鯖の味噌煮

わたしは一体あと何百何千回自分のために食事を拵えてそれを食して皿を洗うのだろう。一週間前にまとめて煮こんで冷凍していた最後の鯖の味噌煮を電子レンジで温めて美味しくいただいた残骸がこびりついた皿をひとつ199円の赤いスポンジで擦りながらふとそんなことを思った。わけもわからず気がつけば入り込んでいたこの「自分」という肉のかたまりが今日も服を着て歩いて他の肉たちにあいさつしたり仕事をしたりたまに愛しあったりしているのだからなんだか可笑しい。そしてまあ何事もなければこのまま、すくなくとも三十年くらいはなんとなく「自分」を続けていく可能性が高い、というか一応みんなその前提で毎日を過ごしているわけじゃない、明日も自分が生きているという前提のもとに牛乳を買い、賞味期限の長い納豆を選んで、頁の多い本を買う。それはまあ当たり前と言って仕舞えばそれまでなんだけれど、そうとも言い切れなくって、だって誰にだって今この瞬間部屋にダンプカーが突っ込んできて死んでしまう可能性は等しくあるわけだし、急に地が割れて雷が降り注いで人間みんな死んでしまったって別に文句は言えないわけだ。だってなにも確かなことなんてなくて、全て移りゆくことだってみんなわかっていて、そもそも星の寿命からしたら我々のたかだか百年そこらの人生なんて本当にちっぽけで星の瞬き。そんなものに四苦八苦して泣いたり笑ったりもう消えたいなんて夜を過ごしたり莫迦莫迦しいけどやっぱり目先の悲しみや不安は消えないわけで。今日も今日とて水道料金の取立て書を握りしめてギリギリの今月のやりくりと欲しかったあれとツレないあの子と増える体重とできてたニキビとなんやかんやで悪くないじゃん、自分って思える日を一つずつ増やしたいだけなのになあ。

#日記 #エッセイ #創作 #小説 #生活

本を買います。たまにおいしいものも食べます。