魔法の褒め言葉
誰もがきっと「他者に言われて嬉しい褒め言葉」を持っていると思う。
褒め言葉にはいろいろある。
優しい、気が利く、いつも明るいなど、内面を指したもの。または、かっこいい、かわいいなど、見た目に関するものもあり得そう。あるいは、その人にしか分からないピンポイントな表現という可能性もある。
いずれにしても、他者から特定の褒め言葉をもらえたときは嬉しいものだ。関係性の深い浅いを問わず、たったその一言で、不思議と本当の自分を分かってもらえた気持ちになる。
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先日、私と夫で運営している宿に泊まりに来てくれたお客さんから「素朴な人たち」と言われた。
素朴な人、と言われてどう感じるだろう。人によっては褒め言葉にならないかもしれない。どちらかというと華やかさよりも静けさや地味さを感じられるから。
しかし私にとって「素朴」は、史上最高の褒め言葉だ。
お客さんとはたくさんのお話をした。旦那さんは外国人の方だったし、もともと視野が広くボーダレスな精神をお持ちなのだろう。次々と質問してくれるかたちで、密なコミュニケーションをとることができた。
そのうえで私たち夫婦のことを、素朴という言葉で表現してくれた。
もちろん素朴にかける個人的な想いなどは微塵も話していない。それでも私たちの生き方や在り方を見てそう感じてくれたのだとしたら、今自分が向かっている方向は間違っていないのだと教えてもらえた気がした。
なるべく飾らず自然体を大事に生きていたい。素朴でいたい。自分にとって素朴というのは、本質的であることとイコールだ。
例えるならば、派手なメイクで顔を綺麗に細工するのではなく、自分にフィットする化粧水で地肌を健やかに保ちすっぴんで過ごしたいという感じ。
お客さんとはもちろん初対面だったし、密なコミュニケーションをとれたと言っても一泊の滞在の少しの時間を共にしただけだ。それでも自身にとってピンポイントの褒め言葉をもらえたことで、本当の自分を十分に知ってもらえた気持ちになった。
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誰かを褒めるのは簡単なようでいて、実は難しいことだと思う。
きちんと相手のことを見ていないと、本質的な部分に触れた褒めを相手に提供できないと思うから。的外れに褒めたところで、お世辞かなと思われてしまうし。
そういう意味で、今回お客さんがくれた「素朴な人たち」という感想は心から喜ばしいものだった。
そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。