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小説「若起強装アウェイガー」第2話「必殺!技の激突」

海沿いにある廃病院。そこには政府転覆を企むドクターホワイトこと白河博士がいる。ここを抜け出した博士の娘・亜衣を捕まえに行った勇であったが、予想外の敵・治英に倒されてしまった。重傷を負った勇であったが、ふらつきながらも自力でこの廃病院「白の館」に帰還する。

勇の傷は完全には治ってないが傷口はほぼふさがっている。
白河「亜衣は取り逃がす、重傷は負う、どういうことだ。亜衣がそこまで強いとも思えんが……」
勇「それが、バインダーブレス無しで若起するものに邪魔されまして……」
白河「なんだと?」
勇「博士もご存じない?」
白河は答えなかった。

そこに口をはさんだのは、絵須[エス]という女だ。
絵須「アタシの出番のようだね」
絵須は専門学校生だったが、高校生活から変わった環境に適合できず、学校をやめてこの白の館に入った。
白河「お前が亜衣を連れ戻すというのか」
絵須「アタシの強さは先生も知ってるでしょ」

確かに絵須は強い。それは白河も認める。だが白河にとって絵須はあまり愉快な存在ではなかった。他人の会話に平気で口をはさむようなところや、茶髪だとか耳中にしたピアスだとかスカジャンにダメージジーンズといった姿が、高齢の白河には好ましく思えなかった。娘とソリが合わないことも知っている。

白河「亜衣を倒すのではない。連れて帰るのだぞ」
絵須「わかってますよ」
勇「お前ひとりでか」
絵須「いや」
そこへ、ヨレヨレのスーツを着た猫背の中年男がやってきた。眉井[ビイ]だ。ただでさえ身長が低いのに猫背がさらに低く見せる。いつも膝を曲げたようなヨロヨロと不気味な歩き方をする男だ。

絵須「こんなだけど、若起すると強いんでさあ」
眉井「へへっ」
白河「そうか……なら二人で亜衣を連れてこい」
勇「あの、バインダー無しの男は……」
白河「可能ならそいつも捕まえてこい。興味がある。勇は休んで傷を治せ」
勇「いえ、これしきの傷、人並み外れた自己治癒力を持つ我々なら……」

白河「それはそうだろうが、まずはあの二人に任せよう」
勇「バインダー無しで若起した男が気になりまして」
白河「まあな……そんなことは突然変異でも起こらねばありえんが。実際に調べてみたいものだ」
絵須と眉井は廃病院・白の館を出て、手分けして亜衣を探し始めた。

治英と亜衣の二人は夜中歩いて鬼ヶ岬へ向かう。道すがら、二人は名乗りあうなど軽い自己紹介をした。亜衣は女子高生で、父である白河博士の助手でもある。治英はようやく定職についた中年男で、仕事で疲弊して自殺を試みて踏切から電車に飛び込んだらなぜかこの騒動に巻き込まれた。

亜衣「どうして死のうとしたの」
治英「その……つらかったんだ。毎日毎日朝から晩まで仕事をしてて家には寝るためだけに帰るような生活。疲れて、何も考えられなくなっていた」
その自分が、この少女を助けるためとはいえ誰かと戦い、そして勝ってしまうというのは、治英自身も不思議だった。

治英「あの男と戦った時の、俺や、あの男の姿はなんなんだ。亜衣さんも同じような姿だった気がするけど」
亜衣「あれは強装。体を守ってくれる。爪や髪と同じで、なくなっても何度でも再生するわ」
治英「亜衣さんのは羽が生えていたようだったし、あの男のは牙がついてたみたいだったけど」

亜衣「強装の形は一人ひとり違うの」
治英「どうするとあの姿になるんだ」
亜衣「若起[ジャッキ]するのよ。腕につけたバインダーブレスにジャッキ!って叫ぶと、バインダーブレスの力で太古の遺伝子が発現し、あの姿になって戦えるようになる。その時、私たちの心身は18才前後になるとされてるわ」

いきなり遺伝子とか言われて面食らった。だが死を選ぶほど心身が疲弊していたのに少女を助けるため戦えたのは、気力も体力も若い頃に戻ったからなのか、と治英は少しだけ納得した。
亜衣「私は今の年齢がそのくらいだから実感ないけど、あなたは顔も姿勢も若者みたいだったわよ」

そう言って亜衣は少しだけ笑ったが、治英が今はただの中年男に戻っていることを確認するとまた真顔になる。
亜衣「若い頃に戻るのは、若起してる間だけだから」
警告するような口調だ。
治英は、はじめて亜衣の笑顔を見れたのがうれしかったが、それがすぐ消えたことに、何か申し訳ない気持ちなった。

