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読書感想#2 【レム・コールハウス】「錯乱のニューヨーク」「S,M,L,XL+」

 この2冊の本は、建築を知るための本というよりも、建築論を知るための本として、重要な位置付けにあると思います。多少なりとも建築の世界に足を踏み入れたことのある人ならともかく、一般的な人々にとって、建築とは一体どのようなものでしょうか。ゴシック建築、バロック建築などいう用語とは無縁なのはもちろんのこと、そもそも建築という概念自体が、常識的なものとして浸透しているのかどうか、私はむしろ、建築はここから始まらなければならないとさえ思うのです。

 思うに、普通の人が建築と聞いて連想するのは、せいぜい工事現場に、洒落たお部屋のデザインぐらいのものでしょう。何故、ここにこの建物が建つのか、そもそも本当にこの建物は必要であろうか。一般の人に対してここまでの関心を寄せるほどの魅力が、今の建築業界にあるとは思えません。多少なりとも芸術の精神に通ずる、いわゆるミニマリストの内、「レス イズ モア」という言葉に反応する人は、どれだけいるでしょうか。合理的なデザインと聞いて納得する人々の中に、そもそも合理的ではないデザインについて考えたことのある人はどれだけいるでしょうか。おそらく我々が思っている以上に、建築は論理的概念としては認知されていないのです。

 コールハウスの著作はその中で、世間に建築論という新しい常識を普及させるのに十分な力を持ったものだと私は思います。もちろんコルビジュエやそこに至る建築史というものを知っていなければ、深くまで理解出来ないところもあります。しかしそこまで追求しなくても十分に、彼の著作は、今まで建築史とは無縁だった人々に対して、建築について考えるきっかけを与えてくれるに違いないのです。

 例えば我々にとって、高層ビルは既に当たり前の存在であり、もはや考えるに値するものではないかも知れません。しかし本書に目を通した我々は、この高層ビルから、資本主義のありかたを考えてみることが出来ます。一体、利潤を上げることが必ずしも、我々の環境水準の向上に繋がるのだろうか、という風に。街中にもはや存在することが当たり前のようになっている広告看板に対して、我々は疑問を呈することが出来るようになります。これは資本主義の名に隠れて、公共性というものを全く無視してしまっているのではないか、という風に。我々は、好き勝手に並ぶ建築群の混沌さや統制された美しい街並みの不気味さを察知することが出来るようになるのです。

 本書は単に建築の世界を深めるためのものではありません、むしろ建築という新しい常識が作られるために、論理としての建築が世間一般に知られるために必読な書であるという風に私は思います。(なお、あくまでもこれは、日本人にとって、という意味です)

⬇本記事の著者ブログ

https://sinkyotogakuha.org/

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