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まずは試しにやってみよう、初めてのUXリサーチ!

ご無沙汰しています。SOMPOの片山です。
新規サービス開発で、PdMやUXデザイナーとして働いています。

UXリサーチって難しかったり、お金がないとできないイメージがあったりしますか?

実際はそんなことはないです。最低限気をつけることを気をつけて行えば、自前で行ってもかなり有益なことを得られます。
何よりも、まずは小さく早くリサーチをやってみてユーザーを知り、それをサービス開発に反映する。というサイクルを回し始めることが大切です。

そこで、今回はUXリサーチャーが居なくても手弁当でサクッとできるUXリサーチについて書きました。併せてUXリサーチで気をつけたいバイアスについても触れています。お読みいただけると嬉しいです。

UXリサーチのステップ

UXリサーチのざっくりステップは下記のようになります。

  1. リサーチ目的を決める

  2. リサーチ手法を決める

  3. リサーチ後の意思決定基準を決める

  4. リサーチを設計する

    1. インタビュー対象者の条件と人数(手法としてインタビューを選んだ場合)

    2. リサーチ確認項目の整理とインタビューフロー作成

  5. リサーチ対象者を集める

  6. リサーチを行う

  7. リサーチ結果を分析する

  8. 意思決定し、次に進む

UXリサーチをやってみましょう

1.リサーチ目的を決める

AIを活用した住宅購入コンシェルジェサービス」を企画しているとしましょう。
メンバーの内発的な想い(自身の経験や課題感など)とデスクリサーチ(インターネットや書籍等で調べられる範囲内の簡易的なリサーチ)をもとにサービスを企画し、ある程度のカタチになってきました。「サービス対象ユーザーの課題とそれを解消する手段が整理され、価値仮説が出来上がっている状態。サービスランディングページ(LP)に記載するコンテンツがおよそ決まってきている状態。」とイメージしてみてください。

ここまで来ると、このサービスはユーザーに響くのかが気になり始めるはずです。企画継続の判断も含め、その受容性を確認しましょう。
「企画したサービスを対象ユーザーが利用したいと思ってくれるかを明確にし、次の企画ステップに進むかどうかを判断する」これを今回のnoteでのUXリサーチの目的としましょう。


2.リサーチ手法を決める

探索と検証

UXリサーチには探索リサーチと検証リサーチがあります。探索リサーチとは、解決すべき課題を探すためのリサーチです。検証リサーチとは、課題の解決策として作ったものに価値があるかを調べるためのリサーチとなります。
今回のケースでは探索はデスクリサーチで簡易的に行い、それから作り上げた価値仮説を検証するためにUXリサーチを行います。

定量リサーチと定性リサーチ


定量リサーチは、客観的な事実の把握が得意です。事実は何かしらの指標に置き換えて計測することが可能です。また指標化してしまえば解釈しやすくなります。そのため、定量リサーチは幅広く行われています。
しかし、なかなか指標に置き換えにくいものがあります。それは人間の内面(思考や行動の理由)です。

  • なぜ、お金を払ってでもこのサービスを利用したいと思ったのか?

  • なぜ、新規追加したこの機能は利用されていないのか?

これらを明らかにするのに適するのが、定性リサーチです。
対象者と直接会い、深く対話し観察することで、彼らの行動とその理由を明らかにすることができます。(尚、昨今はオンラインツールも普及したため、オンラインリサーチでも十分な効果を得られます。)

今回は、新サービスに価値があるのかを確認したいので、定性リサーチを行います。
サービスをユーザーに正しく理解してもらったうえで、価値を感じてもらえるかどうか、その理由は何か、を深掘りするには、対象者と深く対話できる定性調査が適しています。とくにマーケットに類似サービスが存在しない新しいサービスの場合は尚更です。

