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永劫館超連続殺人事件〜魔女はXと死ぬことにした(レビュー/読書感想文)

永劫館超連続殺人事件〜魔女はXと死ぬことにした(南海遊)
を読みました。
新刊です。初読みの作家さん。

『館』x『密室』x『タイムループ』の三重奏(トリプル)本格ミステリ。
「私の目を、最後まで見つめていて」
そう告げた『道連れの魔女』リリィがヒースクリフの瞳を見ながら絶命すると、二人は1日前に戻っていた。
母の危篤を知った没落貴族ブラッドベリ家の長男・ヒースクリフは、3年ぶりに生家・永劫館(えいごうかん)に急ぎ帰るが母の死に目には会えず、葬儀と遺言状の公開を取り仕切ることとなった。
葬儀の参加者は11名。ヒースクリフ、最愛の妹、叔父、従兄弟、執事長、料理人、メイド、牧師、母の親友、名探偵、そして魔女。
大嵐により陸の孤島(クローズド・サークル)と化した永劫館で起こる、最愛の妹の密室殺人と魔女の連続殺人。そして魔女の『死に戻り』で繰り返されるこの超連続殺人事件の謎と真犯人を、ヒースクリフは解き明かすことができるのか──

星海社「永劫館超連続殺人事件」紹介ページより(上記リンク)

中世ヨーロッパ風の世界を舞台にしたミステリーなのですが、ひとつ強烈な特殊設定が持ち込まれることで異彩を放ちます。

「死に戻り」という魔女の能力です。魔女は絶命すると24時間前の世界に記憶を引き継いで戻ります。更にこの能力は「道連れ」効果が備わっており、魔女が絶命する前、最後に両目で見つめ合った相手を一緒に24時間前の世界に連れて行くというものです。道連れにされた者も魔女同様に記憶を引き継ぎます。

密室殺人のトリックはオーソドックスながら捻りも効かせていて面白いと思いました。あまり言うとネタバレになりますが特殊設定もトリックの解明に絡んできます。そして、最後に明かされる意外な犯人も必見!

本作は、一種のタイムリープものですね。死んでは過去に戻るを繰り返してどうすれば妹の死という望まない事態を回避できるか、語り手であるヒースクリフは魔女リリィと共に試行錯誤します。

ミステリーでタイムリープものというとすぐにいくつか頭に浮かびますが、まず、西澤保彦さんの「七回死んだ男」は有名ですよね。あれは1995年の作品ですから改めて作者の先見性にうならされます。それと、狭義のミステリーにはあたらないのでしょうが、高畑京一郎さんの「タイム・リープ〜あしたはきのう」は1996年刊行。古くて新しいテーマと言えそうです。

ところで、タイムリープものって私の狭い認識ですが、アニメとかで今また流行ってるのでしょうか。細かい定義がわからないので平たい言葉に変換しますと、「繰り返す物語」がちらほら目に付く印象があります。

少し遡れば、「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」はまさにそういう作風ですし、仮に作品の最大焦点が「謎解き」になかったとしても、「魔法少女まどか☆マギカ」や「エヴァンゲリオン」も新劇場版まで含めると「繰り返す物語」です。私が知らないだけできっと他にもたくさんあるのでしょう。

なんとなく想像ですが、ゲーム的な発想から生まれているのかなと思ったりします。いわゆるコンティニューを繰り返して最善のルートを探るわけですよね。このゲーム的な行為自体が物語に落とし込まれているものと理解します。

「繰り返す物語」が仮にある時からひとつの流行になっているとして、それらを生み出すクリエーターにどんな潜在意識や社会的バイアスが働いているのか(今となっては商業的な発想から…つまり売れているジャンルだからと物語を構想する人もいるのでしょうが)、きっと社会学的な見地から読み解くような評論も既にあるのでしょうね。

異世界ものの流行とも根幹は共通するのかもしれませんが、現実がつらいから異世界に憧れるとか、今がつらいから過去をやり直したいと思う人が現代社会では少なくないのかもしれません。センシティブな話題ですし、表層だけを見て論じることには限界がありますので、ここではこれ以上述べられません。

ということで、後半は、本作と無関係な記述が多くなってしまいましたが、たまにはこういうレビューも良いだろうと思い、このままにします。

「永劫館超連続殺人事件」は普段あまりミステリーを読み慣れていない人にもオススメです。読みやすくて面白いですよ。


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