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戦争で進むインフレ、企業収益は改善の好機も生活は?

 青森県の八戸市を中心とする県南部で広く読まれている地元紙「デーリー東北」。同紙の人気コラムで複数の寄稿者が執筆する『私見創見』を2020年から約2カ月に1度のペースで書いています。
 第13回は2022年7月26日付から。ロシアの暴挙によるウクライナ戦争に絡んで、インフレの進んだ世界と日本について、スタグフレーションに向かう懸念に触れました。
 金利上昇については日銀の頑なさを過小評価していた(ここまでビビりとは思わなかった)ため予想を外していますが、企業業績の回復は予想通りで、その後の日経平均株価の上昇などにつながる面があったと思います。
(※掲載時の内容から一部、変更・修正している場合があります)

ロシアによるウクライナ侵攻から、(2022年)7月24日で5カ月となった。戦争状態となった両国の先行き予測は困難だが、私たちの日常生活に起こった大きな変化である物価高は今後、どうなるだろうか。

ガソリン、電気料金、ガスといったエネルギー価格は前年同月比で20%以上も高まったほか、食品や日用品などの値上げも顕著だ。

7月から約10%以上の値上げとなった食品をみると、ウクライナからの輸入も多い小麦を使ったパン、めん類のほか、輸入チーズ、魚のすり身系、お茶、香辛料、食用油、ポテトチップス、チョコレート、ビール、輸入ワインなど(個人的にも)日常の生活に欠かせないものの価格が軒並み上昇した。

この値上げ傾向は今後(2022年)8月〜10月にも続く見込みで、もう嫌になる。

戦争や動乱は、こうした原材料や資源価格の上昇によるコストプッシュ型インフレを誘発する。今回はロシアの侵攻を「力による現状変更」だと米欧諸国が非難し、それに経済制裁を科したことがインフレの直接的な引き金になった。

だが今回のインフレは、過去20年以上も「値上げしたくてもできない」という“デフレマインド”が根を張っていた日本にとっては、大きな転機となりうる。原材料高は初期こそ収益を下押しする圧力となるが、いったん値上げに動いた後では企業収益は上向くのが通例だからだ。

値上げ効果が収益に反映しやすい小売業では実際、2022年3〜5月期に好業績を享受した企業が多かった。

スーパー事業が復調したイオンは同年3~5月期の純利益が前年同期から約4倍の193億円と同期間の最高益を更新した。

セブン&アイ・ホールディングスも同3~5月期は純利益が51%増の650億円と過去最高となった。コロナ禍で「巣ごもり消費」「家ごはん」の需要増で業績が安定していた状況から、さらに収益力が増した格好だ。

今まで原材料高が収益圧迫の要因になっていた製造業なども、値上げ効果が浸透していく今後は収益が拡大する可能性が高い。その局面に入れば株価の上昇・安定もありうる。

(2022年)7月8日に凶弾に倒れた安倍晋三元首相が、2013年からの「アベノミクス」で目指したデフレからの脱却が、いよいよ現実味を帯びてくる。

日銀は現状のようなインフレが「我々が目指す物価上昇とは異なっている」とし、その状況で金利を上げると「景気を押し下げる」として金融引き締めには慎重な姿勢を崩していない。

だが、各国が金利上昇に動く中で日本だけが金融緩和を続けていることで円安が急進し、輸入品のインフレに拍車をかけているとの批判も強まっている。

円安はインバウンド(訪日観光客)の来日を刺激する一方で、日本から海外への旅行需要も冷やしかねない。国内ではコロナの第7波が押し寄せていて警戒を求める声は強いが、海外の事情を見ると「ノーマスク、ノー検査」での出入国を認めて国外旅行を常態化する動きが優勢だ。

海外での購買力や旅行需要を刺激するため、円安を是正する意味でも国内金利はそう遠くない時期に上昇する可能性が高い。そもそもインフレ局面では物価上昇を抑えるためにも利上げは必要なのだ。ローン金利なども高まることが懸念される。

問題は、企業収益の拡大が働き手の給与・賃金の上昇につながるかどうか。先進国や新興国では過去30年間に給与水準が上昇し続けてきたが、日本は1992年に472万円だった平均給与が、2018年には433万円と約40万円も縮小した。米国の741万円はおろか、韓国の448万円よりも低い水準に落ち込んでいる。

企業収益の拡大を従業員の年収拡大がなければ、物価高騰の中では生活が苦しくなるばかりの「悪いインフレ」=スタグフレーションに堕してしまう。もちろんデフレ脱却にもならない。

起こってしまった戦争の早期集結を祈念しつつ、このインフレ状況を奇貨として日本人が生活の豊かさを取り戻せる好機になればと願っている。


(初出:デーリー東北紙『私見創見』2022年7月26日付。社会状況・経済環境については掲載時点でのものです)



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