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〜最終回〜 短編小説 BGMに寄り添われて(3)

 (4600字程度)


 はっきりとした恋心があった訳ではなかったが、彼女とは話も合ったし、どこか惹かれるところがあった。彼女の方でもそうだったのだと思う。
 しかしいざ、好きです、と言われると、途端にどうしていいか分からなくなった。
 こちらとしても好きではあったし、付き合っているうちに彼氏が板についてくることもあるのでは、と考え付き合ってみることにした。
 が、私には不相応だった。難しすぎた。二人でいると、楽しいより恥ずかしいが先にきた。いや、楽しかったのだ。しかし私が、二人の世界に集中することができなかった。そのうち、彼女との関係はぎくしゃくし始めた。

 その日、彼女は手を繋ぎたがった。私は、のらりくらりと逃げ回った。  時々すれちがう、同級生たちの目が気になって仕方がなかった。
 明るいところではどうしてもだめなので、彼女を家まで送る帰り道、罪滅ぼしのように手を繋いだ。二人でただ手を繋いでいた。
 家に着くと、玄関の前で、彼女が私の方を向いた。小さな声で「ありがとう」と呟き、満足した笑顔を見せた。暗くて何も見えなかったはずなのだが、彼女の笑顔の愛くるしさだけは、今でも脳裏に刻まれている。

 それはありふれた初恋だった。しばらくして僕らは別れた。しかしその割に、痛みや傷の痕は残っていない。そういう意味でも、ありふれた初恋だった。

 翌年、高校生になった私の隣には、違う女の子が歩いていた。少し変わった子だった。

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