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BTSとK-POPから学ぶサービスデザイン

こんにちは、SOMPO Digital LabデザインチームのUIデザイナー・プロダクトデザイナーの金(https://twitter.com/seikei_kin )です。
少女時代やKARA、最近はNewJeansまで、K-POPの世界的な人気は止まることを知りません。その中でも近年最も成功したグループといえば、BTSが挙げられるでしょう。ちなみに改めてBTSとはどんなグループかというと…….、きちんと解説すると長くなるので、ここは最近話題のGoogle Bardさんに要約をお願いしてみることにします。

Google BardにBTSについて聞いてみた

BTSの凄さ・偉大さ・人気ぶりを踏まえた上で、ではなぜK-POP並びにBTSはこのような世界的な成功を収めることができたのでしょうか?そこにはアーティスト本人の魅力とは別に、ユーザーがそのコンテンツを楽しむことのできる優れたサービス設計・体験価値向上のための仕掛けがあるように思います。今回の記事ではそんなサービスデザインの観点からBTSやK-POPの魅力を解説してみたいと思います。

デジタル化の成熟

90年代後半から、韓国では国の政策としてインターネット関連のインフラ整備の推進がされてきました。同時に様々な音楽・EC関連のプラットフォーム・サービスの普及が進み、ユーザーのネットリテラシーも非常に高い状態です。
例えば電子決済についてみてみると、最新の調査では韓国は93.6%・中国は83.0%と高い普及率になっており、日常的にはもはやほとんど現金を必要としない生活のようです(ちなみに日本は3割以下の普及にとどまっています)。

一般社団法人キャッシュレス推進協議会より抜粋

電子決済以外にも捺印制度や各種保険・金融などの手続きでもデジタル化が進んでおり、この状況はグローバルなストリーミングサービスやSNSを主戦場とするK-POPの躍進において大きな役割を果たしているといえます。

バリアフリーなコンテンツ

K-POPのコンテンツにはお金・時間・距離・言語・制約の5つの「バリアフリー」がある、と言われています。

平たく言うと、ユーザーはいつでもどこでも無料でアーティストの動画や番組をネット上で楽しむことができ(お金・時間)、PVやミュージックビデオ(MV)も海外からの視聴が可能で(制約)、アーティスト公式サイドが提供する字幕以外にも「ファンサブ(=ファンが自主的につける字幕)」が認められており、韓国語が分からないユーザーへの配慮もなされています。(言語)。一方、YouTubeなどで配信されている日本人アーティストのMVは、まだまだ海外からのアクセスでは見られないものも多いのが現状です。
このようにユーザーにとってインターネットさえあればコンテンツに容易にアクセスできる環境が整っているのも、世界中でK-POPが広く楽しまれている要因と言えるでしょう。

規制の緩さ

K-POPは伝統的・慣例的に著作権について寛容である傾向にあるようです。先程のように自主的に動画の字幕をつけてくれるユーザー以外にも、「ホームページマスター」と呼ばれる、ライブや会場入りの様子を自ら撮影・加工した上でその写真や動画を私設ファンサイトにアップするユーザーもいます。また、ファン同士がお金を集めて出資し、駅やバス停や屋外ビジョンに応援するアイドルの広告を出稿する「お誕生日広告」「応援広告」なども盛んに行われています。

当然これらの行為は著作権的にはグレーなところもありますが、こういった自主字幕やホームページマスターによる撮影、ファンアートなどのコンテンツの二次利用がアーティストのプロモーションに繋がっていることも否めず、事務所側もある程度暗黙の了解で成り立っているのも事実のようです。
もちろん、明確に著作権侵害に当たるケースもあり、マネジメント側も全て放置しているわけではなく法整備もなされているようですが、ファン自らがアイドルの広報担当となってオンライン・オフライン問わずアクティブに情報発信することを抑圧するのではなく許容してきたカルチャーは、K-POPの普及の一翼を担っているといえそうです。

SNSとハッシュタグの活用

K-POPはSNSを巧みにプロモーションに使っています。BTSも同様で、アメリカ3大音楽授賞式の一つ、ビルボード・ミュージック・アワードではトップソーシャルアーティストを4年連続で受賞しました。

