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外資系企業が日本での事業に参入する際に見落としがちなポイント

皆様、こんにちは。ゴールデンウィークはいかがお過ごしですか。米田 @ 今日から富士通2周目突入です。今回は日本市場への参入に関する記事です。

日本市場はよく世界の中でも特殊な市場であると言われます。日本市場はほんの20数年前までは今と比べても様々な規制があり外資が参入しにくい市場でした。しかし、規制緩和が進んだ現在でも外資参入時に日本独特の商慣習や日本人の性質に悩まされたり事業が失敗してしまうことが多くあります。今回の記事では、IT業界における話題を中心にこの特性を考察してみたいと思います。

外資参入は毎年行われているが…

経済産業省が毎年実施している「外資系企業動向調査」によると、外資系企業は約5,700社あり、新規参入は50~100社程度、撤退/外資解消は100~200社程度となっています。最近はどちらかというと撤退/解消数のほうが高いようですね。新規参入では欧米よりもアジア企業の参入が増えているようです。

先日、日本外国特派員協会 (FCCJ) で開かれたIT業界の交流イベントで「外資の墓場、日本市場へ参入する際の注意点」をテーマとするラウンドテーブルのパネリストを務めさせていただきました。

この場でも日本市場の特性に関して様々なことが話題に取り上げられました。その中からポイントになりそうなことを中心に書き出してみました。

ちなみに、下記の動画は4月15日に行われたラウンドテーブルの様子です。(※英語です)

こんな失敗がありました!

ラウンドテーブルは、「こんな失敗がありました!」という話から始まりました。例えば1993年当時、インターネットが流行る直前にインターネットプロバイダーの売り込みを日本企業にやるときに、日本企業の経営陣は判断が遅く既存の事例を探すなどして、新しいことをやるのになかなかビジネスが前に進まず1年半かけたのにビジネスにならなかったという経験談が他のパネリストからありました。

私自身も「日本で黎明期のクラウドビジネスを立ち上げた (Microsoft 365)」「クラウドプラットフォーム上にスタートアップを勧誘してエコシステムを作った (Microsoft Azure)」「日本に参入してきたスタートアップの中で働いた (Automation Anywhere)」という3つの異なる経験を元に過去を振り返りました。

たとえば、新しいクラウドビジネスを社内で始めようとした際、既存商品が売れなくなるからと自社内の営業からも反発をよく食らいました。まさに「イノベーションのジレンマ」を体感しました。

また、黎明期のクラウドはサービス停止などのトラブルも多く、サービス責任者としてよく客先に謝りに行ったり、その足で現場でのトラブル対応や待機をしたりすることもありました。日本のサービスはもっと品質が高いとか解決が早い、とよく顧客に比較されることもありました。

これらのことへの対応を間違っていれば日本市場では失敗していたのだと思いますが、当時の私は日本のチームと一緒にアメリカ本社に掛け合ったりしながら、地道にひとつずつ問題を解決して少しずつ信頼を得ていったことを覚えています。日本の中小企業への浸透も、パートナー企業と連携しながら進めていき、何回も失敗してはやり方を変えながら時間をかけてシェアを上げていきました。

日本でトップシェアを取っている外資の成功事例

一方、日本市場でも、多くの外資系企業がトップシェアを獲得している市場があります。代表的な企業を以下に挙げます。

スターバックス

日本における最大のコーヒーチェーンに登り詰め、いまや街中のどこにでもある印象のスターバックスですが、日本参入は1996年、2016年に店舗数で単独首位になるまで20年をかけています。製品やサービス内容はグローバルで同じだと思われがちですが、日本参入時は日本の会社 (サザビーリーグ)と合弁会社を組み、日本独自のマーケティングや商品開発を地道に行って来ました。

アマゾン

EC市場での日本市場での売上高は、トップではありませんがトップ3には入っています。また同社の収益源であるクラウドサービスを運営する子会社Amazon Web Services (AWS)は日本におけるクラウドプラットフォーム市場で首位です。

アマゾンは1998年に日本法人設立、2000年にオンライン書籍販売からスタート、近年では日本で12,000人を超える従業員が在籍するなど外資系企業としてはトップクラスの人数が在籍していると同時に、アマゾンプライムを日本向けにカスタマイズしたりヤマト運輸等と組んで新しい配送サービスをいち早く始めたりと、日本市場で優位に立つためのサービス開発の取り組みをパートナー企業も巻き込んで続けています。

マイクロソフト

古くはパソコンとその上で動くMS-BASIC、MS-DOS、そしてWindowsといったOSとその上で動くMicrosoft Officeなどのアプリケーション、最近だとMicrosoft 365などのクラウドサービスで日本でトップシェアを取っています。私も長く在籍していたので中から成長を見てきていますが、マイクロソフトは日本参入時にはアスキーやNECと密接に連携し、その後は日本に開発拠点を持って、大規模な営業チームと共に日本市場独自の対応を長年続けてきました

