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インドカリーで男女の機微、噛みしめる

毎週土曜に食品スーパーで買う定番に、
レトルトの「新宿中村屋 インドカリー」と
「金沢カレー チャンピオンカレー」がある。
永年の安心感と安定感があるブランドだ。

ところで、新宿中村屋さんの創業者、
相馬黒光さんを主人公にした小説、
葉室麟氏の「蝶のゆくえ」(集英社文庫)を
今日読了した。

と言っても本書は
中村屋創設を描いたものではなく、
江戸末期から明治にかけての
文豪や芸術家たちの男女の情愛、
その愛憎と愛惜を
明治女学校の女学生であった
黒光(星りょう)の視点を通じて
描いたもの。

登場人物はさしずめ
オールスターキャスト。
島崎藤村、国木田独歩、
北村透谷、樋口一葉、
そして勝海舟。

そして中村屋が美術家や文学者の
出入りするサロンとなっていたことから
縁を結ぶ荻原碌山、
その友人の高村光太郎も登場。

物語を通じて、当時の詩歌、小説、
彫刻といった芸術の完成する時代背景と、
男女の恋愛、情愛を巧みに絡ませて描く。

主人公の星りょうは、明治女学校等で
垣間見た男女の複雑な群像を反面教師とし
男女の仲では頑なな生き方を選ぶ。
そして時代を切り拓く逞しさがあり、
夫、愛蔵と共に新宿の中村屋を引き継ぐ。

江戸の世から、明治維新、文明開化。
それと共に、男女の恋愛も
禁断の雰囲気が薄れ
自由な気風の世情が流れ出す。

ところで、新宿中村屋の「インドカリー」。
大正になって、りょうの長女の俊子と結婚した
インド人革命家のボースの意見で
メニューに加えたという。

「俊子が亡くなっても
ボースと中村屋の関係は切れなかった。
中村屋はボースの提案により
喫茶部で「インドカリー」を売り出した。
名物になった「インドカリー」は
恋と革命の味、などと言われた。」

僕らが生まれる前の当時に思いを馳せる。
江戸時代から現代へと移りゆくとき、
我が国の未来への礎を支えた人たちがいた。

彼らも人間、恋に陥る。
ゆえもなく、結ばれる人とは結ばれる。
いつの時代も、人と人。心と心。
情愛のもつれや成り行きはある。
だけど、宿世、縁は決まっている。

この日曜、そんなふうに
レトルトの「インドカリー」の
スパイシーなかおりと共に、
近代史の、恋と革命の味を噛みしめた。

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