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夢で逢いましょう 4 『精子』

夢の中に精子がでてきました。
え?
はあっ?精子!?

「はい。わたしが精子です」
「あ、はあ。そういえば手も足もないし。しっぽみたいのんが。でなんで顔があるんだよっ」
「顔がなければ、あなたとお話しできないから。耳がないと聞こえないし、口がないとしゃべれないし、目がないとあなたがどこにいるか」
「わかったわかった。まあいいや。で、何の用?」
「はて。あなたの夢ですから、あなたが望んだんでしょう」
「望んでねえよっ。精子なんて」
「わかりました。じゃあ、行きます」
「お、お、ちょと待てよ。どこに行くんだよ」
「わかりきっているでしょう。光の玉に向かっていくのです」
「あ、はあ。卵子のことね。光の玉っておまえはウルトラマンかよ」
「ちょと何言ってるかわからない」

「まあ、大変だよな。何億もの精子と泳ぎながら卵子にたどり着かなきゃいけない。それも卵子にたどり着いたからといって、ほとんどが一匹しか入れない。戦ったりもするんだろう?頭の中に爆弾みたいの持ってるんだろう?」
「よくご存じで。大海の中を泳ぎ、同胞たちと戦いながら。あなた、われわれ精子はおおよそ4タイプに分かれるって知っていますか?」
「は?タイプなんかあるんか?」

「はい。まず、光の玉に入れる権利を持つもの、これらをエッグゲッターと呼びます。666人に一人の割合です。例えば、6億6千6百万の精子があるとすれば、およそ100万匹がエッグゲッターです。残りの6分の1、およそ1億ちょっとはそのエッグゲッターを守るガードナーです。そして残りの6分の5、5億ほどはエッグゲッターを阻止するキラーです」
「はあ。エッグゲッターとそれを守るガードナーと阻止するキラー、ね」
「キラーは死に物狂いでエッグゲッターを攻撃し、行く手を阻もうとしますが、ガードナーが主に彼らと戦い、われわれエッグゲッターはその間隙を縫って力の限り、泳ぐのです」
「あ、あんた、もしかしてそのエッグゲッターなの。すごいね」
「時には戦うこともあります。友を守るためにアタマの爆弾を破裂させて、キラーを倒します。時々、方向を見失って仲間同士アタマをくっつけてクルクル回りながら死んでいく者もいます」
「ほお、大変なんだねぇ。死に物狂いだ」
「そうやって、あなたも生まれてきたんですよ」
「あ、いわれてみりゃそうだ。はは。てことは、オレはエッグゲッターだったんだな」
「はい。エッグゲッターの中でも類まれな力強さと強運を持つ奇跡の者です」
「はははー、そうだろそうだろ」
「あなたのお父様の精子ですけどね」
「ゲッ?あ、そうかー。これまた言われてみりゃそうだけど、変な気持ち。。。」

「人間社会も同じですよ。我々のように正確には分かれていませんが、その記憶や形質が残されています」
「なになに?どういうこと?俺たち人間にもエッグゲッターとかキラーとかあるっての?」
「そうですよ。あなたたちも光の玉に向かって泳いでいるんです。いわば、人間は神の精子、というべきですかね。で、光の玉は、神の卵子です」
「人間は、神の卵子にたどり着こうとする、神の精子?」
「(頷き)そういうことです」
「はあ。よくわかんないけど、その神の卵子にたどり着いた者ってのはいるのかね?」
「もちろん。あなた方の知っているブッダやキリスト、マホメッド、その他、たくさんいますよ。現代ではほとんど、目立たないですがね」
「オレは、神の卵子に向かっている?あ、ということは、もし、おれがその神の卵子にたどり着くエッグゲッターだったとしたら、ほかにも仲間はいるし、・・・げっ、キラーもいるってこと?」
「そうです。あなたを守るガードナーもいるし、キラーはその5倍います」

「じょ、ジョーダンじゃねーよ。やだよ。そんなん。オレ、頭に爆弾持ってねーし。そんなキラーなんか最初っから作らなきゃいいじゃねーか。そーだ。エッグゲッターだけでいいじゃんか。なんでキラーとかガードナーとか必要なんだよ。キラーってのは悪人って事だろ?
え?あんたの説でいくと6人中5人は悪人ってことじゃねーか。殺人者だろ。あ、そーいうばそーだ。いや、そうかもしれない。もしかしたら、オレだってキラーかもしれない。このやろう、て人をぶん殴りたくなる時もあるし、悪口を言ったり、オレは、オレは」
「みんな役割があるんですよ。そうした者たちのおかげでエッグゲッターは方向を見失わずに済むし、強くなれる。もちろん人間界ではキラーやガードナーたちが神の卵子にたどり着けないってこともないんですよ。ちゃんとその権利は残されています。人間の言葉でいうと、仏性、というやつですか」
「仏性。。。」

「なにしろ、悪人であろうが貧しいものであろうが、みなさん生まれたときは、エッグゲッターだったんですからね。奇跡の人です」
「悪人も、エッグゲッターだった。か」
「いわば、同胞です」
「でも、戦争とか起こすだろう。キラーとしてのその潜在意識みたいなのを持っている悪人どもは」
「はい。それが潜在意識に刷り込まれた性ですからね。戦争を肯定するわけではありませんが、人間が自然の頂点に立っている限り人類を捕食する者はいなく、結果、人口はどんどん膨れ上がり、食糧危機に陥って人類は滅亡するでしょう。ですから、戦争なり、自殺なりで減らさなくてはなりません。そのほかに地震や洪水などの天災、ウイルスによる病気の蔓延などで調整し、バランスをとっているのです」
「ひでーっ。そりゃ、神のすることかよ。それなら神の卵子なんか目指さなくっていいよ。おれはエッグゲッターでもガードナーでもキラーでもなく、どっか山奥で一人で暮らすわ」
「戦争や自殺を防ぐのもエッグゲッターたちの役割ですけどね。他の自然界では当然のように行われていることです。他の生き物たちは当たり前にその厳しい摂理を受け入れて生きています。そこには善も悪もありません。大切なものを守るために戦いますが、恨みません」
「おれたちゃ、他の生き物とは違うんだよ。頭いいし、感情もあるし」
「その生き物たちを殺すことによって、あなた方人間は生かされているんですけどね」
「ググッ。うーむ」

「海がなければ魚は泳げません。われわれ精子もおなじです。そして人間も同じです。真我という海に生きています。多くの人間はそこに起こる波を自分だと勘違いしてしまいますけどね」
「ちょと何言ってるかわからない」
「あ、そうそう。言い忘れました。わたし、あなたの精子なんです。行く場所がなくて困ってます。お相手はやく見つけてください。よろしくお願いいたします。じゃ」
「は、はあっ!?????」

呆然と立ちすくむ私を残して、精子はぴょろぴょろ泳いでいきましたとさ。

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