リサーチの方法としては、サービスLPのプロトタイプを作成し、それをリサーチ対象者に見てもらいながらインタビューを行い話を深掘りしていくことにしました。
インターネット調査でも画像や動画を見せながら検証できないこともないですが、ユーザーが評価した理由やその背後にある文脈などを見極めるのは難しいです。ですので、企画初期段階では定性リサーチを行うことがおすすめです。
また、定性調査だとN数が少ないので不安になることもあると思います。その場合はユーザーに価値が受容されたことを確認した後に、定量調査でその価値を感じる人が世の中にどれくらいいるかを見ていきましょう。


3.リサーチ後の意思決定基準を決める

事前に、リサーチ完了後の判断基準を決めましょう。
例えば10名にインタビューを行い、価値を認めてくれた方が3名以上いれば企画継続。そうでなければピボットか撤退する。というような判断基準を決裁者やサービス開発責任者との間で明確にしておいてください。

というのも、リサーチ後に意思決定する際に「サンクコスト効果」などのバイアスが働き、自分に都合の良い情報のみの取得や解釈、判断をしがちですので「意思決定の基準」はしっかり決めておくのが良いです。

意思決定の基準はリサーチ目的により様々です。本noteのような価値仮説の検証、企画初期段階での探索的なインサイト抽出、既存プロダクトの新機能ユーザビリティ検証など、様々な場面でUXリサーチは行われます。リサーチ内容により、必要な対象者N数や対象者一人の重さも変わります。

例えば、世の中に類似サービスが存在しない新しいコンセプトのサービスであれば、10人中1人が熱狂的なファンになってくれたとすれば、そのサービス企画は続けるべきと判断しても良いと思います。
逆に、既存プロダクトに導入する新決済機能のユーザビリティ検証だとすれば、5人中5人が操作をスムーズにできない限り、機能リリースを見送るという判断もあり得ます。

リサーチ目的に立ち返って、最適な意思決定基準を定めましょう。


4.リサーチ設計をする

今回のリサーチでは、新サービスの概要をまとめたLPのプロトタイプを作り込み、それを対象者にPCで見てもらいながら深く話を聞いていき、受容性を確認します。

インタビュー対象者の条件と人数

対象者条件=予め設定しておいた、このサービスのペルソナの特徴と考えて大丈夫です。
ペルソナについては深くは触れませんが、思考特性と行動特性、抱える課題についてはしっかりと検討し記載しましょう。併せて、今回は住宅購入に関するサービスですので、年齢や家族構成、年収などのデモグラも記載します。

AIを活用した住宅購入コンシェルジェサービス」ですと下記のような思考特性、行動特性をもっている人がインタビューの対象となってくるでしょう。
・住宅の購入を検討しているが、マンションor戸建、新築or中古、住宅ローン種別など、考慮することが多すぎてなかなか決めきれずにいる(住宅購入検討に課題意識がある)
・1年以内に物件の資料請求か物件内覧を行ったことがある(検討しているだけではなく具体的な行動を起こしている)

デモグラについては、仮に初期のサービス展開を東京首都圏で展開するとした場合に、東京首都圏で家を買っている人々の年代、家族構成、年収、はデスクリサーチでざっくりと把握可能ですので、それを対象者条件としましょう。
・20代後半〜40代前半
・共働き子育てファミリー
・世帯年収は900〜1500万円
・一都三県在住

対象者数は10名とします。人数に正解はありませんが、定性リサーチでの受容性調査の場合は1セグメントに対して少なくとも5人はリサーチしたいところです。今回はゆとりを持って10人とします。

リサーチ確認項目の整理とインタビューフロー作成

確認したい項目を整理し、リサーチの骨子を作成します。それをインタビューの中でスムーズに確認できるようにインタビューフローに落とし込みます。

その過程では確証バイアスに気を付けてください。確証バイアスとは、仮説等を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことです。

インタビューでも仮説に対して都合の良いことばかりを集めてしまわないように、全ての対象者に対して確認項目を同じカタチで確認するために、しっかりとインタビューフローを作成しましょう。確認項目全てを確認した後に、気になる箇所を深掘りしていくことは問題ないです。むしろどんどん深掘るのが良いです。

