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夜空の星はおいしいの数

行ったことのない国って、どんな色をしているのか、どんなにおいをしているのか、どんな空気が流れているのか、どんな人たちがいるのか、そういうことをまだ知らなくて、その言葉の通り「新しい世界を見る」ってことをしたくなる。

そんな思いのまま、まだ行ったことのないポルトガルを訪れるような気持ちで、私は新しい世界への扉を開いた。

お店の中は、夜になりかけている空の色をそのまま受け継いだかのように仄暗く、小さな明かりだけがほんのりと灯っていた。
それなのに、不思議と明るい。
店内には、ポッ、ポッと夜空に浮かぶ星のように明るいお客さんの笑顔が浮いていたし、賑やかな会話はリズムの良い音楽のように耳に伝わってきたから。

バカリャウ、ピピシュ、ピカパウ、ポレンタ、フランセジーニャ、ポンテデリマ。
メニュー表には聞いたことのない言葉が並んでいて、読み方を習う子供のように小さく口でポツポツと呟いてみる。なんだか魔法の言葉みたいな響き。

「アサリと豚とジャガイモのアレンテージョ、蒸しポレンタとバカリャウのミルク煮、それと……カブとビーツのヨーグルトサラダ……」

どんな料理なんだろう、とやはり初めての国を訪れたときと同じように好奇心と期待を胸に注文をする。ふふふ、待ちきれない。

と、さっそくテーブルに運ばれてきたカザル・ガルシア。
“緑のワイン”という意味を持つワイン産地で作られたポルトガルワインだ。完熟手前のブドウで仕立てられるらしく、果実をそのままギュッと含んだような味わい。一口含めば瑞々しさと爽快感が広がり、ワクワク夢心地な私の心をキリリと少しだけ引き締めてくれた。

野菜やサラダが主役のような顔をして登場する。
そうだよ、主役はキミだよ。と言いたくなるような美しい色と豊満なボリューム。食べたら分かる、その存在感。
そして、鼻をくすぐるようなスパイスの香りとほくほくな湯気を放ちながらやってきた(こちらが本物の)メインディッシュ。
五感が冴え渡るまま舌にのせると、私の顔もまわりのお客さんと同じようにキラリと煌めいてしまうのだった。マジカルな言葉たちは本当に私に魔法をかけてしまったみたい。

弾む会話、すすむワイン、居心地の良さにとびきりのおいしい時間。
初めて訪れた国なのにもう馴染みのお店ができちゃったような、そんな嬉しい気分に出会えた。
まだ見ぬポルトガルに想いを馳せて、私はまた『クリスチアノ』に遊びにいく。料理が運んでくれる幸せに乾杯しながら、ワイン片手に旅のハナシを弾ませたいんだ。

ボリュームも満足100%

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