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第38回読書会レポート:樋口一葉『たけくらべ』(感想・レビュー)

(レポートの性質上ネタバレを含みます)

文語体で読みにくい作品であるがゆえに人が集まるのか心配でしたが、
蓋を開けてみれば満員御礼の大盛況!!
しかも初参加の方が3名も♪
常連さんからはお菓子やお酒の差し入れをいただき、にぎやかな会となりました。

ご参加頂いた皆様、ありがとうございました\(^o^)/
これからも楽しくおしゃべりに特化した運営方針を貫いていきます!

見学は敢えて受け付けていませんが、どんな雰囲気なのか……ドキドキして心配ですよね?
そんなふうに迷われているそこのあなた!ご参加お待ちしています笑

ご参加の皆さんの感想

・リズムがいい。講談のよう。声に出して読みたい
・一気に読めた
・少女漫画のような展開
・二人の恋愛が分かりづらい
・明治は今と変わらない
・子供の世界もつらい
・情景が見えてくる
・ガラスの仮面


江戸文化が色濃く残るリズムや表現

皆さん文語体に苦労しながらも、リズム感が心地いいのでなんとか読めた、という方が多くいらっしゃいました。

朗読動画を使って耳から入れたほうがよほど理解できた、という意見もあり、早速家に帰ってからYou Tubeを検索して聴いてみました。
確かに聴いたほうがわかりやすいことに驚きます!

また、明治28年から断続的に連載されたこの作品は、江戸の表現が色濃く残り、たとえば……

・紺足袋= 粋とされて流行っていた
・酸漿(ほおずき)含んで= 酸漿は堕胎剤として利用されていた
・左り褄(ひだりづま)= 芸者さんの褄の持ち方で、芸は売れども身は売らぬという意思表示
・島田に結って= もとは遊女の髪型だが、若い女性の間でも流行っていた

などなど時代ならではの表現が満載です。

身につけるものや髪型など、身分によって色や形が制限され、仕草や着こなしから人となりを判別していた江戸時代。
そこから開放されつつある明治という過渡期が舞台とはいえ、一つひとつの記号の奥には意味があり、それを汲み取れたとき情景がありありと生々しく際立ってきます。


『たけくらべ』といえば『ガラスの仮面』!?

もう一つ面白かったのが『たけくらべ』といえば、美内すずえ先生の『ガラスの仮面』だ!という方が何人かいらしたことです。

劇中劇として採用されているそうで、北島マヤちゃんが初めて演じたのが美登利とのこと。

『たけくらべ』は『ガラスの仮面』で知ったという人が一定数いるようで、これはぜひ読んでみたい!(3~4巻だそうです)


短いモラトリアムに生きる世界観

まず注目すべきは登場人物たちの年齢でしょう。
また、住む場所や通う学校といった設定も要注意です。

表町は裕福な家庭が多く、横町はその逆。
進学校といえば公立のほうで、そこへ入れない子供は私塾に通っていました。

そんな廓のある町。
横町と表町との対立は、まるでヤンキーの縄張り争いのように威勢よく描かれ柄の悪さが際立ちます。

今まで明治といえば夏目漱石や森鴎外の作品から受ける印象が強く、お上品なエリートが葛藤にあえぐモラトリアム人間物語しか知りませんでしたが、この作品で明治の印象がくつがえりました笑。

美登利・・・14才。表町にある妓楼大黒屋に住む。育英舎に通う。信如が好き。
藤本信如・・・15才。横町にある龍華寺の跡取り息子。美登利と同じ育英舎。
田中正太郎・・・13才。表町の高利貸し田中屋の一人息子。公立校に通う。美登利を将来のお嫁さんにしたいと考えている。
長吉・・・16才。横町のガキ大将。鳶人足の頭の息子。育英舎に通う。
三五郎・・・16才。横町の人力車夫の息子。表町の正太郎側に寝返る。

三五郎が誰よりも年下のように扱われているのが印象的です。
年齢よりも、家の身分や通う学校の優劣が優先されていたことが分かります。

そんな廓の端に住む子供たちはませていて、大人になることに抵抗がありません。

喧嘩っ早かった長吉は、いつのまにか廓に登楼して朝帰りをしてきたり、
まだ13才の正太郎は商才の片鱗が見え始め、一家の大黒柱として早く祖母を助けたいと願うようになります。

そんな中、美登利はまったく違う反応を示すのでした。


たけくらべ論争

実は「たけくらべ論争」というものがあるのをご存知でしょうか?
物語のクライマックスで美登利が突然、性格が一変して塞ぎ込んでしまうのですが、そのきっかけをどう解釈するかが争点となっているのです。

一つは、初潮を迎えたという身体的な変化に戸惑っているという解釈。
しかし私はもう一つの”とうとう最初の客を取らされた”ほうに一票です。
皆さんはどちらの解釈をとりますか?
もしくは他の解釈をされますでしょうか?

