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あの頃 "「障害」のある人" たちについて考えさせられた本たち


 最近、シヴォーン・ダウドという作家さんが遺した『ロンドン・アイの謎』というジュブナイルミステリーを読んだんです。
 ジュブナイルではあるけれど、謎解きが面白いミステリーでした。
 探偵役となる主人公は、"シンドローム"(おそらく「自閉スペクトラム症」)を持った「少し変わった少年」として描かれているのですが、大人(家族を含む)たちの不理解を越えて活躍してくれる清々しい本なのです。

著者は早逝してしまったのですが、残されたプロットを基にした続編も刊行されています。


 ただ、こういう "「障害」のある人" が出てくる物語に出会うと、以前は身構える自分がいたりしたんです。
 物語を読んでるうちに、どっか、自分が「健常者」だからこその視点に陥ってないか… ということが不安になるのです。

 そんな時に、いつも思い出していたのが

【彼らが置かれた特殊な状況が、じつは「人間が置かれた普遍的な条件」を拡大して見せている】

 という、"「障害」のある人" が出てくる本の書評の一説です。
 自分が20代の頃に読んだ本のあとがきに書かれてたものなんですが、この一説は、自分が歳を重ねる中で、かなり熟成されてきた感じです。
 "「障害」のある人" が出てくる本やドラマなんかでも抵抗感なく楽しめるようになってきました。

 昨年末に話題になったドラマ『silent』(実は先日一気に観ました!)では "「聴覚障害」のある人物" を中心としたものです。
 ドラマでは「聴覚障害」のある人とない人の間の "壁" が描かれてたりするんですが、「障害」の有無に関わらず、人と人の間には何かしらの "壁" は普遍的に存在するわけで、そこを "拡大" しているわけなんですよね。
 だからこそ、その "壁" に悩む二人に共感できるし、乗り越えていく二人を応援したくなるんだと思うんです。
(静謐な会話の様子に引き込まれるドラマでした。)


 ということで、今回は、私が20代の頃、 "「障害」のある人" について考えさせられた3冊の本(小説2+ノンフィクション1」)について "note" していこうと思います。


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◎「大聖堂」レイモンド・カーヴァー

 最初の1冊は、現代アメリカ文学の作家の一人、レイモンド・カーヴァーの「大聖堂」です。

 カーヴァーは村上春樹さんの翻訳で知られていますが、短編中心の作家さんです。
 大好きな本なんで、以前、記事にもさせてもらいました。

 この本の表題作となっている『大聖堂』という中編に、盲目の黒人男性が出てくるのですが、ちょっと偏見を持っていた主人公とのやり取りがいいんですよね~。
 決してドラマチックな展開があるわけではないんですが、ファンタジーが生まれるんです。
  "「障害」のある人" が登場するドラマや映画を回避しがちだった自分の感覚も変えてくれた本でした。



◎「残像」ジョン・ヴァーリー

 2冊目はSF小説から..
 70年代に活躍したSF小説家の一人、ジョン・ヴァーリーの短編集「残像」の中の表題作『残像』です。

 有名作なんで読んでみたわけなんですが、『残像』は自分にとってけっこうショッキングな物語でした。

 話としては、"眼と耳の不自由な者" たちによって作られた共同体コミューンと出会った主人公が、そこで生活する中で変容していく様子が描かれているのです。

 この "眼と耳の不自由な者" たちの共同体コミューンでは、ハンドトークやボディトークなど、独自のコミュニケーションが発達しているわけなんですが、そこら辺の描写がすごいんですよね。
 正直、SFなのか?と、思う部分もあって、自分が何を読まされているのか分からなくなっていくんですが、ここにはコミュニケーションや愛といった普遍的テーマが描かれているのです。

 残念ながら、短篇集「残像」の方は絶版になっているのですが、短編『残像』の方は、「逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作集」という短編集に収録されています。



◎「火星の人類学者」オリヴァー・サックス

 3冊目は、実は小説ではありません。
 脳神経科医:オリヴァー・サックス博士による医療ノンフィクションなのです。
 オリヴァー・サックス博士はたくさんの著書がありますが、「火星の人類学者」は博士が1995年にリリースし、全米ベストセラーとなった本です。
(1990年に、ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズの共演が話題となった「レナードの朝」という映画があったのですが、この映画の原案となった実話も、オリヴァー・サックス博士の著したものです。)

 内容としては、"すべてが白黒に見える全色盲に陥った画家"、"激しいチックを起こすトゥレット症候群の外科医"、"「わたしは火星の人類学者のようだ」と漏らす自閉症の動物学者" など、サックス博士が実際に出会った7人の患者についてのドキュメントで構成されています。
 ノンフィクションなんですが、どの話も小説タッチで描かれていて、興味深いし、驚きがあるし、心が揺さぶられるんです。

 読んだのは20代の終わりでしたが、それからも何度か読んでいて、読むたびにいろんなことを考えさせてくれる本なのです。(なんと、序文にはブラウン神父の言葉も引用されています!)

 記事の冒頭に書いた【彼らが置かれた特殊な状況が、じつは「人間が置かれた普遍的な条件」を拡大して見せている】という言葉は、この本に対する書評の一説なのです。

 

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 現代では「多様性」が語られるようになりましたが、20代の頃に読んだこの3冊の本は、私の「多様性」に対する感覚のベースになっているのは間違いないです。
 まだまだ不完全ではありますが、その感覚を大事にしようとすることが、私の多様性でもあるのかなって思うのです。


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