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写真集「Scenes before dark」と「Scenes after dark」にまつわるはなし


2022年10月に「Scenes before dark」「Scenes after dark」という2冊の写真集を自主制作で発売した.

これらはもともと2021年に撮りためた作品の自分用ポートフォリオとして作成していたものを,「欲しい」という声をたびたびいただいたことから改めて販売用に印刷し直したものだ.

これまでこの作品について詳しく話したことがなかったので文章にまとめておきたいと思う.

左)Scenes after dark
右)Scenes before dark


この作品を撮ったきっかけはポートレート教室の課題だった.

自分にとって初めての作品作りだったので,まずは自分自身を率直に表すものを作りたいと思った.
あまり考えず自分が良いと思うように撮ろう.
自分の気持ちになじむものはきっと,これまで積み重ねてきた自分自身を反映しているものだろう.
なぜ自分はそれを撮ったのかを掘り下げて考えることで,自分自身をより深く理解することができるだろう,と考えた.

今回の作品はモデルを中心にした作品だが,そこに写されているのはモデルではなく景色の中にいる私自身だ.
そしてどちらかというと主体は景色の方にある.
日常生活の中で出会い「その中にいたい」と心を動かされた景色を撮った.
モデルをお願いした男性は職場の同僚だ.
彼の「無」なところが写真を撮るうえでとても良いと思った.
撮影地はすべて職場とその周辺.
10年勤めてきてそれなりに愛着と葛藤がある場所だ.
借りてきた場所でも借りてきたモデルでもなく本当に自分と繋がりのあるものを撮ることで,自分の内面を映し出すことができると思った.

共感覚と色への執着

「共感覚」という言葉をご存じだろうか.
文字や言葉に色を感じたり,音に色を感じたりする現象である.
どうやら脳の感覚機能において言葉や文字の感覚と色感覚とが連動してしまうらしい.

あまり自覚はしていなかったが私には共感覚があるようだ.
すべてではないけれど言葉や文字に色を感じる.
音楽でも絵でも写真でも文章でも,作る際にはなんとなく最初に主となる色のイメージがあってそれを具体的にしていく.
感情と色が直結していて,色に対する執着がある.

今回の作品集「Scenes before dark」「Scenes after dark」の一番の特徴は,各シーンがテーマとなる一色で構成されていることであると思う.
これは意識してそうしたのではなく,自分の心情を表現するのに一番しっくりくるやり方をした結果こうなったのだ.
一つの色に囲まれる感覚が好きなのだ。
これは私自身の持つ共感覚,色への執着が顕著に表れた結果であると思う.

夢と写真

私は毎夜夢を見る.夢を見ない夜はない.
睡眠中に見る夢は,人によってモノクロだったりカラーだったりするらしい.
私の場合,彩度の高い,しかしアンダーな映像で夢を見る.

私の撮る写真は自分の見る夢の色にかなり近い.
普段自分の認識している世界は,目で見たものを自分の頭を通して翻訳されたものだ.
夢で見ている世界はきっと自分が認識している世界なのだと思う.
写真も実際に目で見たものを自分の頭を通した認識に変換して出しているのだから,夢と同じようなものだろう.
夢も写真も,自分の頭の中の世界が投影されているのだ.

私は物心つく頃から大人になってもずっと暗くて怖い夢ばかり見ていた.
そういうものだと思っていたし,自分という人間はそれをベースに形成されていた.
それがある時期から一変,怖い夢を見なくなった.
きっかけはおそらく新しい家族をもったことなのではないかと思っている.
それまで光が足りずいつも暗くてよく見えなかった夢が,ずっと明度を増してはっきり見えるようになったと思う.
「怖い夢を見ないというのはこんなにも世界が明るいものなのか!」
「普通の人はこんなにも平穏な日々を過ごしていたのか!」
と衝撃を受けたのをよく覚えている.

それからもう何年も過ぎたけれど,
「Scenes before dark」には私の暗かった頃の夢の色が,
「Scenes after dark」には光を得てからの夢の色が,
表れていると思う.
自分の認識する世界の変化を写真に表せたことは,自分にとってとても意味のあることになったと思う.

タイトルの意味するところ

「Scenes before dark」は春から夏にかけての季節.
仕事あがりに日没までの1時間ほどで撮ったものをまとめた作品なので,そのまま「夜が来る前の場面」というタイトルにした.
そして「Scenes after dark」を撮る頃には季節が秋冬へと移り変わり,終業後では暗くて撮れなくなったため昼休みに撮影した.
その結果,前作の対となる内容の作品になったので「夜を通り抜けた後の場面」とした.

村上春樹の「アフターダーク」という,真夜中から明け方までを通した登場人物の心境の変化が描かれた作品がある.
ずいぶん前に読んでからずっと心に残っていた.
自分にとって「夜」は自分の内面と向かい合える空間だ.
社会的な活動から離れ自分自身だけでいられるところ.
だから夢も夜見る.
先述したとおり「before」と「after」の表現するものの間には自分の心の大きな変化がある.
人間が変わるのはいつも夜だ.
そんなことからもこの「夜」を中心に置いたタイトルが自分にしっくり来たのだと思う.

作品から得たもの

私はこの作品を通して「色のとらえ方」という自分のアイデンティティーの一つを発見した.
私は自分の中に,真理に繋がるような普遍的なものを見つけたい.
そのために私は自己を表現し,自分を理解したいのだ.

少し冗長になってしまった.
二冊の写真集にまつわる話しはこれにて.



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