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アメリカへの入国は今後どうなるのか?教養としての米国ビザ事情の超基礎知識

米国の6月22日2020年月曜日の午後に、トランプ大統領が、またもや移民を制限する大統領令に署名しました。しかも、ビザ等をプロセスする米国移民局(USCIS)の職員の70%をなんと一時的にリストラするという報道まで出ています。一体米国の今後は、外国人である我々の生活や経済にどう影響を及ぼすのでしょうか。

まずは、今回の大統領令から見ていきましょう。これは2度目の大統領令で、1度目は4月21日、この時は国外に居ながらにして永住権(グリーンカード)を申請する人などが主にターゲットになっていたものの、実際には海外アメリカ大使館・領事館はコロナでどうせ閉鎖になっているし、実質渡航禁止令などもあったりして、大々的に報道された割には、実際の影響はないとして、ビザで実際に米国に住む私たちも肩透かしをくらったような印象でした。要するに、選挙戦を睨んだ対策の一環でした。

そこから60日たった6月22日に、別の大統領令に署名(4月の大統領令も同時に延長)。今回は、日本人の多くも関係するH-1BビザやLビザといったビザに影響が出るとして、大変焦りました。正式なホワイトハウスからのアナウンスメントは以下のとおりです。

基本的なビザの基礎知識

H-1Bビザとは、米国の学部卒以上で、専門技能を持つ人が一時的に米国で就労できるビザで、最大6年まで滞在できます(多くの人は途中でグリーンカードを申請するため、H-1Bビザを足掛かりに米国移住を目指します)。日本の新聞などを見ていると、エンジニア専門のビザのように書かれていますが、そうではありません。現ファーストレディーであるメラニア夫人も、もともとユーゴスラビアの出身で、H1-Bビザをつかって米国にきているんですよ。シリコンバレーのハイテク企業が、インドを中心とした海外から多くのエンジニアをこのビザで採用しているのは事実ですが、エンジニア以外にも、アカウンティング、HR、Marketingなど幅広く採用されています。H-1Bビザは、毎年4月の頭に行われる抽選で選ばれる必要があります。選ばれたら、その年の10月からH-1Bに切り替えて実際に働く事ができるようになります。ただ、応募するにも企業のスポンサーが必要になるので、遅くとも同じ年の2月くらいにすでにスポンサー企業を見つけないといけません。2月時点で雇用してあげる、といって、10月まで待ってくれるようなケースは普通はありませんので(しかも抽選に通るかも不明)、米国外にいる人が、急にH-1Bを取得して渡米するのはレアケースです。よって、多くは大学に留学して、その後1年間働けるという特権があるので、その期間に雇用主をみつけ、H-1Bに応募し、抽選に受かったらそのまま在米、というケースが多いのですが、STEMと呼ばれる理系の学生だけ、1年ではなく大学卒業後3年間残れるという事で、H-1Bビザに応募するチャンスが3回に増えます。たとえ最初の年に抽選で漏れても、あと2回応募できるのです。このような理由もあって、H-1Bはエンジニアが多いのです。

Lビザとは、企業内転勤ビザと呼ばれており、米国法人の海外支社で1年以上勤務すると、応募する事ができるようになるビザです。例えば米国のグーグルで働こうと思ったら、日本のグーグルで1年以上勤務すれば、Lビザを取得する事ができます。L-1AとL-1Bの2つがあり、前者はエグゼクティブ・マネジメントで最大7年、L-1Bの方はそうでない個人プレーヤー向け(specialized knowlege worker)で最大5年です。H-1Bビザのように、Portableではなく、米国内で転職は不可能です。日本人の米国駐在は、基本的には、Lビザが多いので、今回は大きく影響を受ける事になりそうです。

今回の大統領令の背景(基本ロジック)

英語では、Executive Orderとか、Proclamationとかと表現されています。
基本ロジックはこうです。

コロナで失業率大幅アップ→アメリカ人の雇用を守る→移民を制限するのだ!

よって、基本的には選挙対策です。トランプが11月に再選されるか否かで、移民関連政策は大きく影響を受けると思われます。再選されれば、今回の大統領令は延長されるかもしれません。

また、業界関係者の間でたまに話になるのが、インドや中国から抜け穴をつかって大量に送り込まれてくる移民たちがいて、それを阻止する政策にはなるよね、という話もあります。例えばインドや中国にある会社の米国支社(ペーパーカンパニー)を立ち上げて、そこがスポンサーする形でH-1BやLを使って米国に送り込む、というような事らしいです。実際に見たことがないので真実かどうかはわかりません。

しばらく不可能なこと

影響されるケースは以下の通り、これから以下のビザを新規に取得する事が不可能になります。

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2回目の大統領令が発効した6/24時点で、有効なビザが発効されておらず、米国外にいる人は、今後しばらく(少なくとも12/31/2020)は新規ビザが取得できなくなるので、米国で合法的に働く事はできなくなります。アメリカ出張はできるのか?については、後述します。

日本企業としては、Lビザが使えなくなるという事で、新規に駐在員を送り込むことは今後しばらく不可能になります。ただし、コロナ禍の中でも、日本国籍保持者は日本に帰国する事が可能なので、帰任させることはいつでも可能です。ただし、駐在ポストに後任が必要な場合は、後任を送ることができないという事で、現駐在員のアサインメント期間が延長されることが予想されます。