特にTwitterのBTSに関連するハッシュタグは、たびたび世界中でトレンド入りするなど注目度も高く、テレビや雑誌などのマスメディアよりも先にSNS上でスピーディにニュースがシェアされる現代において、非常に有効な宣伝手段といえます。
BTSのファンは、アルバムのリリースや授賞式やトークショー、メンバーの誕生日など、その活動にまつわる多くの事柄にハッシュタグを作り発信しますが、興味深いのは、一見関係ないようなハッシュタグのツイートにBTSについて書かれていることも時々あることです。例えば「#MondayMotivation」というハッシュタグのツイートには、月曜に会社や学校に行きたくない症状を克服する方法として、曲のURLを記載する形でBTSの歌を薦めたりしています。
このように単純な宣伝効果ではなく、多角的な観点から露出を増やすよう戦略的に展開されているのが彼らのハッシュタグ活動の特徴と言えます。

政治的・社会的な活動

その多くがラブソングの域を出ない日本のアイドルの楽曲とは少し異なり、BTSの曲の歌詞は社会的なメッセージも多く含んでいます。メンバー自身も曲作りに関わっているその内容には、家族との確執や社会的差別や偏見への反抗、アイデンティティーの喪失と確立といった、思春期の若者が抱えるテーマが多く込められています。同じような生きづらさを感じている世界中のBTSのファンはそこに自身の姿を重ねて共感し、BTSは一人一人のファンにとってパーソナルな価値をもった存在であろうとしています。
また、彼らは国連総会でスピーチしたりLGBTQの権利について発信したり、Black Lives Matter(BLM、「黒人の命は重要」)支援に100万ドル(約1億円)を寄付したりと、リアルな社会活動も積極的に行なっています。

その活動はファンにも普及し、チャリティ運動が草の根的に広がるなど、社会に大きな影響力をもたらしています。

クリエイティブなCDデザイン

現在のストリーミング全盛の時代においても、BTSはCDの売り上げも好調です。CDにはメンバーのフォトカードが入っていたりバージョン違いがあったりと、ノベルティグッズとしての役割は日本のアイドルグループと変わらないところもありますが、特筆すべきはそのモノとしてのクリエイティブ力でしょう。彼らのCDパッケージは特殊印刷・特殊加工が施されたリッチなものだったり、ビジュアルもアイドルの一般的なイメージを覆すクールでシックなものだったりと、アートとして優れた作品になっています。

また、パッケージ自体にも開けるためにシールを剝がしたり上蓋を開けたりスリーブを外したりと凝った工夫が施され、その開封体験もSNS上で拡散されています。
デザインや仕組みなど様々なアプローチでCDというメディアの新たな体験を再定義しているのも、BTSの優れたメディア戦略といえます。

組織化したファンダム

BTSのファンは「ARMY」と呼ばれ、その集団(ファンダム)は組織化が進んでいます。例えばアーティストが音楽番組でチャート1位を獲得するために、その楽曲をYouTubeなど何度も再生をして順位が上がるようにする行為は「スミン」と呼ばれますが、「スミン」は各人で呼びかけ合いながら交代制で行うなど、同時多発的に集団連携しているようです。
その他にもBTSには「BTSx50STATES」という存在があります。これは全米のARMYによって構成された集団であり、全員がボランティアとして無償で働きながら、HR、デザイン、リサーチ、広報などの部署も存在する、ちょっとした会社のような組織です。

BTSx50STATESはSNSでの拡散活動はもちろん、地元のラジオ局へのリクエスト活動やオリジナルグッズの自主製作までを、まったくの無償で行っています(曲を流したDJにはプレゼントまでしたり)。
このようにもはや彼らの活動は一個人の推し行為を超え、アーティストの売り上げ・活動を左右するような影響力を保持しています。

まとめ

以上、BTSならびにK-POP周辺のサービス設計について分析してみました。もちろん彼らの人気はまずはその実力・努力・ルックス・パフォーマンスによるところが大きいのですが、取り巻く施策や状況を分析してみると、様々な形で「応援しやすさ」「自分ごとしやすさ」がサービス体験の中に設計されているように思います。
デジタル化を背景にした場所や金額や言語の壁を取り払うアクセシブルなコンテンツ、それぞれのパーソナリティによりそう多様性、推し活動を効率的・効果的に行える施策・組織・風土。そこには一人一人の応援したい気持ちやその人ならではのスキルに報い応えることのできる多様さ・柔軟さがあります。
BTSほどの世界的なグループのコンテンツとなるとどこか遠い存在ではありますが、こうして分解してみると、サービスを企画したりユーザー体験をデザインする上で、我々の参考になるところも多くあるように思います。

参考文献




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