空が明るくなってきた。一晩中歩いてたのか。治英がそれに気づいた瞬間、二人を同時に緊張感のようなものが襲った。
治英「なんだこれ……!」
亜衣「暴意[ボウイ]よ。アウェイガーが近づいてきてるってこと!気をつけて」
治英「アウェイガー?」
亜衣「私達みたいに、若起できる人間よ!」

亜衣は左手首のバインダーブレスにカードを挟み、手首を口元にもってきて「若起!」と叫んだ。光が彼女をつつみ、その光が強装となって彼女の全身を覆った。背中には鳥のような翼がある。
その次の瞬間、ヒュンという音とともに太い鞭が二人を襲った。鞭の持ち主が朝日の中に現れる。若い女だ。

亜衣はその翼を広げて宙を舞い鞭をかわしたが、治英は瞬時に鞭で滅多打ちにされ、その場に倒れた。
亜衣「絵須!あなたの狙いは私じゃないの」
絵須「フッ、邪魔者を先に片付けただけだ」
絵須の右手首から伸びる鞭は強装の一部だ。絵須は手首で鞭をトグロのように回し、攻防一体の構えとした。

絵須「アタシのこの構え、わかるよね。アタシに向かってくればお前は全身滅多打ち。逃げようとすれば首でも脚でも巻きつくよ」
亜衣「私に、どうしろと」
絵須「お前が慧[ケイ]をそそのかして、二人で白の館を抜けた。お前がいなければ、アタシは慧と一緒にいれたんだ!」
亜衣「それは……!」

絵須「違うとでも言うのかい?結果がそうなってるんだよ。ドクターホワイトの研究データを消し、バインダーやカードも全部持ち出して、二人で逃げた」
亜衣「だから私を捕まえに来たの」
絵須「そうさ。殺すなとは言われたが傷つけるなとは言われてない。慧に二度と会えない顔にしてやる!」

円の陣形を解かれた鞭は絵須の意のままに亜衣の顔をめがけ襲った。翼で宙に逃げる亜衣だったが、鞭は亜衣の脚に巻きつき、亜衣は地面に叩き落とされた。
絵須「死なない程度に殺してやる!『ショックウェーブ』!」
絵須はそう叫ぶと鞭をものすごい勢いで震わせ、その振動が亜衣にダメージを与える。

亜衣が声も出せず苦しんでると、鞭を両手でつかんで振動が亜衣に伝わらないようにする者が現れた。治英だ。振動はそのまま治英に伝わるが、亜衣を助けたい一心で堪えた。
絵須「なんだこいつ?普通の人間が手でショックウェーブを受けるなど自殺行為……」
その時、治英の体が光りだした。

治英をつつんだ光は強装になり全身を覆う。さらに治英は叫び声を上げながら全力で鞭をちぎった。
絵須「そうか。お前がバインダー無しで若起する男かい。勇を倒したんだってね。面白いじゃないか」
そう言うと絵須の姿が消えた。
治英が戸惑ってると、後ろから鞭が飛んできて治英の首に巻きついた。

治英「後ろだと?!」
気づいた時には鞭が治英の首を絞めはじめた。
絵須「ハハハハハ!勇はなんでこんなマヌケに倒されたんだい。さあ、このまま窒息死するか、ショックウェーブの衝撃で死ぬか選びなよ」
その鞭に何本かの羽根が飛んできて、鞭は首から離れた。
亜衣が翼から放った羽根だ。

絵須「チッ」
再び絵須の姿が消えた。
治英「これは……」
亜衣「絵須にはカメレオンの能力があるの。けど暴意をしっかり追えば必ず見つけられるから」
鞭を出して攻撃する時、絵須は姿を現わす。その時めがけて治英はパンチをくりだした。治英も鞭のダメージを受けたが、絵須にもダメージを与えた。

治英は自ら鞭を腕に絡め、絵須の動きを押さえようとする。
治英「鬼ヶ岬へ行かなきゃいけないんだろ。今のうちに!」
そう言われた亜衣は一瞬戸惑い、その後治英らに背を向けて逃げようとしたが、何者かがその亜衣の背中に飛び蹴りをくらわす。亜衣は吹っ飛び倒れた。
眉井「遅くなりやした、姐さん」

絵須「ここがわかっただけでも褒めてやるさ」
眉井「姐さんの暴意をビンビンに感じたんでさぁ」
絵須「その、姐さんって呼び方は呼び方はおやめ!父娘ほども歳が違うんだよ」
眉井「若起してる間だけは年下のつもりなんで、へへっ」
絵須は鞭を使って治英を眉井の方へ突き飛ばす。

ズサッ!
治英「くっ!」
絵須「この男はお前に任す!」
眉井「おっ、バインダー無しで若起した奴か」
そう言うと、眉井の姿が治英の視界から消えた。
治英「なっ……!」
亜衣「治英、上だ!」
眉井「遅いわっ!」