影響を受けないこと

1)グリーンカード(永住権)は、今回の大統領令の対象外です。たまに心配している人がいるので一応書いておきます。

2) Eビザ、も米国で働く日本人によくみられるケースですが、今回の対象外となっています。ただし、Eビザは日米の条約に基づくものなので、すべての日系企業が使えるわけではない(株主比率の50%以上が日本人でないと新の日系企業とは見なされない)ので、Lビザしか使えない企業はやはり影響を受けます。Eビザも使える企業は、Eビザを使って新規駐在員を送り込む事を検討してみるとよいでしょう。

3) 6/24時点で、有効なビザを持っている人(とその家族)は、上記のタイプのどれかのビザ(H、L、J)であっても、影響を受けません。つまり、海外旅行や日本へ里帰りをするために一度アメリカを離れても、テクニカルには米国に再入国が可能、とされています。大統領令発効直前に有効なビザが下りて、あとは渡米だけだ、という人も今回の大統領令の対象外なので、入国には支障がないはずです。

ただし、たとえルールとして再入国が可能だとしても、結局は空港にいて偉そうにしている入国審査官の裁量次第なんですよ。当たりはずれがあって、残念ながら全員親切な人ではないし、知識やルールが最新になっていない人もいたり、入国の度に更新されるI-94(滞在許可証)の日付も間違えたりするケースは日常茶飯事です。こういう事を考えると、米国を今離れることには、リスクが伴います。現在有効なビザを持っていて、米国内で働いている人は、家族含め、ビジネス、プライベート関わらず、今回のルールがあるうちは、米国内にとどまることをお勧めします。私が移民弁護士と話したり、シリコンバレー内の他社とも話していますが、皆米国を離れないようにアドバイスしています。よほどの急用(日本の親族の病気や、冠婚葬祭など)は別ですが、不要不急の場合は、米国内にステイしましょう。実際に入国できているケースが確認できてきて、空港の移民審査の現場が落ち着いてくるまで様子見したほうが賢明です。

4)H-1BやLビザの更新も可能
ただし現在は米国外にあるアメリカ大使館・領事館はコロナの影響でCloseになっています。もともとこれらのビザはアメリカ国内における更新が可能なので、これまで国外でしか更新したことのない方は、会社の人事担当者や移民弁護士と相談しながら進めていく事をお勧めします。

5)前述のとおり、H-1BビザはLビザと異なり、雇用主が変わった時にトランスファーが可能です。そして、今回の大統領令でもH-1Bのトランスファーは影響がありません。よって、新規ケースはNGなものの、すでに米国内でH-1Bで働いている人たちはこれまでどおり転職は可能です。コロナ禍においてもその影響があまりないハイテク企業も、これまでどおり採用活動を続けるでしょう。

日本から米国に旅行に行ったり、ビジネスで出張する事は可能なのか?

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結論からいうと、可能です。今回の大統領令によって、影響をうけるものではありません。ESTAという渡航認証は必要ですが、それもこれまでどおりです。この場合は、ビザ免除の状態で最大90日まで米国内に滞在できます。一点注意なのは、通常のビザなしで渡米した際にできる事は、観光などバケーションです。ビジネス出張であれば会議に出席したり、Conventionなどのイベントに出席する事だけであり、米国法人のために役務提供を行う事は、米国内における労働とみなされ、ビザを取得する必要があります。どこまで正直にこれを申告している人がいるのか分かりませんが、Lビザで駐在員として送れないからと言って、出張扱いでビザなしで働ける最大90日まで米国で仕事をさせる事はNGになりますので、気を付けなければいけません。

今後の注意を払うべき動向とは

前述のとおり、今年の大統領選で、トランプが再選するかどうかにより、アメリカという移民国家における今後の移民政策は大きく影響されると予想されます。今回の大統領令で一つ注意なのが、H-1Bビザプログラムを今後制限する可能ような事を示唆するくだりが含まれている事です

H-1Bビザプログラムは、シリコンバレーのハイテク企業で多く採用されています。これらの企業は、米国内にいる既存のH-1B外国人のみならず、インドなどの海外にまでH-1Bを使って積極的に採用をしかけにいっています(前述のとおり、海外からダイレクトに採用するためには、Lは1年間の期間を要するため、いきなり採用するにはH-1Bしかないのです)。そしてビザを多様に用いて採用するという事は、ダイバーシティを確保する事にもつながり、それがシリコンバレーのハイテク企業の強みの一つでもありました(少なくとも「人種」という意味においては。ジェンダーダイバーシティはシリコンバレーの引き続き課題です)。そのプログラムが制限されるとなっては、根本的な人材調達戦略が制限されるという事でもあり、正式にH-1Bの凍結などが発表された日には、株価にも影響がでるかもしれません。

日本に居ると、街を歩いていても、会社の中も、日本人ばかりで、移民国家における多様な環境を想像する事はすこし難しいかもしれません。現在の米国は、移民国家のヘッドである大統領がアンチ移民という特殊な状況なのです。アメリカ人ファースト、というけれど、アメリカ人の定義は、出生地主義であるアメリカにおいてはアメリカで生まれた人は誰でもアメリカ人なのです。アメリカで生まれた私のこどもたちもアメリカ人なのです。ですが、アジア系やアラブ系アメリカ人の議員に対して、「来たところに帰れ」と暴言を吐いてみたりするところを見ると、彼のアメリカ人の定義は白人なんでしょうね。本来、そういう事が言える資格があるのは、ネイティブアメリカンだけであるべきです。こんなことをしていると、これまで米国にきていた優秀なグローバルタレントが、別の国に・・・流れて行ってしまうかもしれませんね。

最後は話がそれてしまいましたが、しばらく不安定な時期が続きます。また動向がUpdateされてきたら、関連記事を書いてみたいと思います。

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