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ポール・オースターの『リヴァイアサン』に召喚獣は出てきませんが、ソフィ・カルは出てきます。

Leviathan


リヴァイアサン』(Leviathan)は、ポール・オースターが1992年にリリースした8冊目の長編小説です。


 私の場合、タイトルになっている "リヴァイアサン" といえば、ゲーム:ファイナルファンタジーでの召喚獣を思い浮かべてしまう世代なんです。

 ただ、タイトルは『リヴァイアサン』でも、残念ながら、この本は、召喚獣の出てくるファンタジーではありませんのでご注意ください。(当たり前だろ!)

 ということで、今回は、自分の大好きな作家:ポール・オースターの『リヴァイアサン』に関する "note" なのです。


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 そもそも、なんで『リヴァイアサン』ってタイトルが付けられてるのかってことなんですが、このタイトルは、清教徒ピューリタン革命の時代の哲学者 "トマス・ホッブズ" が著した政治哲学書の名前から採られているということです。

 …なんか難しそうなんですが、、、
 その昔、"トマス・ホッブズ" が近代国家のあり方を提唱し、その国家の大きな力を、海中の聖獣である "リヴァイアサン" に例えたもので、オースターのこの本でも、同意の感じなのです。


 ちなみに内容の方はというと、amazonでの紹介はこんな感じです。

 一人の男が道端で爆死した。
 男が、米各地の自由の女神像を狙い続けた自由の怪人(ファントム・オブ・リバティ)であることに、私は気付いた。
 彼はいったい何に絶望し、なぜテロリストになったのか。

 物語の冒頭に、爆死する男が出てくるのですが、この男は、各地にある "自由の女神像" のレプリカを爆破しているテロリストらしいのです。
 その事情を知る作家のピーター・エアロンが、その男がいかにテロリスト?になっていったのかを語っていくのが、この物語の基本的な構造です。


 紹介文だけ読むと、けっこうハードな内容に思われるかもしれませんが、実は、読んでみると、全然、そんな感じじゃないんですよね。
 逆に、”国家に反するテロリストを描いた小説” と思って読むと拍子抜けしちゃうかもしれません。

 『リヴァイアサン』というタイトルが付けられているものの、対 "国家" や "テロ" の部分は、ほんと薄味なんです。
 オースターのいつもの小説のように、個性的な人物が登場しては、そのエピソードが語られ、それらのエピソードがつながりながら進んでいく不思議な物語なので、あまり構え過ぎず、読んでいける物語なのです。


 この『リヴァイアサン』で印象的なのは、人同士の出会いによって、いろんな出来事が生まれ、つながっていくとこなんですよね。
 例えば、物語中で、語り役のピーターは2度目の結婚をしていきます。
 ただ、今の ”結婚” は、前に "離婚" の決断が無ければ生まれないわけで、たどっていくと、最初の結婚相手と出会わなかったら、今の相手とも出会わなかったということにもなりますよね。
 自分たちにしても、これまで、様々な出会いがあって、影響し合いながら今の自分がいるわけで、オースターの『リヴァイアサン』は、そういう "つながり" を感じながら自分について考えさせてくれる本なのです。


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 この本で、印象的な登場人物の一人に、マリア・ターナーという女性がいます。
 このマリアは、個人的で奇妙な ”プロジェクト” を行っている風変わりな女性として描かれているんですが、この ”プロジェクト” というのがなかなか興味深いのです。

・ある人物を尾行し記録する。
・探偵に自分を尾行させ記録させる。
・拾ったアドレス帳の人物に会いに行きインタビューを行う。等々

 実は、このマリア・ターナーのモデルとなったのはソフィ・カルというフランスの現代アーティストで、物語中で言及されるマリアの ”プロジェクト” の多くは、実際、ソフィ・カルが行った ”プロジェクト” でもあるのです。

 ソフィ・カルについては、いつも楽しく読ませてもらっている "artoday-chiaki" さんも記事にしてくれてるので、ぜひ、ご覧ください。


 ソフィ・カルが行った初期の ”プロジェクト” に面識のない行きずりの相手を尾行する、いわゆる「理由なき尾行」ってのがあるのですが、これがけっこう強烈な ”プロジェクト” なんですよね。

 この「理由なき尾行」については、『本当の話』という作品集?記録集?も出版されているのですが、読んでみるとかなり気持ち悪い!!w
 でもですね、読んでると尾行する相手のことよりも、尾行してるソフィ自身に作用していく部分が感じられて、なんか面白いんですよね。
 ちょっと禁断の領域って感じなのです。

 手に入りにくい本なのですが、ちょっと大きめの図書館には所蔵されてると思いますので、興味のある方は、ぜひ、こちらもです!


 ちなみに、この尾行や観察は、ポール・オースターの初期作品『ニューヨーク三部作』でも中心となっていたモチーフで、おそらく、同時発生的に似たようなテーマを扱っているソフィ・カルに興味を覚えて、自分の作品に登場させたんじゃないかと思うんですよね。

→ ソフィ・カルを自分(オースター)の物語の一部に..

 そして、この『リヴァイアサン』の発表後、今度はソフィ・カルが、『リヴァイアサン』のマリア・ターナーを題材にした作品『ダブル・ゲーム』を発表するんです。


ポール・オースターの物語を自分(ソフィ)の作品の一部へ..

 なんか、頭の中がこんがらがりそうですが、この辺りの関係のし合い方がとても面白いんですよね~。



 ポール・オースターの『リヴァイアサン』では、一人の男がテロリストとなっていく様子を描いたものではあるんですが、ソフィ・カルの影が挿入されていることからも、そこには人のアイデンティティーに、他の人との出会いや出来事が、いかに作用しているかを浮き彫りにする作品になっています。
    そういう意味では『ニューヨーク三部作』と地続きな作品だともいえるんでしょうね。


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 追記…

 ソフィ・カルの『本当の話』での「理由なき尾行」をモチーフに、小池真理子さんが『二重生活』という本をリリースしています。(映画化もされています。)


 


(P・オースター関係note)

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