最近の記事

別れという恋愛における救いについて 映画『花束みたいな恋をした』

さてと、『花束みたいな恋をした』。 別れって案外、清々しい。みんな恋をする、そして誰かは結婚もする。「ずっと幸せに暮らしました」は幻想で、知っての通り、結婚は終わりではなく、日常の始まりである。 サブカル好きな二人が出会った。恋をして同棲をした。 冒頭の押井守で大爆笑できる観客なら、麦や絹に会ったとき、恋に落ちるかもしれない。趣味が似ている、服装が似ている、性格が似ていると、安心して、話せて、時に恋をし、それを打ち明けることもできる。 映画は、押井守含め、わかる人にしかわ

    • 不完全だが静かな家族の日常 今時の「リアリズム」 映画『夏時間』

      韓国映画『夏時間』は、不完全ながら、ありのまま生きる家族の姿を描いた静かな作品である。父親は露店で靴を売っているが稼ぎはあまりよくない。高校生の姉と小学生の弟は、父親と一緒に、祖父の自宅に居候することになる。そこに離婚した父親の妹がやってきて、新しい5人家族の日常が始まる。  姉と弟はよくケンカするが、仲が悪いわけではなく、あまり言葉を発しない祖父も体力が落ちているだけで、特に厳しいわけでもない。父も仕事がうまくいかないだけで、お酒を飲んで暴れることもなければ、暴力をふるう

      • 合意なきアメリカン・ドリーム 映画「ミナリ」

        ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされた映画『ミナリ』が日本でも絶賛上映中だ。  韓国から渡米した夫婦は、1980年代の米国で二人の子どもを設け、ひよこ鑑別士としてなんとか暮らしている。映画は、四人家族が車で移動するシーンから始まる。田舎の村は、のどかでどこを見ても緑に溢れ、優しい風が吹く。この冒頭が唯一、平和なシーンだ。  一家が辿り着いた場所は、近くに病院はもちろん、ショッピングモールも、心の支えである教会もない大草原だ。目の前にあ

        • ラース・フォン・トリアー『ハウス・ジャック・ビルト』

          ついていけない。と思いつつ、どこかで見ちゃう、ラース・フォン・トリアー。日本では当然ながら18禁の「ハウス・ジャック・ビルト」をAmazonで見る。トリアーの想像力そこなし。それにここまで表現しちゃうんだ。やりたい放題の恐ろしいジジイでもう誰にも止められない。 「ニンフォマニアック」でセックス中毒者の女性を2部にわたり描き(最後もシーンが圧巻)、「ハウス・ジャック・ビルト」ではナチに心酔した殺人鬼の異様な芸術性を描く。 観客の皆様、ここで笑って、ここで泣いてという親切な映

        別れという恋愛における救いについて 映画『花束みたいな恋をした』