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本からもらうもの。「傑作はまだ」より

こんにちは!tamasiroです。
何度も足を運び続ける書店があります。
立地的に立ち寄りやすいということもありますが、なんとなく居心地が良く癒されてしまう書店です。
必然的に顔見知りになる書店員さんが増えていき、購入傾向によりどうやら私の好みが把握されたようです。
今回ご紹介させていただく本は、そんな書店員さんにおススメされた初めての作家さんです。
人気のある作家さんで多数の人気作があります。迷った結果、はじめの一歩にこちらを手に取らせていただきました。


著者様は 瀬尾 まいこ さんです。
発行は文芸春秋、文春文庫で読ませていただきました。
とても読みやすく、やわらかい言葉選びとわかりやすい文章、今まで手にしなかったことを後悔してしまうほどに私の好みです。
ある意味淡々とした、しかし優しさを感じる作風に癒されながら読み進めることができました。

◎こんなお話し◎


加賀野 正吉、五十代、小説家、一軒家住まい、家族なし。いや、疎遠ではあるが何年も連絡すらしない両親は健在であるはずだし、写真でしか知らない血を分けた息子もいる。滅多に外出はしないが、隔絶されているというわけでもない。人付き合いはあまり得意ではない。近所付き合いはない。何となく周囲の目が気になり外出のハードルが高い。かと言って不便でもない。外に興味をそそられるものはないし、仕事は自宅で完了できる。
そんな俺の自宅に訪ねてくるのは新聞の勧誘と宅配便くらいだ。
しかし、会ったこともない二十五歳になった息子が突然訪ねて来る。
俺を「おっさん」と呼ぶ永原 智。
「はじめまして」と言いながら、自宅に住み着き、生活を共にする。
彼を育てたのは、友人に紹介された何も考えていなさそうな見かけだけは美しい女性だ。会ったのも数回。
俺は毎月養育費を送り、彼女から受領のメモと息子の写真が一枚送られてくる。
ただそれだけの関係のはずだ。
ところが彼と生活を共にし食卓を共にし、彼が近所付き合いを始めて、ゆっくりと確実に俺の環境は変わっていく。
智は家にいないのか?智の好きなものは何だ?智は今までどうしていたんだ?あいつは何で近所でも要領よく溶け込めてるんだ?
さして興味もなかったはずの息子と、その母親 永原 美月。
智の登場により、徐々に外に向かう意識。
美月の真実。


◎読後に◎


素直で真面目な性格の加賀野におこる心情の変化が、少しの切なさと希望を感じさせてくれます。
智を道しるべの様にして、五十代のおっさんが一歩を不器用に踏み出していく姿は応援したくなってしまいました。
内側だけで完結していた視点が、外界に向かうことにより捉え方が変わり、印象が変化していきます。
自分の価値観や性格が変わったわけではない、周囲の人間の価値観や性格が変わったわけではないのに変化する世界。
人の善意を信じる。素直に正直に、不器用に自分らしく生きていく。
作中に悪意を持った人間や展開がないので、全体的に優しい物語。
劇的ではありません。しかし価値観を変えずに視点を変えることによって徐々に変化していく展開です。

食事の場面が多数ありますので、終始食欲が刺激されました。
某コンビニのから揚げ、美味しそうな大福、かりんとう、近所の方のおすそ分け。
そして、おそらく作者様に意図はないと思いますが、主人公加賀野とお相手美月の名前から日本酒「加賀ノ月」を連想してしまいました。石川県の美味しいお酒です。

「同じ釜の飯を食う」という言葉があります。
この物語は食事のシーンが重要な場面になります。
「食」をツールとして繋がりを構築していくのは、ありふれた事です。
しかし大事なのはツールを使うために、一歩踏み出してみること。
作中で一歩を踏み出した加賀野のセリフが最初と最後で同じです。
別に価値観や性格を意識して変えることはありません。一歩踏み出した先で感じたことから、変化を望めば思いのままに。
視点が変わり、取り巻く人の優しさを感じ、広がっていく世界。
優しさを感じるために、根底に友愛や親愛などの相手の気持ちを推し量る配慮がお互いあれば、生きやすい世の中になるのではないかなと思いました。
特に大事な人であれば素直に言葉で伝えること。
現実では視点が変わったことにより、悪意が見えてしまうこともあるかもしれません。
でも、すべては踏み出さなければ見えない世界です。

変化を楽しむ加賀野の世界という傑作はまだ、これからです。
読者である私たちの世界という傑作もまだ、これからなのだろうと思えることが、とても幸せです。


最後までお読みいただきありがとうございました。
今日が素敵な一日となりますように😊

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