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宮古島のマグロとカツオは日本イチ?

マグロの昼下がり

ギラギラ光る太陽が真上を通り過ぎ、海の底まで太陽の光が抜けていく。伊良部大橋の上からは宮古ブルーを感じることでき、入れ替わり立ち替わり観光客がインスタ映えを狙う。そんな観光客達を傍目に、仕事を終わりで空腹が絶頂に達した私達は伊良部島に向かっていた。目的はマグロである。

宮古島に移住している仲間の話によると、宮古島はマグロが有名で、安く大量に食べられるところが伊良部島の佐良浜漁港にあるらしい。この頃、豚肉料理が続き、若干マグロ成分が足りていなかったこともあり、お昼のメニューはすぐに決まった。

佐良浜港は伊良部島の西南に位置する場所だ。近くの町は鮮やかな色で塗られた壁の家が立ち並び、観光客人気も高い。宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋ができるまでは船で往来していたため、宮古島から伊良部島に渡るときは佐良浜港を利用していた。今は漁港機能と八重干瀬(池間島北にある珊瑚礁群)ツアーの発着地として利用される。

駐車場に車を止め、お店を覗いてみると、まさかの「休業」。看板猫が眠たそうにあくびしていた。肩を落として堤防をトボトボと歩いていると、地面にヌメヌメとした蛇がのたれているのを見つける。近くの釣り人になにかと尋ねるとウツボだという。無残に捨てられているところを見ると、地元の方は食べないようだ。そんなことを考えていた矢先、釣り人の足元にはマグロが寝転がっていることに気づく。直径50cmほどだろうか、キハダマグロだ。

釣り素人の私のイメージではマグロを釣るには、遊漁船に乗って太い竿をマグロ専門に一日潰すものだ。「さっき、ここで釣った」と釣り人のおっちゃんは笑いながら話す。漁港沿いの堤防で昼休みに釣るようなイメージは全くなく驚かされた。

おっちゃん曰く、佐良浜漁港には小さめなサイズのマグロが入り込んでくることが多い。南に位置する宮古島は脂が少なく、サッパリとしたマグロがよく釣れる。近くでマグロを安く買える”いんしゃの駅”では、船で少し出たサイズの大きめのものを売っている。

新しい発見があり、空腹もまぎれ、その日は伊良部島をあとにし、宮古島本島の食堂に向かった。宮古あるあるだが、遅めの時間に食堂に行くと宮古そばしか残ってない。次こそはマグロと胸に誓い、宮古そばをすすった。

後日談

後日、佐良浜のいんしゃの駅に再度訪れると、宮古スマイルでおばちゃんが迎えてくれた。「1000円で買えるだけマグロください」と話すと、今はカツオがシーズンなのよーと、オススメ頂きカツオとマグロ半分にしてもらった。パックがパンパンになるまで詰めてもらい、しばらく雑談。話題は『このあたりのマグロとカツオ事情』。おばちゃんの温かさから本当の宮古を感じた。そのときの写真が本記事のトップの写真だ。

家に帰ってから腹が千切れるくらいの量のマグロ&カツオの刺身を堪能した。

マグロ取材を始める前から薄々感じていたことだが、宮古島にあるスーパーの魚コーナーは赤身だらけだ。マックスバリュー、ドンキ、カママのサンエー全てそうだ(宮古島好きなら”あそこね!”ってなるやつ)。しかも、内地では考えられない値段と量だ。

日本一のマグロ

マグロは大間(青森県)を思うことが多いだろう。魚は水揚げられた漁港が産地となる。マグロは日本から離れた太平洋へ、遠洋漁業として何ヶ月もかけて漁をする。冷凍され、帰ってきたマグロ達で一番大きいものが、すしざんまいの社長に選ばれるわけだ。例外やそんなことない地域もあるのは承知だが、ざっくりとした話「捕る場所は同じで、水揚げされる場所が違う」。

ひと昔前、借金をしたらマグロ漁船に乗れ、なんて冗談交じりに話されたが、マグロの遠洋漁業は非常に儲けが良かったらしい。宮古の漁師達も何ヶ月も遠洋漁業に出かけた。長く過酷な漁を終え帰ってきた男たちは、自分の家を見ると安心するようだ。佐良浜の町がカラフルなのは、船から自分の家を見つけやすくするために、壁を塗ったことが始まりだ。そんな宮古の漁師たちの生活も社会情勢によって揺らぐこととなる。

1990年代からマグロの漁獲規制はあったものの、2015年にクロマグロの厳しい漁獲規制が入る。世界的なマグロ大国である日本が環境保全のため、自ら捕れるマグロの漁獲量を厳しく制限した。これの煽りを受けたのが全国のマグロ漁師だ。クロマグロ中心だった大間はかなりダメージを受けたようで問題となっている。宮古島は日帰り漁でもキハダマグロが捕れ、漁師たちは近海でのマグロ漁にシフトしていった。

日帰り漁で捕れるマグロは冷凍する必要がないので、鮮度が保たれたまま市場に並ぶ。スーパーで並ぶマグロであっても鮮度は高い。

私も幾度となく宮古島でマグロを食べているが、口に脂が残らないさっぱりとした味わいが特徴で、全く臭みがない。日本で気軽に食べられる鮮度の高い唯一のマグロなのだ。宮古島に訪れた際にはぜひ刺身を食べてみてほしい。

ミヤコノカツオ

カツオといえば高知を想像するだろう。宮古島では池間島(宮古島の北にある島)がカツオ漁で有名だ。マグロと同様、宮古島のスーパーでカツオも数多く並ぶのが盛んな証拠だ。

カツオは一本釣りされるようだが、その技術は鹿児島や高知からやってきた。言わずもがな日本はお魚大国だ。その消費量は凄まじく、特に鰹節に加工され、宮古島の3大産業と言われるほど成長した。こちらはマグロと異なり規制ではなく、時代の流れにそぐわなくなる。

かつての日本は朝昼晩ご飯にカツオが必ず登場したと言って良いほどに、カツオは利用された。西洋文化が浸透するに伴い、食卓の上からカツオは減ってゆき、必然と需要と供給量が見合わずに価格が下がった。こうして宮古島の産業が弱体化してしまったわけだが、決してカツオの味が落ちたわけではない。

池間島では、カツオ一本釣り漁業の開始以前に、カツオは神の使いとして崇められ、捕ることはおろか、食べることすらできなかったという伝承も残っている。それだけに、池間島におけるカツオは、精神的にも、社会的にも、経済的にも、そして、地域的にも極めて重要な価値を持っている。

若林良和, 川上哲也,"宮古・池間島のカツオ産業文化誌(1)
-近現代における池間島カツオ産業史の整理と検討-"



観光地として最も盛り上がる7月あたりにカツオの旬が訪れる。かつて神として崇められたカツオの味は気にならないだろうか。

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