参考:インタビューフロー

5.リサーチ対象者を集める

次に、対象者集め(リクルーティング)を行います。
対象者がこちらが聞きたいことへの回答を持っていないと調査として厳しくなりますので、対象者のリクルーティングはできるだけ丁寧に行いましょう。

予算と時間があれば、対象者条件に合致した方を集めるために、リクルーティングは調査会社にお願いするのが良いです。リクルーティングの難易度にもよりますが、10名の対象者ですと、予算は50万円程度から、期間は依頼から3週間程度で行うことができます。

またオンラインリクルーティングサービスも普及してきていますので、そちらを利用するのも良いと思います。調査会社よりもコストを抑えることも可能です。

それができない場合は同僚や知人から探しても良いです。その場合でも最低限の対象者条件は守るようにしましょう。
調査会社を利用しない場合は、すぐに声を聞くことができるユーザーさんや潜在ユーザーさんと関係を築いておくことも重要です。私も過去にSaaSプロダクトを担当していた際は、すぐに話を聞くことができるユーザーさん数名との関係を常に持っていました。


6.リサーチを行う

インタビューを行う

まずはインタビューフロー通りに確認項目を全て確認し、その後にサービス開発にとってキーとなりそうなトピックを深掘りしていきましょう。その中で下記の点に気を付けてください。

  • 対象者が、質問者が答えて欲しい内容を察して、それに合わせて回答してしまうことが多々あります。「社会的望ましさのバイアス」が働いている状態です。それを避けるために、調査会社スタッフやサービス企画に関わっていないリサーチ専属スタッフのふりをするなどして、できるだけ率直な意見を言ってもらうように努めましょう。

  • イエス/ノーではなく、オープンに聞いていきましょう。イエス/ノーで聞いてしまうと、そこで回答が終了してしまい、背景に潜んだ貴重な情報を得る機会を失ってしまいます。

  • いきなり「このサービスを利用したいと思いますか?」のように聞くと利用したいという方向への回答を誘導してしまう可能性があります。まずは「このサービスをどう思いますか?印象はいかがですか?」とフラットに聞いてみましょう。そして5W1Hを意識しながら、その理由を深掘りしていきましょう。

  • 「〜な人にとっては良いと思います。」「〜な人なら使うと思います。」と言うような回答をされる場合がありますが、これらはあくまで想像ですので妥当性が怪しいです。対象者本人の経験と判断に基づいた事実を答えてもらいましょう。

発言録とメモを取る

発言録とは文字通り、対象者の発言を記録したものです。発言録の役割は偏りのないローデータですので、まとめずにありのままを記録するようにしましょう。

分析に重要なものですので、予算に余裕がある場合は発言録を調査会社に発注しましょう。最近ではWhisperなど無料の書き起こしAIもあるので、利用してみるのも良いと思います。

メンバーの個人メモの場合は、気になった部分をメモする程度でも大丈夫です。しかしバイアスが働き自分にとって都合のいいことが印象に残りやすいと言う点は、心に留めておきましょう。

インタビューをオンラインで行う場合は、メモ用のmiroを用意しておいてリアルタイムで複数の参加者でメモを取っていくと効率が良いです。

参考:リサーチメモのmiro。黄色:対象者発言、青:気づき、緑:その他、というルールでメモしています

デブリーフィングを行う

デブリーフィングとは各リサーチセッション終了後に、リサーチ参加メンバー(モデレーター、記録担当、見学者など)で行う、振り返りのショートMTGです。必ず複数人で行いましょう。
リサーチで得た情報を頭に定着させることが目的であり、分析が目的ではありません。

確証バイアス(都合の良い情報だけ取得する)、プライマシーバイアス(最初に得た情報が印象に残る)、親近性バイアス(最後に得た情報が印象に残る)を避けるために、まずはそのセッションで各自が印象に残ったことを挙げていきましょう。メンバーが4人程度いればセッション全体に対して偏りなく振り返れるはずです。
併せて、時間配分やインタビュアーの聞き方などインタビューがうまくいったかの確認も行い、必要に応じてインタビューフローや聞き方を修正しましょう。


