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【航海日誌】Haina村(9/29-30)

概念図

9/29(金)

一昨日までの嵐が嘘のような快晴。晴れた日のヘケテ海峡海岸の延々と続くハイウェイは海の上を飛んでいるような気分になる。今日と明日の予報は北西の風5〜15ノット。今回の行程はすべてスキディゲート・インレットの東側で完結するので、特に風の影響はなさそうだ。

13時に前回と同じカーガン湾のキャンプ場に到着。ドライバッグにテントとシュラフ、食料などを詰め込み、コックピットには釣り道具とウォーターバッグを格納する。満潮の時間での出発だったので、ほぼ駐車したところから漕ぎ始められるので極めて楽だ。干潮時に出発した前回は100メートル近くカヤックと荷物を移動させなければならなかった。

14時に出艇。今回のポイントはカヤックフィッシング、上陸→キャンプ→撤収の効率化、そしてウェアの再考である。ウィスラーのリサイクルショップでウェットスーツを16ドルの破格で見つけてから、とりあえず今季はこれで漕いでみようとずっとそれを着ていた。ウェットスーツは濡れても保温してくれるという利点はあるものの、濡れるは濡れるものなので、ずっと漕いでいると汗や上陸時に濡れた部分が蒸れて非常に不快。そして次の日に出発する際、濡れて冷えたウェットスーツを足から体に引っ張り上げる時の敗北感といったら比類ない。

今回は下にはPatagoniaのウェーダー、上には化繊Tシャツの上にKokatatのセミドライジャケットを着用してみた。この組み合わせがもう快適。ウェーダーというのは川釣りに使われる防水つなぎのようなもの。これでお尻も下半身も完全に濡れない。その上にセミドライジャケットを着る。リストバンドと腰ベルトをしっかり締めることで、パドリングの際にジャケットの中、ウェーダーの中に水が入り込むのも避けられる。おかげさまでご機嫌パドリング。

静かに満ち満ちた海に漕ぎ出す。Lina Narrowsのなかには数隻釣り船が停泊していたので、そこで何度かルアーを投げてみる。特にアタリなし。木の棒に糸を巻きつけ、バズボムなるカナダ人御用達のルアー兼オモリで底近くを探ってみる。こちらも反応なし。サーモン釣りのように目の前でバシバシ魚が跳ねていたり、釣り針を落とすべき場所が明確な桟橋での釣りはモチベーションを保つことができる。しかし、カヤックでの釣りはどこへでも水上を移動できるからこそ、魚がいる場所がわからないとたば漠然と釣り竿を振るうだけになってしまう。

バズボム。釣れる時は数秒で根魚が引っかかってくるとか。

気を取り直して、多島海を漕ぎ進める。今日はちょうど行き先が潮の引いていく方向なので、おおまかな流れに逆らわなければ楽な行程だ。島の影やアシカが泳いでいるあたりで数回キャストを試みるが、全くアタリなし。ここまで反応がないと萎える。日も短いので、先を急いでHainaを目指した。

静かな海と快適ウェアでご機嫌です

17時過ぎ、カーガン湾のキャンプ場から10キロほど漕いだところで、Haina村の砂浜が見えてきた。ハイダグワイの上陸しやすい海岸にはすべて古代の村跡がある、と聞いたことがある。ハイナの村も違わず、カヤックで旅をするものからすればこれ以上なくありがたい砂の海岸が広がっていた。奥に広がる森に目をやると、朱色の美しい比較的新しいトーテム・ポールがこちらを見ていた。対岸の小さな島と村跡は干潮時、砂州で繋がっている。インディアン・リザーブやハイダの村跡でのキャンプは禁止と聞いたことがあるので、対岸の島をキャンプ地にする。満潮線よりも高い場所にカヤックを持ち上げるのが一苦労。朝日を拝めそうな場所にテントを設営する。闇が訪れる前に、砂州を渡って村跡に繰り出した。

Hainaの村が見える
キャンプ地となる小島

見上げると、二匹のワタリガラスが僕の頭の上をぐるぐると旋回している。木に停まっては、こちらを伺いながら鳴いている。まるでお前は何者だ、と問わんばかりに。

百四十年ほど前に棄てられた村には、人の営みがあったことを示すものはほとんど残っていない。他の森より平たい場所が気持ち多いこと、若い木が少なく数百歳ほどの巨木が立ち並んでいること、そして比較的新しいトーテム・ポールがぽつんと一本立っていること。それくらいだ。

どんどん暗くなっていく巨木の森と頭上を飛び回るワタリガラスにすこし慄きを抱き、明日の朝じっくり見物することにして早めに切り上げる。焚き付けに使えそうな木々を拾い、海岸でキャンプファイアをおこす。本来は釣った魚のグリルとサーモン炊き込みご飯のはずが、諸事情で変更を余儀なくされる。朝握ってきたおにぎり2つと辛ラーメン。不本意な夕食だが間違いなく美味しい。バンクーバーで買ってきた即席ヌードル系のものをついに食べ切ってしまう。