そもそも美登利の家族は、姉が身売りのために楼の主に鑑定された際に、ご家族も一緒にと誘われるがままに紀州からやってきています。
そのまま母は遊女の仕立て、父は小さな店の会計係を任されました。
ちょっと訛りのある美登利は可愛らしく、奔放に散財しても咎められるどころか「楼の主が大切がるさま怪しきに」と不自然なくらい甘やかされ、芸事の習い事や学校にも通わされています。
「田舎者」と笑われていた美登利はどんどん垢抜け美しくなり、とうとう憎まれ口を叩く者はいなくなりました。

ある雨の日、信如がお使いに出かけた際にちょうど大黒屋の前で鼻緒を切ってしまいます。
それを見かけた美登利は、信如とは知らず端切れを持って外へ出て行きますが、信如だと分かった瞬間に顔を赤くして立ち尽くしてしまうのです。
構われたくない信如と、好きなのに拒まれ続け涙ぐむ美登利。
気まずい空気が流れる中、美登利は母親に呼び寄せられ帰っていきました。

この場面を経てから美登利は、廓内の姉の部屋で髪を島田に結ってくるのですが、そこから美登利が豹変してしまうのです。

この尋常ではない豹変ぶりをどう解釈するか……。

これまでの流れから美登利の家族は、美登利もやがて女郎となって働くことを拒否できないどころか、そうしてもらわなければ困るという生活であることははっきりしているわけですから、信如と何かある前にもうこのあたりで水揚げしてしまったほうがいいのでは、と母親なりの身勝手な親心として判断した、とも考えられるのではないでしょうか。

そうなると、端切れを持って信如のもとへ駆けつけた美登利を、何度もしつこく呼び寄せた母親の行動も筋が通ります。

島田に結って美しくなったことを、喜ぶどころか拒絶して塞ぎ込む美登利。
無理矢理大人にさせられ打ちひしがれている様子が痛々しく胸が詰まります。
そんな中、母親だけは微笑みながら「今にお侠(きゃん)の本性は現れまする、これは中休み」と意味深に言うのでした。

すでに長女を花魁にしている母親です。
作品の中に散りばめられているさまざまな記号からも分かるように、想像を絶する過酷な廓の話と解釈すべきでしょう。
年齢的にまだ水揚げされないはず、という意見もあるようですが、そんなお人好しな解釈がまかり通る世界観ではないと考えました。

厳しい環境に立たされ、親のために振り回される子供たちの悲しさがにじみ出ているように思います。


水仙の作り花は一体誰が何のために差し入れられたのか?

もう一つの論点として「水仙の作り花」問題があります。

最後の場面で「水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり」とあるのですが、誰が何のためにそんなことをしたのかまったく明かされないまま信如は出家してしまう、というところで物語が終わってしまうのです。

美登利は信如が修行に行くことも知らずに塞ぎ込んだまま。
そこへこのエピソードが入ってきたら、信如が差し入れたのだと受け取る人は多いと思います。

実際に読書会でも、これは絶対に信如以外考えられない!という意見があり、私もその通りだと思っていました。

しかし、信如が美登利のことを慕う場面は一度も描かれておらず、そもそも鼻緒も直せないほど不器用です。
いくらなんでも唐突ですし、彼が水仙の造花を作れるのか?という疑問も御尤なのです。

他にも面白かった意見が、信如の親がこしらえたというものです。
父親は熊手づくりの内職なんかもするような和尚だし、母親もかんざしを売るようなことをしているのだから造花の構造も分かるのではないか、という大変豊かな発想で気に入りました。

兎にも角にも美登利はなんとなく懐かしく思われて、一輪挿しに入れて水仙を愛でていました。
少しですが心がほぐれた様子が伺えます。

そこで思い出すのが「今にお侠(きゃん)の本性は現れまする、これは中休み」と意味深だった母親の言葉。

もしや実の母親が仕組んだ小道具だったのではないか……?
そんな風によぎった瞬間、私の頭の中の残酷さに身震いしました。



現在の五千円紙幣にもなっている樋口一葉。
そんな彼女の作品を、あなたは読んだことはありますか?

2024年には新紙幣へ切り替わってしまいます。
その前にお手にとってみてはいかがでしょうか?

(2023年3月21日開催)
(二次会の様子)


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【第38回課題本】


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