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弁当

幼少期から、弁当というものは嫌いであった。
給食のない、いわゆる遠足や運動会なんて、
大っ嫌いであった。

なぜなら、母親は弁当を作らないからだ。
いや、作らないどころか行事自体を、
覚えようとはしない為、いつも一人である。
参観日なんて、一度も来ない。

なので、弁当は自分で作るしかないのだ。
ほとんどが白米を握った。
具なしのおにぎり…いやにぎりめしだな。

いびつなそのにぎりめしを持参して、
行事に参加して、昼休憩の時には、
誰にも見つからないよう急いで食べてた。

幸い、高校は夜間で給食があった。
そこには食堂があり、みな給食が食べれた。
だがそこでも、1時間目の終った後、
20分の間に食べ終わらないといけない。
給食のおばちゃんに挨拶して、
席につき、また急いで給食を残さず食べて、
おばちゃんに美味しかったです。と
味わう時間もないのに言って、
2時間目の授業を受けるのである。

代わりに売店とやらを知らない。
学校に行く時には、売店は閉まっていた。
ちょっと憧れていたのを覚えている。

それから、しばらくは弁当とは縁がない。
もちろんコンビニ弁当や近くの弁当屋を
利用しているのだが、いわゆるである。

手作り弁当ってヤツ?

こればかりは自分で作らないかぎり、
無縁の世界であり、未知なる世界であった。
そして…手作り弁当なんて…嫌いだ!
とかなりひねくれた自分が存在していた。

世の親たちは、素晴らしいと思う。
子を想い、見栄えだけでもなく栄養面でも、
考えてせっせと早起きして作っている。
しかも、ほぼ毎日、何年もだ。
考えただけで、とてつもなく大変だろう。
もう、尊敬しかない…すごいな。

そんな親の作った弁当にケチをつける、
そんな同級生がたまにいたなぁ。
作ってもらえるだけ、ありがたいではないか。
文句言うなら、食べんじゃねーよ。
そうひねくれた自分は心の中でぼやく。

そんなひねくれ者でも大人になれるんだな。

一度であるが、手作り弁当を作ってみよう!
そうなんとなく思い立ったのである。
仕事も休みだし、ぼーっとしてて、
何もやる事がなかったし、出来心である。

弁当箱なんかありゃしないが…タッパがある。
だが、わからないのである。
定番の手作り弁当とやらが。
童謡の
これっくらいのっお弁当箱にっおにぎりー
おにぎりーちょいと詰めてっ…にんじんさん!
さくらんぼさん!しいたけさん!ごぼうさん!
あなーのあいたれんこんさん!
すじーのとーたふーき!

…意味がわからん。
想像がつかないのである。
そして、冷蔵庫にはそんなもん入ってない。
えーっ買いに行くしかないのか?
めんどくさっ!でもこれも試練だ!
行くぞ!と買い出しにスーパーに向かう。
てはじめはなんだ?何を買えばいいんだ。
さっきの童謡を思い出して具材をカゴに。
こんなんで弁当ができるのか…。
もしかして…親達は魔法使い?
それは、どこで習得できるのだ?
と一通りスーパーをまわり。
危険なゾーンに入った。
惣菜、弁当コーナーである。
ん?待てよ…これは!
この弁当参考にすればいいんだ。
ずらりと並んでる弁当をぶつぶつ言っては、
あーだこーだと解析していく。
あっ!筑前煮の惣菜を見て気づく。
にんじんさん…しいたけさん…ごぼうさん…
れんこんさんに、すじの通ったふきさん…。
なんだ、あれ、筑前煮の歌じゃん。
こんな所にトラップがあったなんて…。
危うく買うところだった…危なかった…。
一度その筑前煮の材料を戻しに行く。
そして…。

いつの間にか唐揚げ弁当買ってた。

これはかなりの強敵である。
不器用なかあちゃんには無理な話だわ。
そりゃ言っても作らねぇーよな。
うん、うん。と納得し勝手に解決した。

帰って唐揚げ弁当を食べて。
やっぱり手作り弁当は無理だ。
余計に嫌いになって終わってしまった。

いつか、手作り弁当とやらを克服する日は、
くるのだろうか…愛情たっぷり弁当。

多分だが、何かに飢えてるな…。
そんなんに負けるか、このアホ!
ひねくれ者はそう簡単には治らない。

弁当という文化を作った先人達よ。
偉大な功績に拍手を…。

そして…弁当嫌いって言ってごめんなさい。



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