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色んな武術本を読む中で、私の武術の考え方に大きく影響を与えてくれた著者さんが2人います。

1人は高岡英夫さん(運動科学の創始者)

もう1人はJIDAIさん(アートマイム)

このお二人の本を読むことで私の中の合気道の抽象度が一つ上がりました。

今回はJIDAIさんの本を読んで私の何が変わったのか、その考えのもと何を実践したのかをまとめていきます。

JIDAIさんの本で私が最も影響を受けたのは「エネルギーの流れ」という考え方。

アートマイムでは小手先の動きだと、見てる側が演じている感を感じるようです。

そうではなく身体の中をエネルギーが流れることで現れる動きは全身を使った表現になる。

それは“自然な動き“であり、見ている側に違和感を感じさせない、ということのようです。

私がこの「エネルギーの流れ」を意識することで起こった変化は以下の3点。

①合気道の技への理解が深まった

② 動きの質の大きな変化

③身体の力みがより認識できるようになった

①合気道の技への理解が深まった

私の学んだ合気道は

・光輪洞合気道(大日本武徳会の系列)
・養神館合気道(植芝盛平氏の系列)

この二流派を通した上での私なりの考えなので悪しからず。

今回は養神館合気道の視点からお話ししていきます。

養神館合気道は基本技が存在し、それを学ぶことで合気道の理合を身につけていきます。

四方投げ
一ヶ条
二ヶ条
三ヶ条
四ヶ条
側面入身投げ
天地投げ
小手返し

正直、警視庁合気道指導員研修で基本技はかなり行いましたが、当時は現場で使えるのかというと全く自信がありませんでした。

しかしこの「エネルギーライン」の考え方を持つと見えてくるものがあります。

それは

エネルギーをどこから生み出して、どこを経由して相手に伝わるのか

という視点です。

正面打ち一ヶ条(一)という技を例とします。

塩田将大先生の動画がわかりやすいかなと。

正面打ち一ヶ条抑え(一)

仕手(技をかける側)から相手の正面を打ちます。

*「別流派では仕手から打ち込むという考えはない」とのことです。これは私の予想ですが、打ち込んできた相手の攻め気を察知して、先の先で動くことで相手を制する考え方をしているのではないかと。逆に(二)は後の先。

次に右足を前進して相手を崩します。

警視庁合気道指導員研修の時は現場で使うことを前提としているので、

同期との練習で受け手が本気で抵抗するという設定でも行っていましたが、難易度はかなり高くなります。

*この稽古は指導員研修の後半に行っていました。いきなり全力抵抗ばかりの稽古だと技が決まらず心が折れます

じゃあどうするのかというと、一枚目の画像での正面打ちの際に、もう一歩深く切り込むことで相手の姿勢を崩すのです。

相手の姿勢が崩れているので抵抗する余裕がなくなり、その後の前進しながらの崩しが決まる、と考えています。

ここで「エネルギーライン」の考え方を導入します。

腕力をエネルギーラインで見ると

エネルギーを生み出す場所=肩、上腕三頭筋
エネルギーの経由するルート=肩〜腕〜手

となり生み出されるエネルギーは小さくなりますし、エネルギーの発生場所も相手に近く容易に察知されます。

さらにこの「もう一歩深く切り込む」時に腕力に頼ると相手はそれを手掛かりにして抵抗できてしまうのです。

これを飛び越えて強引に技を決めようとすると、それこそ腕力に勝る人が、関節を折るようにして無理やり技を決める、と考えています。

ではどこからエネルギーを生み出せばいいのか。

それは体重移動、重心移動によって生まれるエネルギーです。

正しい姿勢をすることで自分の体重がまとまり、その上で前足の膝の力を抜き、後ろ足で支えることで、前方に倒れる大きなエネルギーが生まれます。

支えている後ろ足から前方に向かうエネルギーが生まれ、背中を通り、腕を経由して相手に伝わるということ。

この時に猫背だったり、肩の力みがあると身体の繋がりがバラバラになり、結局腕力に頼ることになります。

受け手からしたら正面を打ってくる腕から力みを感じないため、抵抗するタイミングを掴めず、そのまま深く切り込まれてしまうのです。

ここで相手の姿勢を崩した上で前進しながら下に切り崩します。(画像二枚目)

