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交流と発見を生む「道」について

この夏、故郷・北海道に1週間ほど里帰りしました。新型コロナの感染拡大以降、ちょっとした用事で短期滞在したことはあるのですが、これだけ長く帰ったのは久しぶりです。

1泊2日でニセコ・洞爺湖方面にドライブしました。写真は途中で立ち寄った余市町のワイン用ブドウ畑。空が広かった・・・。

片道100キロを超えるドライブをするうちに気がついたことがあります。都市部と地方を結ぶ道路が「荒れている」ことです。ひび割れ、穴、歩道との間に伸びている雑草・・・。時に「ちょっと危ないな」と思う箇所もありました。

かつて北海道の道路というと、かなりの田舎道でもしっかりと舗装され、車で走るのが非常に気持ち良かったものです。その一方で「過剰な公共事業」という指摘があり、「それほど交通量が多くないところまで完璧に整備する必要があるのか」という声も出ていました。

今回、経験したのはこうしたレベル以前の話で、幹線道路である国道ですら荒れているところがありました。おそらく、「普通の」公共事業に回るお金が減ってきているのでしょう。北海道のような車による移動・物流が欠かせないところでこのような状況が続けば、いずれ大きな影響が出かねないと思います。

新型コロナで在宅勤務が進み、一定の分野では場所を選ばずに居住するという選択もできるようになっています。今回、地方を回ってみると美しい自然と豊かな農産物といった魅力があり、消費文化に浸りきった東京とは全く違う魅力があることに改めて気がつきます。

東京と地方のどちらかが正しいとか優れているということではなく、市民が状況に応じて最善と思える選択をできるようにすること。そこに続く最低限の「道」を確保すること。このところ、日本は「自己責任」という妙な論理で「稼げない」ところは人間も地方も切り捨てるのが普通になっています。しかし、様々な人間の知恵と交流が社会の豊かさを作っていくはずで、そこを担保するものまで軽視してはいけないと思いました。

今回は「道」をテーマにした曲を聴いてみましょうか。パット・メセニー(g)のライブ・アルバム「ザ・ロード・トゥ・ユー」に表題曲が収録されています。

「ザ・ロード・トゥ・ユー」は1991年に行われたパット・メセニー・グループのヨーロッパツアーから選ばれたパフォーマンスを集めたもの。私も90年代の半ば、当時住んでいた名古屋で同グループの演奏を聴きましたが(一部のメンバーに入れ替えあり)、ともかくパワフルで「攻めた」内容だったのを覚えています。

このアルバムはスタジオ録音並みの演奏水準の高さと、激しいものからスローな曲までバランスよく配置されているのが特徴。この夏、お出かけできない方には「フェス気分」を味あわせてくれる内容と言っていいでしょう。

1991年、イタリアとフランスでのライブ録音。

Pat Metheny(g,g-synths) Lyle Mays(p,key) Steve Rodby(b)
Paul Wertico(ds,per)
Armando Marsal(per,timbales,congas,voice)
Pedro Aznar(voice,g,per,sax,steel ds,vibes,marimba,melodica)

①Have You Heard
冒頭を飾るにふさわしいナンバー。聴衆の大きな歓声と拍手の中で演奏がスッと始まるのが気持ちいい。この曲はそれほど派手なところはなく、メセニー・グループのスピード感とポップさが程よくブレンドされたものです。
ただ、よくよく聴くとメセニーの温かみのあるギター、ライル・メイズのキーボードとアコースティック・ピアノの重ね具合、ラテン・リズムの軽快さ、ペドロ・アズナールのボーカルと、このグループによる複雑な音の交錯にグイグイと引き寄せられていきます。テーマが終わった後のメセニーのギター・ソロはさり気ないですが、超絶技巧で予想もつかない方向に進んでいきます。最初はどちらかというと低音部を使ってグルーブを生み出し、次第に音域が幅広くなっていきます。それが単なる音の並びにならず、常に「歌」を感じさせるところにメセニーの魅力があります。この「フレーズが溢れて止まらん」というソロのためだけでも一聴の価値ありです。

③The Road To You
メセニーのアコースティック・ギターによるバラード。生ギターとなるとメセニーからはカントリーに通じる大らかな響きが出てきます。始まりはギターのみ。やがてキーボードが薄くバックをつけますが、基本はギターが訥々とテーマを弾きます。はるか遠方にいる大切な人に思いを伝えるかのような優しい演奏。ソロに入っても淡々とした流れは変わらず、一音一音を丁寧に紡ぎ出します。静かな演奏からは北海道の広大な大地に伸びる、夕方の一本道がイメージできます。それぐらい、ストレートで広がりがあり、道の先にいる相手への思いやりすら感じさせてくれるプレイです。

⑩Third Wind
このグループのダイナミズムが集約されたナンバー。パーカッションを大胆に取り入れたラテン・リズムに乗ってボーカルとギターのユニゾンでテーマが提示されます。リズムと伸びのある旋律が絡まり合って、別次元の世界に誘い込まれるような感覚を覚えます。リズムがブレイクしたところでメセニーのギター・ソロが「切り込んで」きます。硬質なエレクトリック・ギターが細かなフレーズを次々に重ね、ラテン・リズムと共に祝祭的な空気を作り出していきます。特に3分前後の壮絶なフレーズのうねり具合は大変な迫力です。ここでキーボードとボーカル、パーカッションによる民族音楽を思わせる展開が入り、リズムの奔流を経てメセニーのギター・シンセとボーカルのユニゾンへと移ります。この辺りはジャンル不明のオーケストラを聴いているかのようです。やがてメセニーのギター・シンセ・ソロとなりますが、ここは渦を巻くようなお得意のフレーズで盛り上げ、そのままエンディングになだれ込みます。この当時のグループの頂点を極めた演奏の一つと言っていいでしょう。

パット・メセニー・グループのこの時のツアー、おそらくは多くの機材と共にヨーロッパの道を大移動したのでしょうね。遠路はるばるやって来たメセニーに聴衆が熱狂している様子からは「出会いの歓び」という人間の根源的なものを感じ取ることができます。

3年ぶりに行動制限がない今年の夏。感染症とのお付き合いはまだしばらく続きそうですが、対策をしっかりしつつ交流と発見を生み出す「道」を進む機会が増えていくことを望みます。

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