治英が眉井に気づいた時点で、眉井はものすごい速度で空から治英に襲いかかり、頭部に肘打ちと膝蹴りをくらわせた。
絵須「人の心配をしてる場合か!」
そう叫んで絵須は亜衣に襲いかかる。亜衣は翼で宙へ逃げても脚を鞭でからめとられ、地上にいれば滅多打ちにされる。羽根を飛ばしても鞭で防がれる。

治英は頭部から血をボタボタ流しながら眉井の動きを追うが、地面を這いながらピョンピョンとトリッキーに移動してたかと思うと、すばやく跳び上がり頭上からの攻撃。治英は翻弄される。
眉井「俺はカエルの能力を持ったアウェイガーだ。お前が何の遺伝子に目覚めたか知らんが、俺を捕まえられるか?」

絵須「眉井、殺すんじゃないよ」
眉井「わかってまさぁ」
亜衣は絵須の鞭による攻撃に対し、攻めることも守ることもできずダメージばかりが増えていた。
亜衣「(クッ……治英、聞こえるか、私の暴意の声が)」
治英「(えっ……亜衣さん、聞こえますよ!)」

亜衣「(次に眉井が空へ高く跳んだら、私が眉井に攻撃する。治英は絵須の動きをなんとしても止めてくれ。それしか手は無い!)」
治英はあらゆる意味で戸惑ったが、迷う猶予は無かった。まさに今、眉井は治英の視界から消え、空高く跳んだ。治英は亜衣を信じ、絵須に向かっていく。

それを感じた絵須は治英に鞭で攻撃するが、治英は自ら鞭を受けると体に絡め、それ以上の動きを封じた。その間に亜衣は翼で宙を舞い、跳び上がった眉井に向っていく。
亜衣「なるほど、カエルは自らの身長の何十倍もの高さに跳べるという。そこから落体の法則を利用しての攻撃か」
眉井「何っ?!」

亜衣「確かに、跳び上がる速度が速ければ落下時のスピードも速く、地上で攻撃を避けるのは難しい。だが跳び上がり頂点に達し落下する直前、お前のスピードはゼロになり、逃げることも踏ん張って防御することもできない!」
亜衣は翼を広げると、無数の羽根を眉井に向けて放った。

亜衣「フライングフィン!」
無数の羽根による攻撃に眉井は為す術がなく、ボロボロになって地上に落ちた。
絵須「眉井!」
眉井に気を取られた絵須に対し治英は鞭を押さえる力をゆるめ、絵須はバランスを崩す。
ガクッ!
絵須「なっ?!」
治英は勇を倒した時のパンチを思い出しつつあった。

あの爆発的な威力の、炎に包まれたパンチを今出せれば勝てる!治英は体勢を崩した絵須のボディにパンチを繰り出す。あの時と同じように、拳は炎に包まれ、爆発がロケットのような推進力となり、敵に向かっていく。
だかそこへまさしく眉井が治英と絵須の間に跳び込んで、パンチは眉井の体をえぐった。

フライングフィンでボロボロにされた上に治英のパンチをくらい、眉井は全身から大量の血を流しその場にぶっ倒れた。絵須は負けを認めるようにその場にしゃがみ、眉井を抱き寄せる。
絵須「あんた、アタシを庇って」
眉井「へへ……姐さんに拾ってもらった恩は返さないと」
眉井はそこで意識を失った。

絵須「眉井はね……これでもかわいそうな奴なんだよ。雨の日に夜中の駅でうずくまって泣いてたんだ。捨て犬みたいにね。字も読めず、金勘定もできず、だからいっつも騙されてばっかりで、貧乏クジばかり引いてきたようなオッサンなんだよ。今どきそんな奴がいるなんて信じられないかい?」

若起の解けた眉井の強装は砂となって崩れ落ち、その姿は血まみれの中年男だった。
絵須「わからないだろうね!あんたみたいに、博士の娘として何不自由なく育ったような女には。慧はアタシの希望だったんだ。それを平気でかすめ取るような女にはわからないだろうね!」
亜衣は、何も言い返さなかった。

絵須は血まみれ中年男になった眉井を背負い、治英と亜衣に背を向けて歩きはじめる。
絵須「死なせないよ。体を張ってアタシを守ってくれたお前を死なせるものか。謙信の隠し湯へ行こう。そこで養生すればきっとまた元気になるさ。アタシが拾ったんだから、責任持たないとね」

治英は絵須の言ってることの半分以上はよくわからないが、亜衣の表情を見ると、ちょっと今は訊けないと思った。
治英「とにかく助かった……のか」
亜衣「そうね……鬼ヶ岬へ急ぎましょう」
二人はまた歩きはじめた。


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