切り崩した後の受け手の腕と仕手側との関係性をエネルギーラインから見ると、

仕手側の重心線と受け手の腕が重なっています。

だからこそ受け手側の腕に体重が乗るので、仕手側は大きな力を使わずに相手を制することができる、ということ。

ツマヌダ格闘街16巻

このように合気道の技をエネルギーラインの視点から再認識することでより理解度が大きく高まったのです。

光輪洞合気道に関しては「円の乱取り」でエネルギーラインの考えがより活きるのですがあまりに長くなるのでまた別の機会に。

② 動きの質の大きな変化

JIDAIさんの本で書かれている内容に以下のことがあります。

・「思った通りに動く」とは既知の範囲内の動きしかできない

・全く同じ条件下など存在しないため、思考によって生み出された動きを全く同じように再現することはできない

・環境に応じて思ってもいない動きを出したい

つまり頭でいくら考えても、頭の中にあるもの以上のものを生み出すことはないということ。

いわゆる頭でっかちですね。

頭でっかちになった試合のブログ
    ↓

JIDAIさんはそうではなく、環境に応じて思ってもいない動きを出したい。

そのためには身体が"快適"だと感じる動きをすること、と書かれています。

身体が快適だと思うから自然とその動きが出てしまう、それは思考では辿り着けないものではないでしょうか。

私はこの快適さを"ラクさ"と解釈しています。

では身体にとって"ラク"だと感じたいもっとも基本的なことはなにか。

それを私は"立ち方"だと考えました。

ラクに立てるかどうか。

実際、立ち方が骨格構造的に適切ではないと、筋肉が骨の代わりに頑張ることになります。

その結果、全身が凝ってしまったり、反り腰になって腰痛に悩んだり、巻き肩になったり。

ラクな立ち方ができると座ってるよりも立ってる方なラクに感じるほどです。

この快適さ、ラクさを求めた立ち方をするとどのような変化があるのか。

敬天愛人手合わせ稽古会での私の動きを比較していきましょう。

私の手合わせ時の基本スタンスは

・いい姿勢を作ること
・間合いを詰める時は歩み足を使うこと

この二つです。

これにより相手の反応を一拍子遅らせることが狙いです。

以下の二つの手合わせの映像を比較していきます。

2023/5/1 大会に向けた手合わせ稽古会
  ↓

2023/7/8 敬天愛人手合わせ稽古会
   ↓

この二つを比較すると大きな違いは

「胴体の力みの有無」だと私は考えています。

前者は胴体周りが力んで四角の箱のように固まっていて動きも固くなっています。

この状態は全く身体からしたらラクではない状態でしょう。

前者はお相手から箱が並行移動して近づいてくる感覚と聞きました。

分かりにくいけど、なにか違和感があるとのこと。

では後者はいかがでしょうか。

胴体は柔らかく動き、手捌きのスピードも前者と比較してかなり早くなっています。

胴体の無駄な力みを極力省いているので、自然さを感じるようです。

お相手からは「分かりにくし、違和感を感じにくい」と聞きました。 

身体が快適に、ラクに動くことができるからエネルギーの通りもよくなり、結果的に動きの質に大きな変化をもたらした、と考えています。

普段から手合わせ稽古をしている方たちから「急速に成長している」と言ってもらえるのは、

この"快適な動き"、"ラクな動き"を追求してきたからではないかと思っています。  

私の日常はこの追求に費やしていて、技術的な部分は手合わせで皆さんから学ばせてもらっています。

ありがたい環境です本当に。

③ 身体の力みがより認識できるようになった

私の「力み」の定義は「エネルギーが内側に向かって固まっている状態」のことです。

筋肉は収縮することしかできないので、力むということは筋肉が縮むこと。

つまり力むとは内側に向かうエネルギーなのです。

先ほどの合気道の技の話のように、後ろ足を支えにして前進するエネルギーを生み出しても、

肩が力んでいたらそこから先にエネルギーは伝わらなくなります。

一生懸命に力を入れているように思っていても、内側にエネルギーが向かっているので相手に大きな変化を与えることができない、というのはよくあることです。

しかしエネルギーをどこから生み出して、どこを経由して相手に伝えるのか、という意識を持つことで、

どこに力みがあってエネルギーの伝達を妨げているのかが認識しやすくなります。

そして主に力みが生じやすく、エネルギーの伝達を分断しやすいのが

・肩関節
・股関節

の二つ。

今回は肩関節について武道格闘技で言う"突き“の動作でお話していきます。

ボクシングのストレートでも、空手の正拳突きでも構いません。

最初は肩の力を抜き、ダラーンとした状態で構えて突きを打ちます。

今回は蹴り出しは行わず、腰の捻りを使ってエネルギーを生み出し、そのエネルギーが肩を通り突きを打つ、という形にします。

腰〜肩〜拳〜拳の先の空間にまでエネルギーが流れていくようなイメージです。

肘は伸ばしすぎないようにしてください。伸ばしすぎると肘を痛めてしまいます。

次に肩を力ませた状態で構えます。

肩を力ませるとは肩がすくんでいるような状態のことです。

人前に出て緊張する人は肩が上がるのと同様。

その状態を維持したまま、同じように腰の捻りでエネルギーを生み出して突きをしてみてください。

腰から生み出されたエネルギーが力んでいる肩の部分で大きな塊にぶっかったような感覚があるかと思います。

イメージとしては↓

これは金属なのでぶつかったエネルギーはそのまま伝わりますが、人間の身体の場合は弾性がありエネルギーの伝達にタイムロスが生まれます。

それに力むとエネルギーは内側へ向かうので、腰から流れてきたエネルギーが肩関節で大幅に減らされます。

一つの動きの中でアクセルとブレーキが同時に、違う箇所で起きているということです。

これを認識することは難しかったのですが、エネルギーの流れ、という視点を持つことで気づくことができました。

まとめ

というわけで「エネルギーの流れ」という視点を持つことで

①合気道の技への理解が深まった
② 動きの質の大きな変化
③ 身体の力みがより認識できるようになった

という変化を得ることができました。

YouTubeや本で学んでも形だけになってしまうと聞きますが、

それは身体の中を流れるエネルギーラインを見ないで、外の動きだけを真似するからではないでしょうか。

外側だけの動きを真似しようとすると、筋力で何となく同じような動きができてしまうものです。

このエネルギーの流れを日常生活に落とし込むのならば

・ドアを開ける時に肩の力は抜き、肘を体幹につけて、足を踏み出す力を利用するとラクに開けられる

・重いものを持ち上げる時に、肩の力を抜き、姿勢を正すと重さが足まで伝わるので、腕はラクか状態で持ち上げることができる

といったことは思い浮かびます。

エネルギーラインという視点は私とっても大きな視点の変化を与えてくれました。

とってもありがたい出会いです。

では!

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