プリファードエンド①

1 タイムトラベル

真実

「3年3組の仲本京ナカモトケイ君、至急職員室まで来てください。」
18歳の誕生日、放課後急に呼び出される。何かやらしたわけでは無いと思うが、何だろうと思いながら職員室に向かった。
「失礼しまーす。」
職員室のドアを開ける。そこには、担任と知らないおじさんが居た。誰だろうと思っていたら、担任に奥の応接室に行くよう指示された。
応接室に行くとなぜか担任は入ってこないで、僕とおじさんが向かい合って座った。
「初めまして、仲本君。私は、次世代技術研究開発所という組織で博士をしている、竹中史郎タケナカシロウという者だ。」
「はぁ…」
「突然で、申し訳ないのだが君にはうちで行っているプロジェクトの乗組員になって欲しいのだ。というよりも、座席を買って欲しいのだ。」
「え、話が急すぎて何を言っているのか全く分かりません。」
「それもそのはずだろう。今からいう話は本当に信じられないかもしれないが、全て事実であり、僕からの提案はあくまでも提案である。君がどうするかは君の意思で自由に決めて欲しい。もちろん、断わってもらって構わない。」
「なんですか、兎に角話を聞きましょう。その信じられないという話を。」
「そうだね。君はお父さんの名前を知っているか?」
「はい。母から教えてもらった名前は正晴まさはると言っていました。正直、字が合っているか自信ないですが。というのも父が亡くなったのは2歳の時で殆ど記憶にありません。研究熱心で家にもあまり帰ってこなかったそうなので思い出と言えるものも映像も殆ど残っていませんし…」
「ああ、そうだ。正晴は研究熱心だった。ところで、君の父親がこの世に残した最も偉大な研究論文は何か知っているかな。」
「そんなもの知るわけありません。何の研究者だったのかすら知りませんし。」
「そうか何も知らないのか。では教えてあげるけど、彼は仮想通貨の生みの親なのだよ。」
「仮想通貨の生みの親?」
「そう。インターネット上に投稿した匿名の論文。それが彼の残した最も偉大な論文さ。彼が34歳の時のだよ。」
「さんじゅうよん…三十四…サトシ…」
「そう。そして彼の持つ仮想通貨の時価総額は約3兆円。」
「は?」
「そしてそれは、誰にも手出し出来ないことになっている。けれども、紛れもない彼の資産であり、相続人はこの世で君だけだ。」
「は?」
「けれども、その仮想通貨は今のところ誰もアクセスできない。君のお母さんも手は付けれなかった。まぁ、手を付けなくても十分なほど彼女も仮想通貨を持っていたみたいだけどね。」
「はぁ?じゃあ、僕は3兆円もらえるけれどもそれは使えない、絵に描いた餅のようなものってことですか?」
「いや、そうじゃない。君には使えるんだ。正確には、君の協力があればアクセスできるかもしれないということ。彼は自身の遺伝子コードをアクセスキーに指定しているんだ。つまり、彼の息子である君の遺伝子コードがアクセスキーのヒントになるってこと。君の遺伝子コードを提供してくれればおそらくアクセスキーを解読することは可能だと思う。」
「え、本当ですか。じゃあ、え、マジで?どうするのそれ。」
「そして、これから本題になるんだけど…」
「まだ、本題じゃなかったのかよ。あ、プロジェクトの乗組員が何とかって話か。」
「そう。そのプロジェクトっていうのは、そうだなぁ簡単に言うとタイムトラベル何だよね。」
「タイムトラベル?」
「そうさ。君は天応大学工学部進学予定だったよね。それじゃ、相対性理論の大まかな話は分かるよね。端的に言えば、超高速で移動すれば時間がゆっくり進むようになるってことなんだ。」
「まぁ、そうらしいですね。そんな話になるらしいですね。ただ、そんな超高速で移動するものが日本に在るんですか?リニアだって未だに一部開通出来ていないのに。」
「あるんだ。使われなくなった加速器を撤去して設置された。地球上で最も早い乗り物がある。」
「そんなモノがあるんですか。設置されたってことは既に完成済み?この国にそんな研究予算があるとは思えないけどなぁ。」
「まぁそこは色々あってね。度々公金が消えるでしょ、この国は。それ大体はこのプロジェクトに来ているから。」
「え…」
「ま、そういんもんさ。」
「それで、どうしたら僕がその…タイムトラベル?に参加する流れになるんですか?」
「正式にはDループプロジェクトだ。参加資格があるのは座席の価格を支払えるもの。1席例外があるけれど、価格は1席1兆円からなんだ。けれど、パーソナライズドプライシングで変更される事になっていて、総資産の10%を上乗せで払ってもらう事になる。まぁ累進課税制度みたいなものだよ。」
「じゃあ、俺は3兆円あるから1兆3千億円?」
「いや、支払ったあとの10%だから1兆2千億円だよ。」
「そうですか。でも1兆円なら払えるお金持ちが世界に結構いるのではないですか?」
「結構いる。あとから揉めたくないから既に各国のフィクサーに販売情報を通達しているけれど、総資産の10%ってのがお金持ちほど損をする仕組みだから結構揉めてるらしい。それに資産家であっても権利がぐちゃぐちゃになってたりする人もいるからね。その点君はめちゃくちゃスッキリしているよ。」
「はは…」
乾いた笑いが出たあとに、言葉は何も出なかった。自分の父が仮想通貨の生みの親?そんなこと母は教えてくれなかった。というよりも、母も知らなかったのかもしれない。急に現れた竹中と名乗る自称父の旧友は、とんでもない話をしてとんでもないモノを営業してきた。兎に角時間が必要だった。話を整理するための時間が。
「兎に角、今そのプロジェクトへの参加するかどうか決めることはできません。状況を整理する時間をください。」
「もちろん。それに君の遺伝子コードを用いてアクセスキーを復元できるかどうか試すのが最初だよ。それができなかったら、座席の話も何も無いからね。」
「ええ、そうですね。それが最初です。僕はまだ莫大な資産家というわけではなく唯の高校生ですから。」
「ははっ。」
愛想笑いなのか何なのか分からないけど、唯の高校生という表現したことを笑われた。そんな感じで説明が終わると、後日連絡するからと電話番号とメールアドレスを交換した。最後にこのことは内密にと言われた。応接室を出ると担任に「大学に行かず一気に研究所に入ってもお前ならやって行けると思うぞ!」と訳の分からない励ましを受けた。どうやら外にはそういう話になっているらしい。


一人暮らしの実家に帰って、記憶にない父の写真を探し回ったが全く見当たらなかった。酷く疲れたので冷凍食品で夕飯を済ませてすぐに眠った。そういえば、誕生日だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?