911と真珠湾攻撃

米国建国以来最大の惨劇として記憶されている同時多発テロ事件から20年が経過した。

国際組織「アルカイーダ」のウサーマ・ビン・ラーディンが首謀し、旅客機の操縦訓練を積んだハイジャック犯によって民間航空機4機が乗っ取られ、2機がニューヨークの象徴「世界貿易センタービル」2棟にそれぞれ激突、1機は「ペンタゴン」(米国防総省)に墜落、1機は首都ワシントンに進路を向けていた途上で墜落し、3000名近くの犠牲者を出した。

当時のブッシュ大統領はテロを受け間を置かず、「アルカイーダ」の拠点となっていたアフガニスタンに侵攻を開始し、3ヶ月足らずで当時のタリバン政権を崩壊させた。

しかし、20年の節目を迎える今年、バイデン政権はアフガニスタンから米軍を完全撤退させることを発表し、それに乗じたかつてのタリバンが復権し、8月には政権に返り咲いた。

米国史上最長の戦争はアフガニスタンをさらなる混沌に陥らせる形で終焉を迎えようとしている。

このテロ事件から遡ることさらに60年。大日本帝国が米軍最大の軍事拠点であったハワイ・真珠湾を奇襲攻撃し、太平洋戦争が始まった。

宣戦布告をせず、だまし討ちともとれる真珠湾攻撃は当時第二次世界大戦への参戦に消極的だった米国民の戦意を最大限に引き出した。

この米国を標的とした2つの事件には、共通点がいくつかある。

(1)宣戦布告がされないままの攻撃であったこと(アルカイーダは国ではない)

(2)のちに勃発する戦争の引き金となったこと

(3)事前に予見されていたとされている(真偽は不明)

(1)については、多くの人が知る共通点。

とりわけ真珠湾攻撃は、当時の米国の軍事力・工業生産力を知り尽くしており、最後まで米国との戦争を避けるよう主張していた山本五十六が発案・指揮した。

山本は米国との全面戦争に突入すれば、日本は早期に敗戦を喫することを予見していた。

しかし、軍部中枢は8割を米国から頼っていた石油の禁輸措置を図られ、石油確保が当時泥沼化の様相を呈していた日中戦争の戦局打開の至上命題としていた。

加えて、石油資源が豊富存在する南方のフィリピンを実効支配していたのは米国で、石油確保のために米国との戦争は避けられないとする意見が大勢を占めていた。

そこで、山本は宣戦布告なしに米国最大の軍事拠点である真珠湾を徹底的に攻撃することで米国側の戦意・戦闘力を極限まで削ぎ、早期の和平交渉に持ち込もうと企んだ。

結果的に奇襲は成功した。

この奇襲成功の裏には9ヶ月前に領事官を騙り真珠湾入りしていた日本人スパイの存在がある。

その諜報員は多くの艦船や航空機が停泊・駐留する真珠湾を綿密に偵察し、その情報を日本側に電信していた。

そのなかで、日曜日の朝には必ず艦船・航空機が一同に会するという決定的な情報を掴んだ。

この情報が一時米軍を機能不全に陥らせるほどの打撃を与えることになる。

(2)についてはもはや語るまでもない。

(3)について。

911以前、ある政府高官より「ニューヨークの世界貿易センタービルが標的に攻撃が行われる可能性」との情報がもたらされいたことが分かっている(『ターニング・ポイント:9・11と対テロ戦争』/Netflix)。

また、「アルカイーダ」は世界各地で無差別テロを実行していたし、911の6年前には世界貿易センタービルの地下駐車場で自爆テロが発生していた。

それだけでなく、各地でテロを起こしていた「アルカイーダ」のメンバーが航空学校のビザを取得して飛行訓練を行っていた情報も当局が掴んでいた。

これだけの予兆がありながらも「アルカイーダ」の凶行を防ぐことはできなかった。

ただ、これはCIAやFBI、NSAには日々安全保障に関わる情報が寄せられ、拾得されていることもあり、些末な脅威として処理されていたのも致し方ないと考えられる。

真珠湾攻撃については、1941年11月に政府高官と対談した際、ルーズベルト大統領が「いかにして、日本からの先制攻撃を誘導できるか」と発言していることが記録されている。

また、開戦前よりFBIは日本の暗号を解読し始めていたとのことで、日本人諜報員がスパイとして真珠湾で活動していることも察知しており、マークしていたとされる。

さらに、真珠湾攻撃時、今後の戦争の主役と目されていた米空母4隻すべてが攻撃を免れていたのが果たして単なる偶然だったのか疑問符がつくところ。

実際、爆撃機を艦載する空母の機動力がその後の戦局を大きく変えたことは歴史が証明している。

いずれにせよ、ルーズベルト大統領にとって真珠湾攻撃がこの上ない参戦の口実となったことは間違いない。

戦争が人々の極限の恐怖心を植え付け、相手の命を奪うことへの躊躇いを取り払ってしまう暴力装置であることは、太平洋戦争やアフガン戦争を見ても明らかだ。

憎しみが新たなる憎しみを生み、「イスラム国」のような新たなテロ組織や脅威が蔓延る結果となっている。

これは、アメリカが正義であるといううぬぼれに陥った結果、イスラム社会を分断し、これまで生じなかった溝が作られていることにほかならない。

米国史上に残る悲劇を繰り返さないためにはテロリズムに向ける怒りや報復だけでは不十分だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?