入社試験はコーヒー淹れ
入社試験?
試験内容
「お客さんに扮した試験官にコーヒーを出してください。」
・制限時間は20分
・スマホやPCを使って調べるのはOK
・お客さんに話しかけても良い。
・以下の道具を使用すること。
グラインダー
メジャーカップ
磁器製のドリッパー
ペーパーフィルター
温度設定機能付き湯沸器
計量器
陶器製のマグカップ
誰もいない事務所の日曜日の朝、コーヒーを淹れながらふと、
「コーヒーを淹れることって、仕事をするためのスキルが色々と凝縮されているな」と感じました。
なので、実際にそんな入社試験があるわけではありません。
デザイン関連企業の採用する側が、応募者のどういうところを見たいと思っているか?という視点の記事になりますので、学生さん向けです。
コーヒーを淹れる試験で見えること
コーヒーを淹れる工程を観察すると以下に挙げる資質や技術が見えてきます。
調べる能力
聞く能力
段取り力
提供するものへのこだわり
丁寧さ
一つずつ解説します。
調べる能力
コーヒー好きで普段からこだわって淹れている人はすでに知識があるので見えることはあまりないですが、そうでない人が眼前に並べられた道具に対してどこに疑問を持つか、という部分を見ます。
グラインダーには豆をどれくらいの粒度で挽くのかを選ぶ機能があります。
粗挽きが良いのか、細かく挽くのが良いのか。
また、そもそもどうやって動かすのか、ということを調べる必要があります。
湯を沸かすのに用意された機材には「温度設定機能」が付いています。
これの意味するところに気づけるかどうかも点数に反映するでしょう。
「温度設定ができるということは、特定の温度で淹れた方が良いのか?」といった疑問が頭をよぎれば合格点でしょうか。
他には、質量を計る道具があるから、豆や水はどれくらいの量が必要なのか、そこも調べるべきでしょう。
わかってしまえばなんということはない内容ですが、知らないことに対して短時間でどのような回答を出すのか、という部分は実務においても非常に重要なことなのです。
聞く能力
設問でわざわざ「お客さんに扮した試験官に〜」と書いてあることには意味があります。
実務ではお客さんに要望を一切聞かずに図面を描き始めるということはまずありません。
どんな小さな仕事でも、設計要件があって初めて我々は手を動かすことができます。
また、お客さんと積極的にコミュニケーションを取らない人は、信頼関係を築くことが難しい。
「飲みにケーション」という言葉が死語になり、オンライン会議が発展し対面して話をする機会も激減している現代。
だからといってコミュニケーションの機会を減らして良い、ということは無いと思います。
むしろ、機会が減った分、よりコミュニケーション能力の高さを問われているでしょう。
こういった観点からコーヒーを淹れるとしたら、目の前のお客さんに何も聞かずにただコーヒーを淹れる、ということはあり得ません。
そもそもコーヒーで良いのかどうか?これを聞けというのはなかなかハードルが高い意地悪かも知れませんが、この質問をされた試験官はこの項目は100点つけちゃいます。
あとは、濃度の好みがあるのかどうか、お砂糖ミルクは必要なのか、そういったお客さんへの対応をどのようにしているか、こういった聞く能力が欲しいですね。
段取り力
コーヒーを淹れる工程をいかに「速く」行なっているかどうか、という部分はあまり気になりません。
あまりにゆっくり過ぎるのは目に余りますが、見たいところは「段取り力」です。
設計に関する仕事は、短くても数ヶ月かかり、長いと数年に及ぶものもあります。
そして、仕事の大半は自分一人で行うのではなく、様々な協力者・協働者とともに複数人で進めることになります。
このような仕事では段取りが命です。
コーヒーを淹れる工程を2通り書いてみました。
段取りが悪い人は、豆を挽いてフィルターをセットした後で湯を沸かし始めました。
結果、お湯が沸くまで何もすることのない時間が発生してしまい、最終的にコーヒーを淹れ終わるまでに時間がかかっています。
色付きのバーにくっついている矢印は、作業の「依存関係」を記しています。難しく言っていますが、上の例で言うと、フィルターをセットする(挽いた豆を入れる)ためには、先に豆を挽いておかなければなりません。
このように、何かをする時、その前に完了していなければならないことがある状態を「依存関係にある」と言います。
お湯を沸かすことに関する依存関係は、後続のコーヒーを抽出する、しかありません。また全工程の中で一番時間がかかるものです。
なので、一番最初にお湯を沸かして他の作業を並行して行うことが可能です。
こうすると工程全体を短くでき、何もしない時間(アイドルタイム)がなくなり、「効率的に工程を進められた」ことになります。
このような効率的に物事を進めようとする感覚があるかどうか、という部分が非常に大切になります。
提供するものへのこだわり
コーヒーを淹れる。
非常にシンプルな行為ですが、ちょっとしたことで完成したコーヒーの味は変わります。
お湯の温度、豆の量。
ペーパーフィルターの匂いを湯通することで減らす。
すぐにコーヒーが冷めないようにマグカップを温めておく。
その他にも、豆の産地や季節によって豆の量や湯の温度を変える、などなど。
こだわり始めたらいくらでも深掘りできる。
シンプルな行為の中にある無限の組み合わせを自分なりに考えて、目の前のお客さんに自分が考える美味しいコーヒーを提供すること。
この項目ではそのような姿勢を持っているかどうかを見ています。
コーヒーへのこだわりをデザインの仕事に置き換えると、試行錯誤すること、より良いものを提供しようとすること、になるでしょう。
デザイナーにとって必須なマインドです。
丁寧さ
人によっては重視しないかもしれませんが、僕は必須条件にしたい。
モノを丁寧に扱わない人は信用できません。
使用道具に陶器製のマグカップがありましたが、これに乗せるドリッパーを「ガンっ」と乱暴に置くようだとマイナス100点くらいでしょうか。
自分以外が所有するモノ、空間をつくる人には人一倍気を遣って欲しい。
自分が作ったものが大事に扱わられなかったらきっと悲しい気持ちになるはず。
なのに自分は粗末に扱う。
そんな矛盾を持っている人は(個人的偏見ですが)きっとデザインも上手くならない。
あと、これはデザイナーの資質には関係ないと思いますが、
道具を丁寧に扱いながらも、迅速に動ける人の立ち居振る舞いは見ていて気持ちが良いです。
優美な舞を見ているよう。そんな人にデザインをしてもらいたいと思うのではないでしょうか。
以上です。
いかがでしたでしょうか?
コーヒーを淹れる行為の中にいろんな要素が詰まっていました。
半ば冗談で書きましたが、読み返してみると、本当に入社試験に取り入れても良いかな?と思い始めました(笑)
ウチではこんな面白い入社試験しているよ、という方がおられましたら、ぜひコメント欄で教えてください。
それではまた。
建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。