連れ様は如何なさいます?」 「あっ、いえ」瞬は、慌てて右手

          健やかなる時も① 120

          視線の先には、伏せられた彼の睫があり。 唇には、彼の唇と口髭の感触。 同じ煙草の匂いと、ガラム特有の甘さを感じながら。 僕は呆然と、その腕に抱かれていた。 あまりにも突然のことに、驚く暇もなく。 何が起こっているのかさえ、把握出来なかったくらいだ。 自分が今、誰と何をしているのか。 どんな状況に置かれているのか。 その事実に気付いてからも、僕はあくまで無防備で。 抵抗することすら、思いつかなかった。 それどころか。 堰き止めた思いは、言葉は、何度も心を揺さぶって。 この体か

          健やかなる時も① 120

          健やかなる時も① 119

          突然のことに、僕は驚いたけれど。 転落防止用のフェンスにかけていた左手は、しっかり押さえられていて。 右腕は動かしようがない。 僕の鼻先に丁度、彼の肩があり。 グレーのTシャツは、凄くいい匂いがした。 逞しい腕の中、服伝いにその温もりと鼓動を感じている間。 以前のような拒否感は起こらなかった。 とはいえ。 僕は、咎めなければならない。 理由は判らないけれど。 まだ、彼を受け入れる訳にはいかないと思ったのだ。 「 ──── 147」 「うん?」 「危ないだろう?火が点い

          健やかなる時も① 119

          202.

          7:00。 枕元に置いたスマートフォンのアラームを手探りで止め、昨夜の酒が残った体を横たえたまま、彼は考える。カーテンの開けられた部屋には暖かな秋の陽光が差し込み、控えめな音量でスムース・ジャズが流されている。と、いうことは? 8畳のワンルームに置かれたシングルベッドの中で寝返りを打ち、何とか瞼を抉じ開けると、ラブソファの前に敷かれた楕円形のラグの上で胡坐をかき、BOSEのBluetoothスピーカーを置いたローテーブルに向かい、問題集とノートを広げて黙々と勉強をしている奏

          健やかなる時も① 118

          真っ白な廊下の突き当たり、その先にジュラルミン製の頑丈な二重ドアがあり。 そこを押し開けると、湿った外気がどっと流れ込んでくる。 ペルシャ湾から吹き寄せる生暖かい潮風。 その中に混じる147のコロンと、ガラム特有の芳香。 街へ出て、自由に買い物が出来るようになって以来。 彼は、コロンを使うようになったのだ。 「やっと来たな?」 「悪いな、待たせて」 「構わないさ」彼は、背中を向けたまま答える。「どうせ、山本くんのところへ行ってたんだろう?」 「え?」 「彼は、君のお

          健やかなる時も① 118

          健やかなる時も① 117

          僕の問いかけに。 山本の瞳が、一瞬だけ揺らいだ気がした。 でも。 コンマ5秒後、彼はきっぱりと首を横に振る。 視線をやや落とし加減にして。 「いいえ。何もありません」 「そうか?」 「ええ」 「それなら、謝らなきゃな。妙な勘繰りをしたりして」 「いえ、とんでもない」 「有賀は、君と一番気が合うとよく言ってたし。君達は凄く仲が良かったから」 「それはそうですが。一尉ほどでは…」 「え?」 「以前にもお話したかもしれませんが。わたしは、あなたと三佐との関係がとて

          健やかなる時も① 117