開発拠点が縮小された後も、日本の営業チームとアメリカ本社との密接な連携により、日本市場の要求を商品やサービスにいち早く反映させる仕組みを続けてきました。

アップル

Macintoshで古くから日本市場に参入はしていましたが、大きなシェアを得るには至っていませんでした。アップルの転機は何と言っても2008年にソフトバンクと組んで日本市場でiPhone 3Gに始まるiPhoneシリーズを大ヒットさせたことでしょう。日本市場では未だに他の国よりもiPhoneの人気が高いと言われています。

アップルに取ってはパートナー企業であるソフトバンクが果たした役割は大きかったはずです。2011年にauが、2013年にNTTドコモがiPhoneを販売するまでの間、ソフトバンクにとってはシェアを大きく上げるのにiPhoneが貢献しました。

成功事例では何をやっているのか?

どの成功企業にも共通して言えることは、日本市場に大きなリソースを投入したりパートナー企業の力を借りて、日本独自の事象にうまく対応していることです。日本市場への参入には、他の市場では必要なかった様々な対応が必要になります。これを自力で対応するか、代わりにやってくれるパートナー企業をうまく見つけて対応するか、いずれかの方法を取る必要が有ることがわかります。

外資参入時に失敗しがちなポイントのまとめ

外資系企業がアジア太平洋地域でビジネスを始める際によく取る手は、シンガポールなどにアジア本社を構えて、アジア各国には数人の従業員のみを置いてビジネスを行おうとすることです。しかし、日本参入時にこの戦法を取るとうまくいかない場合が多いのです。主な理由をいくつか挙げます。

  • 日本は狭い国土に同業者がたくさんいて手厚いサービスを施していて、顧客は業者からの高いレベルの施しに慣れているため、国内に従業員を置いてそれに対抗する必要がある。(契約書で低いサービスレベルに縛っていても要求される)

  • 英語を話せるビジネスパーソンが少なく、商談や商品の日本語化対応が必須のため。

  • 日本市場にコミットする姿勢が求められるため、きちんと日本法人を設立、日本に社長、営業、エンジニアを置き、サポートサービスも国内で日本語が話せる人間が行わないと信頼されない。

  • ハイコンテキストで懐に入ってのコミュニケーションが求められることがあり、海外からだと対応が難しい。

  • 顧客と親密な付き合いがあるSIerやディストリビューターが商品導入のカギを握っていることが多く (特に規制業種)、これらの業者は日本特有であることが多いため、日本市場で腰を据えたチャネル開拓が必要になる。

  • 日本の中小企業は事業拡大を目的としている割合が小さく、現状維持を標準に考えている。

  • 過去の自分の成功体験、他人の成功体験 (成功事例)にこだわる人の割合が高い。(現状維持、もしくは高度経済成長期の慣習?)

まだあると思いますが、少なくともこれらのことをクリアするためには、ある程度の規模の日本法人を設立して一通りの機能を揃えて、腰を据えた対応が必要になります。これらのいずれかでも怠ってしまうと、結局ビジネスが広がらずに数年後に日本市場から撤退ということに成りかねません。

また、急成長市場が指数関数的に伸びている場合は、競合他社に比べて市場参入時期が半年、1年遅れることは致命的です。早期の参入をためらって競合に後れを取ると、参入後にいくら投資をしても先行する競合に追いつけないといった事態が起こります。最近だとRPA業界やフードデリバリ業界でこのようなことが起こっています。その結果、日本から撤退した企業やジリ貧になっている企業もあります。

ビジネスにIFはないですが、いくつかの事例について後から考えると「適切な時期にしっかりと投資をして足場が固まるくらいのシェアを取る」ことの重要性を改めて思い知らされます。逆に、前述の成功事例はタイミングの良さはもちろんのこと、しっかりと必要な投資をやってきているのです。

最後に: 2年目の抱負

日本は少子高齢化、人口減少が進んでいる市場とは言え、まだまだ世界第三位のGDPを持っている巨大な市場です。最近、新卒面接を積極的に行っていますが、日本人の若者は英語ができる人も増え、感覚もだんだんグローバル化してきており、日本市場の将来をより魅力あるものに変えてくれるという期待を持つことが出来ると確信しています。

今日から日本企業である富士通での2年目が始まります。富士通自体は逆に日本企業であることを脱却してグローバル市場に如何に打って出られるか、と言う課題を抱えています。1年間、外資系企業とは違う文化に触れ、これぞザ・日本企業という特徴も含めて観察してきました。その知見も踏まえて、2年目は1年目で得たラーニングを元に、実践の年にして行きたいと思っています。それではまた!

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