7.リサーチ結果を分析する

分析のゴールはケースバイケースですが、このnoteのケースでは「サービスの提供価値をユーザーに感じてもらえた/もらえなかったかの確認。その理由の深掘り。結果がNGだった場合は、何をどうすればそれがOKになるかの対処策の方向性が見出せていること。」としましょう。

KJ法やKA法など定性リサーチの分析手法はいくつかありますが、詳細はここでは触れません。(基本的には背景(原因・理由)>判断>行動を構造化できれば、定性分析は上手くいきます。分析ではこの階層(抽象度)を行ったり来たりしながら進めることがポイントです。)

ここでは分析の際に悪さをしやすいバイアスを回避し、偏りなく分析するポイントに焦点を当てます。
定性リサーチでは取得する情報量が多いですし、期間も長くなることが多いです。そのため、いざ分析を始めるときに「バンドワゴン効果(他者に流されて自分の意見を言えない)」「アベイラビリティバイアス(身近なところにある情報を利用しがちになる)」や「確証バイアス(自分に都合の良い情報のみを扱い、都合の悪い情報を捨ててしまう)」が働きやすいです。それをできるだけ回避するために、下記のように対応しましょう。

バンドワゴン効果に対して:

  • メンバーで分析する前に、参加者に自分の所感や考えを記録しておいてもらい、事前に共有フォルダ等にアップしてもらいましょう。そして分析参加者はそれに事前に目を通しましょう。口頭では主張が難しくても、テキストだと案外主張できたりします。

アベイラビリティバイアス、確証バイアスに対して:

  • 分析は複数人で行い、他者の目を持ってバイアスを避けましょう。

  • 取得した情報や写真などを分析作業ルームの壁やmiroに貼り付け、全体の情報を把握しやすいようにしましょう。

  • 分析対象の情報を直近の対象者のもの、または記憶が鮮明で印象が強いものに絞り込まず、リサーチ対象者全員のファクトをフラットに分析するようにしましょう。分析開始前に発言録を必ず一読する、などをルール化してしまうことがおすすめです。

  • 発言録から最終アウトプットにかけて、徐々に抽象度を上げながら可視化していきましょう。疑問や悩みが出てきたら発言録まで立ち戻ることを心がけましょう。

参考:課題分析のmiro。ユーザーフローに沿って、青:課題、赤:とくに重要度が大きい課題、と整理しています。

8.意思決定して、次に進む

リサーチ前に決めた意思決定基準に沿って、意思決定を行います。本noteのリサーチ例では「新サービス企画の検討を継続するかどうか」の意思決定になります。

リサーチ分析結果、価値仮説が正しかった場合は自信を持って次の企画フェーズに進みましょう。きっとチームの士気も爆上がりでしょう。

結果が悪かった場合は、しっかりと受け止めてピボットや撤退も含めて次の動きを決めましょう。そのような状況だと、サンクコスト効果(回収不能となったコストを残念に思い、さらに多くのコストをかけてしまう傾向)に気を付けましょう。かけてきたコストが大きいほどバイアスも大きくなり「もう後には引けないじゃん」状態に陥りがちです。これに対してはリサーチの結果に応じて鉄の心で判断していくしかないと思っています。また、新規サービスの場合はコストをかけすぎずに早い段階で受容性の検証を行うことも大切と感じています。

併せて、有意義なUXリサーチを根付かせるためには、失敗を許容し失敗から学びを得ることをよしとする組織文化の醸成が必要と感じています。そうなっていけば、新規サービス開発の成功確率や既存サービスの成長確率も上がってくると思っています。


あとがき

このnoteではUXリサーチのステップについてまとめてみました。少しでも皆さんの業務のお役に立てば嬉しいです。
私もまだまだ経験が足りず、いまいちなリサーチをしてしまうこともあります。今後も鍛練していきたいと思っています。


参考: