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「性」に関する本を読む【読書録:2024年1月】

 2024年の読書目標。とりあえず思い付いたのは「「性」や「エロティシズム」に関する本を読むこと」だったので、さっそく実行してみました。コハル、実は先生もそういう本に興味があってな……

 他にも小説とか漫画とか。目次からどうぞ。そういえば、本記事はさすがにR-18注意表示されてますかね。note、ゾーニングしてくれるのありがたい。住み分けは大事だもんな。推しのえっち絵はあまり見たくないタイプのオタクです。



『ヴァギナ 女性器の文化史』

・この分野で特に人口に膾炙した本、という印象があったので購入。「一年の計は元旦にあり」と言いますが、元旦にこの本を読んでいた私の一年はどうなるのだろう。

・内容は読んで字の如く。人であれば誰もがそこから生まれ出でる生命の門たる「女性器」を、人類はどう取り扱ってきたのか――古今東西の文化や研究を読み解き、その実態を明らかにする。たとえば1章では「スカートをまくり上げてヴァギナを見せる」という表象について語られている。「女陰を見せれば海が静まる」「ヴァギナを見せて悪魔を追い払う」――これらは現代からすれば、奇習やエロギャグのように思える。しかし、生命の神秘が科学によって解明されている現代とは異なり、こと古代においては、ヴァギナは命の源として非常に神聖視されていた。それを見せるということは聖なる力の発揮を意味する。少し長くなりますが引用します。

 ところで、神話が伝えようとしている基本的なメッセージとはどんなものだろう。先史時代のイメージが伝えようとしているものとよく似ているのではないかとわたしは思う。まずはじめに、「女性の性器はあらゆる新しい命の源である。それは世界の起源を象徴するものだ。わたしたちはみなそこから生まれてきた。それは人類共通の源泉なのだ」というメッセージがある。さらに、「自分が出てきた場所を忘れてはならない。それは重要なものだ。女性のヴァギナを罵ったり汚したり傷つけたりすることは、生命そのものに歯向かうことだ。いい結果にはならない――大地とその恵みを破壊するだけだ」と付け加えている。両方を合わせたものが、スカートをまくり、ヴァギナを見せる神話が伝えようとしているメッセージである。教訓と言ってもいいかもしれない。

『ヴァギナ 女性器の文化史』キャサリン・ブラックリッジ
藤田真利子訳(太字引用者)

・しかし、中世のキリスト教圏ともなれば、こうした価値観は根本的に様相を変える。まず女性は罪深い存在と見なされる。近代においては、女性は本質的に性欲がない生物であり、性的快感を感じるのは異常だと見なす男性研究者さえいた。現代においても「ヴァギナは子種を注ぎ入れる受動的な器官」という価値観が支配的であるのは実感できることだが、近年ではその否定材料となる研究報告が多数あるのだそう。

・私が人文学系の本を読む理由のひとつとして、「現代社会を生きる中で無意識に刷り込まれていた常識を相対化させ、自分の中にある数多の知識にパラダイムシフトを起こす」というものがある。この本はまさにそうですね。特に「スカートをまくり上げてヴァギナを見せる」なんて、現代人の感覚すればポルノグラフィーでしかない。しかし、そこには神話のように力強い生命力に満ち溢れており、イマジネーションの世界が広がっていた。私はまだまだ「性」について狭い捉え方しかできていないんだな――と、本全体を通じてジェンダーについてはもちろんだが、ひとりのオタクとしても考えさせられるものがあった。

・少し話が逸れますが、そもそも私が「性」や「エロティシズム」の分野に興味を持ったのは、ジョルジュ・バタイユの思想書『エロティシズム』を読んだことがきっかけ。実存的な死や不安をした時の情動は何かしらエロティシズムに結びついている、そう考えるとあらゆる創作の捉え方が激変した。

 それから私は草のなかに寝転がり、平らな石に自分の頭を載せて、乳を流したような銀河を見つめました。銀河には、星の精子が点々と穿たれ、天の尿が流れて奇妙な模様を作り、それが、星座をちりばめた人間の頭蓋にそっくりの円天井に広がっておりました。天の頂上に開いたこの裂け目は、アンモニアの靄でできているように見え、大きな広がり――深い静寂のなかでわめきたてる雄鶏の鳴き声のように靄を引き裂くうつろな空間――のなかで光っています。そして、玉子や、抉りだされた目玉や、石に貼りついたままぐるぐる回る私の頭が、その上下相称のイメージを無限の空へと送りかえしているのでした。

『目玉の話』ジョルジュ・バタイユ
中条省平訳

・ともすれば下品で猥雑極まりない文章だけど、肉体的な快感(オルガズム)と宇宙が神秘的に合体する様に、確かにカタルシスを覚えた。肉体の再発見。官能美。実存的な死や不安を目の前にした人間の情動。イマジネーションの世界。などなど、『エロティシズム』を読んでから、オタクとして第二の人生がスタートした感がある。今後も追求していきたいテーマです。


『ペニスの文化史』

・「女性器」を読んだなら「男性器」も読まなきゃな、ということでジュンク堂にて購入。最近は本屋でもセルフレジが導入されているので、こういう本も買いやすくなりました。心理的にね。結局は万引き防止で監視している店員さんに見られています。

・こちらでもやはり、たくましい男性器は、豊穣を象徴するものとされ、古代においてはファルス(陽根)信仰が盛んだった。これはもうギャグだろってくらい誇張されている男根を模したあれやこれやが出て来るわけですが、それもやはり理由があってのこと。科学主義的な現代に比べていかに神聖視されていたかが伝わる。

・しかし、男性性や生命力の象徴としての「ファルス」と、生殖器官としての「ペニス」は根本的に別物。そもそも人間のペニスは生殖に不必要なサイズにまで肥大化しているらしく、今日私たちが目にするのは、成人向け漫画などで描かれる誇張された「ファルス」。自分の「ペニス」は正常なのかと不安になったり、男性性への挫折感を覚える男性は多い。ゆえにEDなどの治療においては、器質的アプローチは元より、心理学的アプローチを勘案することも必要不可欠なのだという。

・ダビデ像があのサイズなのは、当時はそれが理想的なサイズだったからに他ならないが、もはや現代では共有されづらい価値観。難しい問題じゃよね。やっぱりね、ショタをデカチンとして描くのはよくないと思います。あーでも『ヒメ・セメ』(BL漫画)はよかったな。作品によるか。いや何の話だよ。


『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』

・生殖が目的でもないのに何度も、しかも隠れてセックスをする、排卵のシグナルがない――他の哺乳類に比べて、人間の性活動は随分と奇妙。その理由を「自然淘汰」などのキーワードで解きほぐす。先ほどまでの二冊に比べて生物学的アプローチに特化しています。生物学SFを読んでるみたいで面白かった。

・何気にジャレド・ダイアモンド初読でした。そりゃウケるよなあと納得。ユーモアでウィットに富んだ語り口。射程が広く、アクロバティックな論理。さながらミステリ小説のような筋立て。『銃・病原菌・鉄』もいつか読みたい。


『官能小説用語表現辞典』

・内容は読んで字の如く。官能小説で用いられている表現が、例文つきで収録されているポケットサイズの辞典。ちょいちょい読んでいます。五十音順に挙げてみますと「アイスキャンディ」「青筋立った凶器」「赤黒い全貌」「赤黒い肉鉾」「熱い塊」「熱い肉」「暴れ棒」――と、ここまで挙げれば何の暗喩であるかは言わずもがな。身体の一部分だけで、こんなにも多彩な表現方法があるのかと驚かされる。

・個人的にすごいなと思ったのは、飲精描写における「毒蜘蛛の産卵」という表現。……いやもうゾッとしましたね。口の中に広がるべっちょりとした気持ち悪い感触、口の中で泡立つ様がミクロ単位で描写される。これでもかってくらい生理的嫌悪感を掻き立てられました。

・編者である永田守弘氏はあとがきで、「官能小説は性欲をかきたてるためのものではなく、もっと感性の深くにある淫心を燃えたたせるもの」と持論を述べている。とても腑に落ちた。官能小説ならではの「言語空間」があり、そのイマジネーションの世界に誘われる。時にゲラゲラと笑わせられながらも、時に蠱惑的な暗喩に感嘆とする。値段もお手頃なのでオススメ。日常では決して味わえない、あまりにも異質な空間がそこに広がっています。

・以下は「性」に関係なく、印象に残った本の感想。


『終りなき夜に生れつく』アガサ・クリスティー

・何となくアガサ・クリスティー作品を読みたくなりました。

・感想はなるべくネタバレしない範囲で。著者自身がベスト10に選出したのもうなずける完成度。前半はいかにも英国文学的な情景と心理描写でロマンチックな恋愛が綴られ、そこにひょっこり顔を出す<ジプシーが丘>の怪談が幻想文学の趣を醸し出す。やがて浮かび上がる真実。心情。「終りなき夜(Endless Night)」という題名――素晴らしい。あらゆる要素が絶妙に噛み合っている。美しい。見事に打ちのめされました。

・暫定では『春にして君を離れ』『そして誰もいなくなった』に次いで好きなアガサ作品。そういえば、ポアロは読んだことあるけど、ミス・マープルは読んだことないですね。これからもたまに思い出したように何か読みたい。


漫画――『遊☆戯☆王OCG STORIES 閃刀姫編』『火の鳥』

・遊戯王屈指の人気美少女テーマ「閃刀姫」が漫画化されました。とりあえず2巻まで。店頭で見かけたら最終巻も買います。

・私もマスターデュエルを始めた当初はこのデッキを真っ先に作り、キャッキャッと遊んでいました。「まあでもこういうコミカライズって中身は大したことないやろー」とあまり期待していなかったのですが、いざ蓋を開けてみると、なんと「舞台は崩壊後の地球。地球上でたったひとりの人類である少女レイは、13歳の誕生日を迎えたその日、故郷の外側ではアンドロイド同士の戦争が繰り広げられていることを知る」「レイは大切な仲間を守るために、最強兵器たる閃刀姫として覚醒。人間兵器と化した彼女は、感情を擦り減らしながら、凄惨な戦いに身を投じる」――という想像以上の激重展開で幕を開けました。う、嘘だろ……そんなデッキを握ってたんかワイは……❗❓

・ポスト・アポカリプスな世界観、「人間とアンドロイド」というテーマは『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を彷彿とさせる。ロゼはちゃんとオタク特効の銀髪ジト目クーデレヒロインとして描かれている。その他、カードイラストの再現や設定の掘り下げ――などなど、オタクのツボを刺激する要素が手堅くまとまっており、まさに「こういうのでいいんだよ、こういうので」。この手のコミカライズとしては優秀という印象。

・これなら次回のマギストス編にも期待できますね。なぜアレイスターは闇堕ちしたのか? マスターヴェールが「ウィッチクラフト」を立ち上げた経緯は? つーかあの火属性のおっさん誰? 元が器用貧乏で現代遊戯王の環境ではパワー不足なテーマということもあるので、強化にも期待したいところ。

・続けて『火の鳥』。「そういえば図書館って漫画も読めるやん❗💡」と急に思い立ちました。手塚治虫ならどこの図書館にも置かれていますからね。

・今のところ「鳳凰編」が断トツで好きです。人間の業。憧憬。嫉妬。イロニー――二人の男が辿る数奇な人生は、やがて「火の鳥」を巡る壮大な人類史の1ページを成す。その脚本力もさることながら、人間の「狂気」を映し出す圧倒的な画力。芸術とは時として狂気の産物であることを、他ならぬ手塚先生自身が体現せしめる。現代に至るまで巨匠として語り継がれていることに改めて納得しました。続きも楽しみ。


来月読む本

 あとは対策委員会編(ブルアカ)の予習としてこれとか読んでました。その他諸々の記録は読書メーターにて。

 「今年こそは読書習慣取り戻さなきゃなー」と思いながら諸々読んでました。実感したのは読書目標を決めることの大切さ。別にそんな大それたものじゃなくていい。ただある程度の指標があると「次はこれを、その次はこれを……あーでも飽きてきから全然違うやつ読んじゃうか❗」みたいなムーブがしやすい。行き当たりばったりに読むよりもメリハリがついた。そして、なぜ自分はこの分野に興味を惹かれているのか――それはさながら神話のようなイマジネーションの世界を堪能できるから、あるいは感性の奥底にあるものを引き出されるから、と改めて実感。ますます意欲が湧いた。もうちょっと読んでみたいと思います。

 それから「22時になったらナイトルーティンを始めて、ホットココアを飲みながら読書する」という習慣を意識して作ったのも大きかった。今まではVTuberの配信を見ながら、だらだらと過ごしちゃうことが多かったんですが。とにかく一日10ページでもいいから読もう、と。この調子で習慣づけていきたい。

 来月は何読もうかな。エロティシズム関連で言うと積読本のこれを消化したい。あとは何となく、ミシェル・フーコーも欠かせないかな……? とりあえずちくま新書の『フーコー入門』を読んでみます。

 それとこんなまとめを見かけまして。「そういや伊坂幸太郎作品は『オーデュボンの祈り』しか読んでねえや。絶ッッッ対に好きになれるタイプの作家なのにもったいねえ……❗❗」と。寄り道がてら読んでいこうと思います。

 そんな調子で来月ものんびりと、ホットココアを飲みながら読んでいきます。オススメ本があれば、ぜひコメントやマシュマロにお願いします。それではまたどこかで。


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