見出し画像

さよならドビュッシー(レビュー/読書感想文)

 さよならドビュッシー(中山七里)
 を読みました。2011年の作。

 祖父と従姉妹とともに火事に遭い、全身大火傷の大怪我を負いながらも、ピアニストになることを誓う遥。コンクール優勝を目指して猛レッスンに励むが、不吉な出来事が次々と起こり、ついに殺人事件まで発生する……。ドビュッシーの調べも美しい、第8回『このミス』大賞・大賞受賞作。

宝島社「さよならドビュッシー」紹介ページより

 中山七里さんのデビュー作です。中山七里さんの作品はいくつか読んでいますが、本作に関しては、
・氏のデビュー作であるということ
 それと、
・岬洋介という人物がいわゆる探偵役であるシリーズの第一作
 ということだけを予備知識に私は読み始めました。

 とても面白くて一気読みでした。先が気になって仕方がない。そんな読書体験でした。

 実は、本作のことを尚更そのように感じた個人的な事情が今回はあります。読書前、私が持っていた予備知識は上記のとおりですが、本当にそれだけで、たまたま「あらすじ」を一切読まずにページを繰り始めたのです。指名買いだったので書店で手に取ったときもレジに直行。会計後、即ブックカバーを付けてもらっていたため裏表紙に記載されているあらすじも目にしないままでした。そして、ネットであらかじめレビュー等をチェックすることもなく。

 ですから、物語冒頭で語り手が全身火傷にあい、意思疎通もままならないとなったときは、「え、こんな話だったの? これから一体どうなるの?」と一気に作中世界に引き込まれてしまいました。その展開は上記引用のとおりあらすじ紹介に書かれているんですけどね――。

 ここから得られた教訓です。事前の情報収集というものは効率的な買い物に欠かせない現代人の知恵ですが、それも良し悪しだということです。私は何も知らなかったからこそ物語を純粋に楽しめたのですから。これには少し考えさせられました。だって小説なら買う前にあらすじくらいは見ますよね。というか見てしまいます。

 閑話休題。

 改めまして、「さよならドビュッシー」の内容紹介ですが、巻末の大森望さんの解説のタイトルが以下です。

 音楽・スポ根・ミステリのハイブリッド

 さすがプロの評論家さんです。まさに言い得て妙です。特に、スポ根というワードですよね。感覚ではわかっていてもなかなかミステリ小説にこの修辞は思いつきません。

 でも、確かにそのとおりで、読書中、個人的にはジャンプ漫画の連載を読んでいるような感覚に陥っていました。

 努力・友情・勝利

 ジャンプ漫画のスローガンがだいたい入っていたような気がします(本当?)。嫌がらせをしてくるクラスメイトや、鼻持ちならないライバルも登場します。そして、過酷な運命に懸命にあらがうヒロインの姿に読者は心を打たれるわけです。

 加えて、本作はクラシック音楽――ピアノがテーマでもありますが、音と演奏の描写が秀逸です。どうしたらこんなふうな表現が思いつくのでしょう。中山さんの作品には音楽関係者がよく登場しますので、もしかしたら作者自身も少なからずその業界に関わりをお持ちなのかもしれません。が、音楽関係者が誰しも演奏や音を文章で表現出来るかというとそうではないでしょう。本作でも、ピアノの演奏シーンが幾度もありますが、まるで自分がその場で登場人物の演奏を目にしている聞いているかのような錯覚に陥るほどです。その巧みで胸を打つ表現には圧倒されます。

 最後に。本作は、中山七里さんの作品です。中山さんが何と呼ばれているか。それこそネットで調べればすぐに答えがありますが、「どんでん返しの帝王」です。本作の読書中も最後まで油断されませんよう。あっと驚かされる結末が待っています。


#読書感想文
#推理小説
#本格ミステリ
#ミステリー
#中山七里


 

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?