7時過ぎにはもうすっかり夜だ。焚き火に海水をかけて火を消し、カヤックを木と結びつけ、食料をしっかりハッチにしまう。就寝用のベースレイヤーに着替え、寝袋に潜り込む。海上無線機で明日の天気を確認する。明日は北西の風15-25ノット。今日の状態からすれば、特に問題ないだろう。ヘッドランプのあかりで一時間ほど読書。ソロキャンプの時の、テントを設営し、食事も身支度も終え、寝袋に入って後は寝るだけ、という時間がすごく好きだ。木々の間を抜けていく風の音、満ちてくる海の波音に耳を傾けながら、天然のBGMのもとでの読書は嗜好。22時前には就寝。

9/30(土)

波音で午前2時に一度目が覚める。潮がだいぶ上がってきているようだ。満潮線よりも数メートル高い位置に設営しているので浸水する可能性はないが、水音が聞こえると不安になる。テントから身を乗り出して外を見ると全然大丈夫だったので耳栓をして眠りにつく。

日の出は7:48。かなり遅くなってきた。なかなかの寒さに寝袋から出る気になれず、少しぐだぐだする。ファスナーを開けて外の覗くと、朝日がHainaの村を照らしている。ハイダ語で「陽の登る場所」という名前は伊達ではない。サンドスピットの町の方向から太陽が上ると、森も海もいのちを授かり、踊り出したような世界になる。

Hainaは1890年代に打ち捨てられたハイダ族の村跡。この村は数奇な運命を辿っていたようだ。そもそも、この村が建てられたのも1850年代だという。18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘は、免疫を持たないアメリカ大陸の先住民を食い殺していく。ハイダにおける天然痘のエピデミックは悲惨であり、最盛期には1万人以上の人口を抱えていたハイダ族は600人まで激減した。島の至る所に100以上あったハイダ族の村のほとんどが打ち捨てられ、現在ではスキディゲートとマセットの二つの村が残っているのみである。元々は西海岸、Chaatl村に居住していたクランは天然痘の蔓延を受け、生き残った人を連れて村ごと引っ越したのだという。その移転先がスキディゲートから程近いマウデ島の東端、今僕が立っているHaina村だ。

19世紀に新しく拓かれた村ということもあり、ハイダ族の伝統家屋・ロングハウスにも西洋式の窓フレームが使われたりしていたのだとか。ただ、ハイダグワイにおける感染爆発はとどまることを知らず、結局はHainaの村も捨てられ、生き残りはスキディゲートの村に流れ着いたのだという。

Haina村のようす(カナダ歴史博物館サイトより)

朝日に照らされる村跡を散策する。苔が広がる地面に、ロングハウスが建っていた光景を想像する。朽ち果てた巨木の上にも巨木が青々とせり立っており、人の営みが消えてから過ぎた時間の重さを感じさせられる。

Sotoさんのシステムクッカー、トング兼鍋つかみが優秀。よく考えられている。

朝食にはオートミールを作る。これがマジでこの世のものとは思えないほど不味くて、絶望を通り越して笑ってしまう。朝食問題はどうにかしなくてはならない。オートミールが美味しくなるなんて、そもそも無理な話なのだろうか。行動食のオレオを口に放り込んで気を紛らわす。ドライジャケットとウェーダーを履いて、出艇準備。朝に濡れて冷えたウェットスーツを着なくていいという革命。干潮で海岸線が50メートルほど離れてしまい、カヤックを降ろすのとハッチにドライバッグを詰め込むのに一苦労。11時に出発。

朽ちた釣り小屋を見つける。そこまで古くなさそう。捨てられて十五年といったところだろうか。

昨日とは逆の上げ潮で、今回も潮流に乗っていけばいい。楽々にパドリングができる。今夜はポットラッチなので早めに町に帰りたい。

カーガン湾に戻る少し前の海岸に上陸する。博物館で見つけたハイダグワイ全土の村跡を網羅したマップによると、この海岸にもGasinsという村があったという。静かな湾、長い海岸線、スロープをつくる砂浜のビーチ。どれもカヌーでの移動を主としていたハイダ族の村の立地には最適だ。裏に広がる森も、心なしか若いように見て取れる。ここにずらりとロングハウスがならび、カヌーが岸につけられている。人々は狩猟や採集、釣りにでかけ、職人はアート作りに打ち込んでいる——そんな光景が目に浮かぶようだ。

今日も極めて静かな凪の海を心地よく漕いでキャンプ場に帰還。カヤック、楽しい…!

収穫ポイント

朝ごはん:オートミールの美味しい作り方をさぐる。それとも、かさばらなくて簡単でおいしい朝食メニューを考案する必要あり。

ウェア:ウェットスーツで今シーズンも来シーズンも漕ぐ予定だったが、やはり不快すぎるため断念。上にセミドライスーツを着用し、下のウェーダーに被せるように空気抜きして着用すれば、なかなか快適にパドリングできそうである。このかたちでやっていこう。

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🏝️カナダ最果ての地、ハイダグワイに移住しました。

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📚写真集を出版しました。

🖋イラストを描いています。

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